【ニルスのふしぎな旅】スウェーデンが生んだ児童文学の名作。小さくなった少年がガチョウに乗って大冒険。【小学校中学年以上】
いたずらばかりしている悪い子のニルスは、ある日、虫取り網でつかまえた小人の仕返しで、小人にされてしまいます。悲しんだニルスは、渡り鳥と一緒にガチョウのモルテンの背に乗って、ラップランドへの旅に出ることに。
この本のイメージ 冒険☆☆☆☆☆ 教訓☆☆☆☆ スウェーデン一周旅行☆☆☆☆☆
ニルスのふしぎな旅 上下 セルマ・ラーゲルレーヴ/作 菱木晃子/訳 福音館古典童話シリーズ
子どもの頃に読んだ「ニルス」を改めて全部読み直しました。作品の力がガツンと響く古典名作です。過去にアニメーション化されたこともあり、ご存知の方も多いと思います。主題歌がタケカワユキヒデ作曲の名曲でした。
福音館から、人も殺せる厚さの全訳版上下巻が出ています。(若いときに流行った本の分厚さの比喩)もちろん、本で人を殴っちゃいけません。枕にもなりそうな厚さです。でも枕にもしちゃいけません。(ちなみに、分厚さランキングは 立ち読みできない<電車で読めない<枕に出来る<人も殺せる )
家つきの小人トムテを虫取り網で捕まえて、虐待しようとした仕返しに、小人にされてしまったニルスの、ガチョウに乗った不思議な旅の記録です。
小さなエピソードのオムニバスで、それぞれのお話すべてに日付が書いてあるので、ニルスの旅の記録の形になっています。日付は3月20日から始まって11月9日まで。8か月の冒険の記録です。
すべてのエピソードが絡み合って進む、多重構造をした作品のため、全訳版をお読みになることをおすすめいたします。さすがの名作です。
おとぎ話のような話から、幻想文学みたいな話や、教会の説話みたいな話、知育的な話など、さまざまな物語が詰まっている一大巨編です。スウェーデンの子どもはこれを読むと自分の国のことがかなり詳しくわかるようになっており、読み終わるとスウェーデンを一周した気分になります。これは本当にすごい。
ドブネズミとの戦いはおとぎ話風ですし、キツネとの戦いは少年漫画風。幻想的な「ふたつの町」の話は、萩尾望都の短編ファンタジーのようです。
リスの子どもを助ける話は、とてもかわいくて、子ども心にきっと残るはず。
ニルスを旅の仲間として受け入れたガンのリーダー、老ガン、アッカは愛情深く彼の面倒を見てくれます。仲間のガンたちや親友モルテンに支えられて、ニルスは少しずつ成長していきます。
下巻には、当時スウェーデンで猛威をふるった結核の描写が出ています。昔は肺の病と言えば結核でした。
対策として、家を清潔に保つとか、身体を綺麗に洗う、手を洗うなどは、いまでも同じだと思います。ここには、ニルスと深いかかわりのあるオーサとマッツという姉弟の長い物語が入っています。この二人のエピソードはかなり重いので、もしかしたら、読みきれないお子様もいるかもしません。
どうしようもない、悪い子だったニルスは、旅が終わるときには愛情深い心優しい少年になっていました。母親のようだったアッカとの別れを経て、ニルスはふつうの人間の少年に戻ることができました。
困難を乗り越えることで大きく成長する、正統派の名作です。
小さなエピソードの連続なので、毎日少しずつ読み聞かせをするのにも最適。読んでいるうちに、様々なことを学べ、物語が終わったときには、自分自身も長い長い旅から帰ったような気持ちになる物語です。
裏表紙裏には、スウェーデンの地図とニルスの旅ルートが書かれていますので、地図を見ながらニルスの空の旅を確認してみてください。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
結核で家族がどんどん死んでしまうオーサとマッツの姉弟の物語が含まれています。かなり重苦しいエピソードですので、ご注意ください。繊細なお子様にお与えになる場合は、まず大人がお読みになって確認してみてください。
「そういう話があるのだな」と前もって知っていれば大丈夫な方には、おすすめです。教訓的な話も多く、読み聞かせにも最適な童話です。
また、講談社青い鳥文庫から、軽めの抄訳版が出ています。全訳版がボリュームがありすぎる場合は、こちらを。
温かい紅茶かハーブティとともに、休日の午後にじっくり読んでみてくださいね。
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