【家なき娘】過酷な運命を乗り越える少女の物語。日曜の名作劇場でアニメにもなった古典名作です。【小学校高学年以上】
フランス人を父に、インド人を母にもつ少女ペリーヌは、父を失い、母とパリに辿り着くが、母も病と疲労で死んでしまいます。母の遺言を胸に、ペリーヌは、まだ見ぬ祖父を求めて父の故郷マロクールを目指します。はたして、祖父は彼女を受け入れてくれるでしょうか…
この本のイメージ 激動☆☆☆☆☆ 過酷☆☆☆☆☆ 先が気になる☆☆☆☆☆
家なき娘 上 エクトール・マロ/作 二宮フサ/訳 偕成社文庫
<エクトール・マロ>フランスの小説家。代表作は「家なき子」「家なき娘」
かつて、日曜日の名作劇場で「ペリーヌ物語」としてアニメーションになりました。エクトール・マロの名作です。
原題は、En famille=家族と共に です。
このタイトルは、深い意味があり、 読みすすめると 親子や祖父孫だけでなく、もっと大きな概念だったことがわかってきます。
とても長い話で、上下巻に分かれているので、本日と明日、二日にわけて上下巻のブックレビューを行いたいと思います。ちょっとだけエピソードのご紹介をいたしますが、ものすごくボリュームのある物語なので、ぜひ、お手にとって読んでみてください。有名な話なので、いろんな出版社から刊行されていると思います。(2020.3.25追記 調べたら、ほとんど絶版になっているんですね…。すごく面白いので、ぜひ読んでください!とくに働く女性におすすめの本です!!偕成社のはまだ買えます!)
とにかく、ドラマチックで面白く、週末は、この二冊を夢中で読みました。ラスト近くは、涙ぐんでしまい、久々に泣きながらページをめくりました。
ただし、上巻は、苦難の連続です。
ロバが引く小さな箱馬車にのって、ペリーヌと母親がパリにやってくるところからはじまります。母親は、すでに疲労と病で寝込んでおり、体力がほとんどありません。
また、二人にはわずかなお金しかなく、食べものを買ったり、宿屋で宿泊したりする余力がないのです。
なんとか寝起きする場所を得た親子ですが、それからは次々と残酷な運命が押し寄せます。母親は日に日に容態が悪くなり、ペリーヌが手を尽くしても、悪化していきます。
そして寝場所を借りる、薬を買うなどのために、乏しい手持ちのお金も次々とむしりとられていきます。このあたりは本当にリアルで、世の中と言うのはお金のあるところから取るのではなくて、お金のない人からなけなしのお金を取り上げるものなのだ、と言うのが容赦なく描かれています。
ついに、母親は力尽きてパリで命を落とします。ペリーヌは、彼女の遺言により、マロクールにいる祖父を訪ねるべく、たった一人で旅立つことになります。
朦朧とした母が残した「わたしには見える。おまえが幸せになったすがたが」と言う予言めいた言葉。ペリーヌは、母のこの言葉を支えにして、幾多の困難を乗り越えていくのです。
久しぶりに、とんでもなく過酷な話を読んでしまいました。これ、ハッピーエンドだと知っていなかったら、絶対読めなかったと思います。
どれくらい厳しいかと言うと、わたしの知っている少年少女向け小説の中で、「家なき娘」の上巻と同じくらい壮絶なのは、「十二国記」の「月の影 影の海」の上巻くらいです。(ご存知の方は、これでどれくらいきつい話かご理解いただけると思います)しかし、最後に向けてだんだんと面白くなり、最後は絶対にハッピーエンドなので、冒頭がつらくとも、ぜひ、読み続けていただきたいと思います。
パリでお金をむしりとられていくあたりもひどいのですが、この後、ペリーヌが一人でマロクールに徒歩で旅する道中も容赦ないのです。一枚しか持っていなかった銀貨はパン屋で「偽金をつかませようとした」と因縁をつけられ、取り上げられた上にパンももらえず、飢えと闘いながら旅をする途中で気絶してしまいます。(ペリーヌの身なりが汚く貧乏そうだから、それくらいのことをしても逆らうことはできないと思ったのでしょう。この人の巻き上げた銀貨は、ずっと後に別の人が取り戻してくれることになります)
幸運にも、そこで助けられ、なんとかマロクールに着くのですが、その後も女工として厳しい毎日が待っていました。
この、前半の、食べ物が無いなかで徒歩で旅するペリーヌの根性が並外れています。こんなにきついシーンの連続だと、小学生の頃に読んだら挫折していたかもしれません。けれども、この体験がペリーヌにとって、「あそこまでひどい旅を乗り越えられたのだから、何でもできるはず」と自信になっていくのです。
ペリーヌは本当に、強い子です。
その後も、様々な困難をペリーヌは彼女なりの努力と知恵で解決していきます。
彼女の、「欲しいものは工夫する」「無いものは創る」の精神がすばらしいのです。長い旅生活の中で、ペリーヌは食べられる植物や木の実の知識が豊富で魚釣りも出来、鳥の卵を採ることもできました。
試行錯誤しながら、サンダルを作ったりシャツを縫ったりして自力で問題を解決していきます。この、「解決する力」が、のちにペリーヌを信じられない幸運へと押し上げることになります。
物語としてとても面白く、時代を現代にうつして映像化しても面白そうな小説です。なつかしの大映ドラマのような雰囲気もあります。
ただし、映像化したらネックになりそうなのは、ヴュルフラン様以外まともな男性が皆無なこと。ペリーヌはとても素敵な女の子ですし、女の子の友達のロザリーもいい子なのですが、かっこいい男性枠のキャラクターは一人もいないのです。でも、ここにかっこいい男性がいたりすると、そこで話のテーマがずれてしまうので、出しちゃいけないんでしょうね。
それゆえに、ペリーヌのストイックな魅力が際立ち、下巻の展開も納得できるものになっています。
上巻はあまりにもつらいことの連続なので、多少ネタバレしましたが、他にもたくさんのエピソードがあり、本当に面白いのでおすすめです。
前半は、ペリーヌサバイバル編です。生きるためのペリーヌの努力や工夫が、彼女のただものでなさを語ります。彼女の意志の強さと、やりぬく力が物語をぐいぐい引っ張っていきます。
この後、後半はがらりと雰囲気が変わり、まったく違うドラマになります。こちらは、ペリーヌ立身出世編と申しましょうか。
下巻はとてもドラマチックで、波乱の展開です。明日は、下巻をご紹介いたします。
※紙の本は現在、Amazonでは入手困難です。古書でお求めになるか、図書館、書店にある場合があるので、お近くの書店の書店員さんにお尋ねください。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
冒頭からロバのパリカールと再会するまでの展開がたいへんきついので、つらくなってしまうかもしれません。でも、ラストはすばらしいハッピーエンドです。きついシーンについては最初から「そういうシーンがあるのだな」と身構えていれば読める方なら、おすすめです。
尻上がりに面白くなり、途中から一気にラストまで読めます。
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