【ルイスと不思議の時計】ルイスが引き取られたおじさんの家は、不思議な時を刻む家。【ルイスと不思議の時計 1】【小学校中学年以上】
親を失った10歳のルイスは、ジョナサンおじさんの家に引き取られました。おじさんは、実は、へっぽこ魔術師。そして、その家は、時計の音のする不思議な家。その家には実は秘密があって、ルイスはその秘密に巻き込まれてしまうのです……
この本のイメージ 魔法☆☆☆☆☆ 冒険☆☆☆☆☆ 家族愛☆☆☆☆☆
ルイスと不思議の時計 ルイスと不思議の時計1 ジョン・べレアーズ/作 三辺律子/訳 静山社ペガサス文庫
<ジョン・べレアーズ>
ジョン・ベレアーズ(John Anthony Bellairs、1938年1月17日 – 1991年3月8日)は、アメリカの小説家。児童向けのファンタジー小説を得意とした。代表作として『霜のなかの顔』、「ルイスと魔法使い協会」シリーズ、「ジョニー・ディクソン」シリーズなど。
ある日突然、両親を交通事故で失ったルイスは、ミシガン州のおじさんの家に引き取られました。
ルイスの不安とは裏腹に、このジョナサンおじさん、とびきり愛情深くてやさしいおじさんでした。
不安でいっぱいだったルイスは、あっという間にこの愉快なおじさんに打ち解けます。お隣のツィマーマン夫人は、お菓子つくりが大得意で、いつも遊びに来てくれる、やさしくて頼りになる人。
ところがこの二人、おじさんはへっぽこ魔法使いで、ツィマーマン夫人は腕利き魔女だったのです。
楽しくて不思議な新生活にルイスは夢中になります。けれど、新しい友達、タービーと仲良くなったことで、ルイスはこの不思議な館の秘密に巻き込まれてしまうのです……
それは、ジョナサンおじさんが館を買う前の持ち主、アイザック・アイザードがかけた黒魔術でした。そんなつもりもなく、暗黒の魔術の手伝いをしてしまったルイス。このおそろしい魔法を解くことはできるのでしょうか。
と、言うのがあらすじ。
2018年に「ルイスと不思議の時計」として映画化されています。
とにかく、ジョナサンおじさんとツィマーマン夫人のルイスに対する愛情が、海より深い。
自分の息子でもない子どもに、ここまでの愛情を注げる人って、なかなかいないんじゃないでしょうか。
この二人、表面的にはそれほどべたべたしませんが、いつも孤独なルイスのことを気にかけ、明るく楽しく生活させてあげようと一生懸命なのです。
ルイスが魔法に興味を持っても嫌がらず丁寧に教えてくれるし、魔法をみせて欲しいといわれれば、あんまり得意じゃない魔法も全力でやってくれる、ジョナサンおじさん。
いきなりやってきた甥っこのためにここまでやるおじさんもすごいけれど、ただのお隣さんなのに、ジョナサンのすることにいちいち付き合っているツィマーマン夫人も、クールに見えて情の深い人です。ルイスの学校での立場の変化をいち早く気がついたのも、このツィマーマン夫人なのですが、それって普段からルイスのことを気にかけてあげていたってことですもんね。
この、愉快でやさしい二人と、ルイスのでこぼこトリオが、ジョナサンおじさんの館にかけられていた黒魔術と戦うお話です。
実は、問題を大きくしてしまったのは、ルイスでした。
学校の人気者、タービーと友達になれたうれしさで、タービーをびっくりさせようと、してはいけないことをしてしまったのがことのはじまり。ありがちな過ちなのですが、このあたりの葛藤は子どもらしく、けれども真剣で、そして、それを責めないで、みんなで解決しようとしてくれるジョナサンおじさんとツィマーマン夫人の父性愛、母性愛にぐっとくるのです。
この事件がどんな事件で、どうやって解決するのかは、読んでみてのお楽しみ。
ラストは、ルイスに新しい友達ができ、それがルイスにはぴったりの最高にクールな(?)オタクの友達で、めでたしめでたし、というお話です。
徹頭徹尾、「不思議で」「おかしくて」「ふつうではない」「はみ出し者の」人たちが、全力肯定で描かれています。自分たちの好きなことを恥じる事はない、そのまままっすぐでいいのさ、と言うメッセージがストレートに飛び込んできます。
おそらく、なのですが、キリスト教圏において「魔法使いもの」というジャンルは、我々日本人とは違う味わいをもって受け止められているようです。「魔法」と言うのは、「アンチ・キリスト」の意味が含まれます。
日本では、キリスト教徒が約1%と少ないので、そういう感覚になじみがないのですが、大多数の人がキリスト教徒の世界で「魔法使い」と言うと、ちょっと不良と言うか、「ふつうではない」と言うイメージが加わるようです。
ファンタジー系の創作の世界では、既成概念に囚われないとか、型にはまらないとか、そういうものの象徴として描かれることが多いのです。
ルイスは内向的で本好きの、孤独な男の子です。
学園の人気者、野球チームのスタープレイヤー、タービーと偶然仲良くなれて、ルイスは有頂天になっていました。でも、実は、タービーはあんまりいい奴ではなかったのです。
ルイスはたくさん失敗したけれど、最後は自分にぴったりの友達と仲良くなります。彼は、今回の冒険を通じて、自分の過ちをみとめて精神的にひと周りもふた周りも成長しました。しかし大切なことは、ルイスが無理をして「自分ではない者」になろうとはしなかったことです。
それは、ジョナサンおじさんとツィマーマン夫人がいてくれたから。
自分をちゃんと肯定できたら、自分を殺さなくても、好きなものを捨てなくても、自分のよさを生かして成長して行ける。そして、ちゃんと自分のよさを認めてくれる友達ができるのです。
本好きで、不思議大好きな男の子への、頼もしいメッセージです
字は大きくて、文章は平易で読みやすく、自分で読むなら小学校中学年から。読み聞かせなら、もっと小さいお子さまでも大丈夫です。映画の出来がかなりいいので、読み終わったら、家族で映画を見るのもおすすめです。
※単行本版のほうが装丁がしっかりしていておすすめなのですが、文庫版のほうが入手しやすいようです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
黒魔術など、おどろおどろしい設定はありますが、残酷シーンはなく、それほどネガティブなイメージがありません。問題なく楽しめると思います。ジョナサンおじさんとツィマーマン夫人の夫婦漫才が楽しい。
ツィマーマン夫人のお料理がとてもおいしそうなので、読んでいるとおなかがすくかもしれません。
読後には、チョコチップクッキーと、ミルク、またはココアをご用意くださいね。
最近のコメント