【カトリと霧の国の遺産】奇妙な国の年代記に記された魔術。少女たちが謎を解くゴシックホラーファンタジー、シリーズ第二巻【小学校高学年以上】

2024年4月14日

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カトリと霧の国の遺産  東曜太郎/作 まくらくらま/装画・挿画  講談社

カトリが働く博物館に奇妙な美術品の寄贈があった。「ネブラ」と言う古い国に関わるもののようだ。しかし、ネブラのことを知る人はおらず、美術品は調査されることになる。一方、美術品を見学しにきた人が行方不明になる事件が続き、カトリは失踪事件とネブラ年代記のあいだに関連性があると気づくが……(カトリと霧の国の遺産  東曜太郎/作 まくらくらま/装画・挿画  講談社)

この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ 謎解き☆☆☆☆ 少女バディ☆☆☆☆☆

カトリと霧の国の遺産  東曜太郎/作 まくらくらま/装画・挿画  講談社

<東 曜太郎>
1992年生まれ。千葉県出身。一橋大学社会学部卒業。エディンバラ大学国際関係専攻修士課程修了。「カトリとまどろむ石の海」で第62回講談社児童文学新人賞佳作に入選。改題・改稿した本作がデビュー作となる。

<まくらくらま>
クリエイター。イラスト執筆をはじめ、オリジナル雑貨の企画、アパレルブランドとのコラボなど精力的に活動中。「不思議なアンティークショップ まくらくらま作品集」(小社刊)、「詩集「山羊の歌」より」(立東舎 乙女の本棚)

 本日ご紹介する本は「カトリと霧の国の遺産」。
 第62回講談社児童文学新人賞佳作「カトリと眠れる石の街」の続編です。初版は2023年9月。
 一話完結の形ではありますが、お話の大きな流れがありますので、まずは「カトリと眠れる石の街」から順番にお読みになったほうがわかりやすいでしょう。
 「カトリと眠れる石の街」のレビューはこちら

 今回のお話は……

 カトリが働くことになった博物館に最近亡くなったバージェス男爵の遺品として寄贈品が届く。
 ネブラという街にまつわるものらしい。

 ところが、この美術品の展示会に訪れた人々のなかから、一人、また一人と失踪者が出てしまう。
 寄贈品に含まれていた「ネブラ年代記」を解読していたカトリは、年代記の記述と失踪者のあいだに関連があると気づき、次の失踪者は自分ではないかと疑うようになるが……

 ……と、いうのがあらすじ。

 人生には何度か、重大な選択をせまられるときがあります。おやつにホットケーキを食べようがフレンチトーストを食べようがそんなに違いはないけれど、いったん選択してしまったら後戻りはできない選択もあります。

 それでも、選び続け進み続けるのが人生。

 しかし、わたしの親世代や、そのまた親の世代では庶民の人生には選択肢はほとんどありませんでした。
 狭い村や町で、顔見知りばかりの人間関係、生まれたときには決まっている序列、代々続く家業、知っている人間どうしで結婚し、子どもの頃からお手伝いをしている仕事にそのままつき、生まれ育った土地で死ぬまで生きる、それがあたりまえでした。

 わたしたちが子どもの頃は、親の知らない職業についたり親の知らない土地に行くのはまだまだ「とんでもない」と言われていた時代でした。

 おそらくイギリスもそうであっただろう時代に、カトリは金物屋に引き取られた孤児でありながら博物館で働きたいと夢を抱くようになり、そして、「カトリと眠れる石の街」では、見事にその希望をかなえます。

 しかし、それは未知の体験ばかりの新しい道。
 そして、今までは自分の「帰る場所」だったはずの金物屋「マクラウズ」には、新しい弟子がやってきました。「マクラウズ」の労働力だったカトリはもういないので、カトリのいた場所には新しい弟子のフィルがおさまり、店は新しい体制になろうとしていたのです。

 カトリは自分の人生の選択に迷いを感じ始めます。このままでいいのだろうかと。

 「養父母の金物屋の手伝い」と「研究者を目指す道」のあいだには、生き方として天と地ほども違いがあります。

 「マクラウズ」の手伝いを続けていれば養父母に必要とされ、目の前には「わかっている」仕事があり、いままで通りの達成感はあるでしょう。いずれ養父母はカトリに結婚をすすめるでしょうし、おそらくは近所の顔見知りと結婚することになるでしょう。
 変化も冒険もありませんが、そこには自分を必要としてくれる人と自分の能力でできると自信がもてる、やるべき仕事があります。

 しかし、研究者の道はそれとはまったく違います。
 知識や叡智、真理を求めて日々研鑽し続ける道には未知の困難の連続だし、ともすれば利己的になにかを振り捨てて追求し続けてゆく必要もある果てしのない人生です。
 自分を必要としてくれる人も現れないかもしれないし、誰かの役に立つことももしかしたらできないかもしれない。けれど、どうしても知りたい、成し遂げたいという欲求や信念を押し殺さずに生きる魂の自由は手に入ります。

 カトリはどちらの人生を選ぶのでしょうか。または、それらとは別の、第三の道を選ぶのでしょうか。

 「なにもかもわかっている人生」には奇妙な安心感があり、人はその道を選びがちです。
 「テレビで言っているから」「みんながそうしているから」「これが常識だから」「偉い人が言うから」「噂ではそうらしいから」「親が言うから」「友達が言うから」。
 そうした理由でついつい大切な決断をしてしまうことは、誰の人生にも起こりうる罠です。

 そこには「わからないことはしたくない」と言う気持ちがあるからなのでしょう。では、何もかもすべてが事前にわかっていたら、そんな人生のほうがいいのでしょうか? カトリは自分自身に問いかけます。

 カトリが心細く感じるなか、先の見えない未来を選択できる自由があるのは、逆説的に言えば孤児の女の子だから。
 ぐらぐらした心もとない土台の上に立つような気持ちになるカトリですが、彼女が男の子だったり、良家の跡取り娘だったりしたら人生の選択肢はもっと限られていたでしょう。

 カトリの恵まれない生い立ちの後ろ側には「自由」と言う広大な世界が広がっています。それが何の保証もない過酷な道だったとしても……

 丁寧に書かれたストーリーは、見た目よりはボリュームがあり読み応えがあります。
 文章は読みやすく、難しい漢字には振り仮名が振ってありますが総ルビではないので、小学校高学年から。
 ヒロインふたりの年齢からは中学生以上を想定しているのかもしれませんが、本を読みなれている子なら小学校高学年から読みこなせると思います。もちろん、大人が読んでも楽しめます。

 19世紀のエディンバラの描写が詳細で臨場感があり、また、カトリの養父ジョシュのつくる料理がとてもおいしそう。ランブルディサンプスとか、食べてみたい。

 今回もまくらくらま先生の挿絵が魅力的で物語の世界観に惹きこんでくれます。表紙の装丁もクラシックでロマンを感じさせます。

 謎が謎を呼ぶ、摩訶不思議なゴシック・ファンタジーです。新キャラも登場し、これからの展開を匂わせるラストで終わっています。続きが楽しみ。

 まずは「カトリと眠れる石の街」から。そして、お気に召されたなら「カトリと霧の国の遺産」を。
 「カトリと霧の国の遺産」は、ミステリーがお好きな方、ファンタジーがお好きな方、19世紀のイギリスがお好きな方、そして女の子の冒険もの、少女バディものがお好きな方におすすめのゴシックファンタジーです。

 ※この本には電子書籍があります。

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