【山賊のむすめローニャ】ふたつの一族をつなぐ、嵐の夜に生まれた森の娘の物語。【小学校中学年以上】
落雷で真っ二つに裂けた古城に、二組の山賊が住んでいました。片方の首領の娘ローニャと、もう一方の息子ビルクは仲良くなって、双方を仲直りさせようとします。
この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ サバイバル☆☆☆☆ 家族愛☆☆☆☆
山賊のむすめローニャ アストリッド・リンドグレーン/作 大塚勇三/訳 岩波少年文庫
<アストリッド・リンドグレーン> スウェーデン生まれ。小学校の先生や事務員をしながら数多くの作品を発表し続けた。国際アンデルセン賞受賞。作品に「長くつ下のピッピ」など。
「長ぐつ下のピッピ」で有名な、リンドグレーンのファンタジー小説です。本当は、このサイトでも「ピッピ」を紹介したいのですが、いまの現代っ子のみなさん、ピッピの荒唐無稽さを受け付けないかもしれないと思い、最初は、無難な「やかまし村」からご紹介してみました。
リンドグレーンの作品紹介の二作目は、「ローニャ」です。2014年に、スタジオジブリ宮崎吾郎監督でアニメ化されたようです。
灰色の小人や鳥女が棲む、架空の世界が舞台です。
嵐の夜に、山賊の首領の一人娘としてローニャは生まれました。
父、マッティスに溺愛されながらも、たくましく野生児として育ったローニャは、あるとき、根城にしていた裂けた古城の向こう側に住むボルカ一族の息子ビルクと仲良くなります。
対立するふたつの一族の娘と息子は、双方を仲良くさせようとしますが……という物語。
ローニャが底抜けに明るく、たくましく、ポジティブで強いです。ビルクのほうがすこし線が細い感じ。
この二人が、仲良くなりつつ、周囲の人たちを変えていく物語です。
お話の骨がしっかりしているので、安心してぐいぐい読んでいくことが出来ます。ローニャのキャラクターがとにかく魅力的で、そして、強い。あらゆる意味で強い。
リンドグレーンは元気な女の子を描くのに定評がある作家ですが、その中でもローニャは飛びぬけています。そして、その強さが、魅力です。
児童文学だからかもしれませんが、ローニャとビルクの関係にはあえて恋愛要素は入っていません、ふたりは互いを「きょうだい」と呼び、大親友になりますが、それは強いきょうだい愛のようなものとして描かれています。むしろ、周囲の大人たちのほうが、いずれ恋愛に発展すると危惧して騒ぐくらいで、本人たちにはそんな意識がひとつもなく描かれているのはわざとでしょう。
たしかに、荒っぽい二組の山賊たちを和解させるには、カップルの「恋の力」では弱すぎるかもしれません。そのあたりが、女流作家ならではのさじ加減だと感じます。
マッティスの一族と、ボルカの一族は二つに裂けた同じ城の片方ずつを根城にしています。ほとんど同じ環境で暮らしているのに、マッティスの一族は冬もおいしい食べ物を食べ豊かに暮らす反面、ボルカの一族は飢えてやせ衰えていきます。
このふたつの一族の大きな違いは、マッティスには、ロヴィスという薬草の知識に長けた妻と、スカッレ・ペールという老いた知恵袋がいたからでした。
ロヴィス母さんが本当に偉大で、どんな怪我も薬草でなおしてしまうし、食べ物の少ない季節にも保存食や料理の腕を駆使して、おいしいご飯を振舞ってくれる人なんです。この人が1人いるだけで、一族は健康的で文化的な暮らしができてるわけです。
ローニャが家出したときも、さりげなく力を貸してくれるのがロヴィス。そして、意地っ張りのマッティスの尻を叩くのもロヴィスでした。ムーミンママもそうですけど、北欧の女性の安定感ってなんかすごいですね。
そして、知恵袋のスカッレ・ペールが要所要所で知恵を出してくれるおかげで、様々な危険から身を守ることが出来、最後は、彼らは山賊をしないで生きていくこともできるようになります。 やっぱり持つべきものは人材です!女性と老人は大切にしましょう。(そこか!)
これ以上あらすじを書いてしまうと、読んだときの楽しみがなくなってしまうので、このあたりにしておきますが、ラストに向けて、たたんで行く流れが気持ちよく、すっきりと終わっているので、ポジティブな気持ちになりたいときにおすすめの児童文学です。
主人公が女の子ですが、男女関係なく楽しめると思います。スカッとしたいときにぜひどうぞ。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
荒くれ男たちの物語なので、むさくるしくて暴力的なところがあります。でも、凄惨ではないので、少年漫画が大丈夫な人なら、読めると思います。素朴なチーズやパンケーキ、温かいお茶をお供にぜひどうぞ。
最近のコメント