【失われたものたちの本】あの名作映画を生んだ、恐ろしくも奇妙なファンタジー。母を求める少年の冒険。【中学生以上】

2024年4月11日

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失われたものたちの本  ジョン・コナリー/作 田内志文/訳   創元推理文庫

母を亡くしたデイヴィッドは父親の再婚に伴い継母ローズと暮らし始める。彼女の家には本でいっぱいの古い部屋があり、その持ち主ジョナサンは突然行方知れずとなったと言う。ある日、デイヴィッドは死んだはずの母の声に誘われ奇妙な世界に足を踏み入れる。

この本のイメージ ホラー☆☆☆☆☆ ファンタジー☆☆☆☆☆ ビターハッピーエンド☆☆☆☆☆

失われたものたちの本  ジョン・コナリー/作 田内志文/訳   創元推理文庫

<ジョン・コナリー>
アイルランド出身ダブリン生まれの推理作家。 トリニティ・カレッジとダブリン・シティ大学でぶ。 2000年にシェイマス賞、2003年にバリー賞を受賞。

<田内志文>
田内 志文(たうち しもん、1974年4月15日 ~)は、翻訳家、文筆家、スヌーカープレイヤー。埼玉県出身。ベストセラー「Good Luck」、「新訳 フランケンシュタイン」「新訳 ジキルとハイド」「失われたものたちの本」などの翻訳で知られる。

 先日、異次元空間に封印されていたわたしですが、もう一度異次元にいかねばならないかもしれなくなってしまいました。まだ検査が残っているのですが、今年の夏は少しばたばたしています。

 さて、本日ご紹介するのはジョン・コナリーの「失われたものたちの本」。原題はThe Book of Lost Things.原書の初版は2006年。日本語版の初版は2015年です。

 今年公開されたスタジオジブリの映画「君たちはどう生きるか」の下敷きとなった小説と言われています。先日、ようやく映画も見てきました。

 あらすじは……

 第二次世界大戦下のイギリス。
 本が大好きな12歳のデイヴィッドは、最愛の母親を病気で亡くしてしまいます。
 父はローズと言う女性と再婚し、ローズの大きなお屋敷に引っ越しました。

 そこには、かつてジョナサンと言う男性が使っていた本だらけの部屋がありました。
 彼はある時、忽然と消えてしまったと言います。

 ある日、デイヴィッドは死んだはずの母の声に導かれて、奇妙な世界に足を踏み入れてしまいます。
 そこは、おとぎ話の登場人物や神話の怪物たちが蠢く、美しくも残酷な物語の世界。
 元の世界に戻るため『失われたものたちの本』が必要だと言うのですが……

 かなりホラー味の強い物語で、おとぎ話をベースにした王国の登場人物もダークでグロテスク。
 少年は次々と襲い来る試練に立ち向かい、乗り越えるたびに成長し強くなりますが、スカッとはせず、後味の悪さが残ります。

 明るく元気な冒険ファンタジーが読みたい人にはあまりおすすめできませんが、内容は面白く、ラストのどんでん返しも見事です。
 ハッピーエンドではありますが、少しビター。
 ダークファンタジーとせつないハッピーエンドが好きな方におすすめです。

 さて、今日はついでですが映画の感想も書いておきましょう。(あくまで個人の考察です)
 ここからはネタバレになりますので、大丈夫な方だけクリックしてください。

ここからネタバレ 平気な方だけクリック
 わたしにとって「君たちはどう生きるか」はかなり直球の児童文学だと感じました。少年少女向け冒険アニメーションではなく、児童文学をアニメーションで描いたという雰囲気です。
 もともと、「親子もの」に弱い私は「親子もの」と言うだけで得点が高くなってしまうので、ほかの方とはちょっと感想が違ってしまうかもしれません。

 主人公の眞人は、戦前のエリート教育を受けたお金持ちの息子です。
 当時の高度な教育と訓練をうけた少年らしい、躾けられた礼儀正しさや訓練された強さを持ち合わせていますが、抑圧された内向的なところもあります。

 お父さんはバイタリティにあふれる人物ですがデリカシーがなく、眞人の鬱屈に気がついていません。
 自分が亡き妻の妹と結婚することで多感な年頃の息子にどんな影響が出るか、息子を車で学校まで送ることがどんな結果になるか、まったく想像がつかずよかれと思って行動する人です。おそらく、眞人は母親似です。

 ところが母親は病院に入院したまま火事で死亡してしまいました。

 眞人があまり感情を表に出さず、一見礼儀正しくはあるけれど内面にはさわやかと言いがたい複雑な気持ちを抱いているということは、おそらくは母との交流があまりないまま母は入院してしまったのでしょう。
 自傷行為によって問題を解決しようとしたり、自己肯定感が低い子どもの特徴が見られます。

 やがて眞人はアオサギに誘われ、死んだ母を求めて奇妙な世界へと足を踏み入れることになります。

 その後の展開は伏せますが、この「行きて戻りし物語」において特筆すべきところは物語の中で成長するのが眞人だけではないということです。

 「親子もの」を描いた伝統的な児童向けコンテンツにおいて、ありがちなパターンは親たちの愛情に気づかずに家を飛び出し冒険の旅に出た子どもが、成長の過程で自分がいかに親に愛されていたか、または愛しているかを知り、反省して家に帰るというものです。
 親は現状維持のまま、子どもが一方的に成長して物語は結末を迎えます。(「千と千尋」も千尋は親への愛を再確認し成長して親を救いますが、親は現状維持です)

 ところが、「君たちはどう生きるか」は大人(親)たちも眞人とともに成長し、眞人に無償の愛を与えるのです。
 未熟で欠点だらけの眞人ですが、大人たちも欠点だらけです。欠点だらけの大人たちがそれでも眞人の幸せをねがい、それぞれが精一杯できることをし、愛情をかけ、眞人の選択を尊重し、後押しします。

 そして眞人は「自分は望まれて生まれてきた。命懸けで愛されていた。自分はこの世で生きてゆく価値のある人間だ」と知り、力強く生きてゆくことができるようになるのです。

 わたしは見ていて、何度か涙ぐんでしまいそうな場面があったのですが、人によってはまったくわけがわからない、つまらない話に感じるかもしれません。

 けれども、この映画は「となりのトトロ」や「魔女の宅急便」では救われなかった子に刺さるお話なんじゃないかと感じました。
 わたしは、「トトロ」も「魔女宅」も大好きだし、トトロを見ると心が洗われて幸せ気分になるのですが、トトロ公開当時「宮崎駿の映画は清らか過ぎてわたしからは遠すぎる」と語っていた友人がいたのが思い出されます。そんな人には、この映画が心にしみこむ気がします。

 人は歳を取ると現状維持に走りがちですし、若い人には説教をしたくなりがちです。この映画も当初「説教くさい映画なのではないか」と予想されていました。
 しかし、まったく逆でした。
 「こんなろくでもない世界にいても大人たちも成長するよ、そして子どもたちを愛しているよ」と言う、大人たちから子どもたちへのエールに満ちたお話でした。

 とても前衛的で、良質な児童文学を観た気分です。

 本の話に戻しますと、「失われたものたちの本」には昔の少女漫画の雰囲気があり、萩尾望都先生の世界などかお好きならはまると思います。
 かなりボリュームがあります。ルビも少ないことから中学生から。
 ラストではかなり盛り上がるのですが、それまでがダークな話が続くため、すこしだけ読むのに忍耐力が必要です。
 でも、読み応えがあるファンタジーです。

 今年の夏はあまりにも猛暑なので、家で読書をしたり、お出かけするなら映画館がいいですね。
 読んでから観るか、観てから読むか。
 どちらでも、面白い発見がありそうです。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ダークよりのファンタジーです。残酷なシーンもあります。「そういうシーンがある物語なのだな」とあらかじめ身構えていれば楽しめる方で、ダークファンタジーがお好きならおすすめです。

 ラストは、少しせつないハッピーエンドです。

 

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