【思い出のマーニー】ジブリで映画化された児童文学の古典。少女たちの友情と夏休みの秘密の思い出【小学校高学年以上】

2024年2月13日

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思い出のマーニー ジョーン・G・ロビンソン

両親を交通事故で失い、祖母も失ったアンナは、里親夫婦といまひとつ距離が縮まらず、夏休みにリトル・オーバートンに保養に出ました。そこで、マーニーと言う不思議な少女に出会います…

思い出のマーニー ジョーン・G・ロビンソン/作

< ジョーン・ゲイル・ロビンソン Joan Gale Robinson >イギリスの児童文学作家。バッキンガムシャー州生まれ。イラストレーターとしても活躍。

 スタジオジブリによって、長編アニメーション映画化されたこともある名作です。  アニメでは舞台が北海道に変更され、マーニー以外は日本人としてリメイクされました。


 わたしは新潮文庫版で読みましたが、電子書籍化もされ、より入手しやすい岩波少年文庫版がおすすめです。

静養に来た少女

 天涯孤独のアンナは、プレストン夫妻の里子になりますが、どうしても「お母さん」とは呼べず、ぎこちない関係が続いています。

 学校の人間関係もうまくいかず「やろうとすらしない」と言う評価をうけるまでになった彼女は、転地療養のために、リトル・オーバートンのペグ夫妻の家にやってきます。

 そこで、アンナは、海辺の不思議な館と、そこに暮らすマーニーと言う少女と出会うのでした。

 前半、アンナとマーニーの友情、後半はマーニーの正体の謎解きになります。

 古い時代の児童小説ですが、内向的で、周囲と打ち解けることが難しい思春期の少女の心の機微が、丁寧に描写されています。

アンナの哀しみ

  アンナは、繊細で、ものごとを掘り下げて考える性格だけに、家族を失ってしまった悲しみが深く心に刻まれてしまっていました。
 周囲の人々は、基本的に親切で善良な人たちなのですが、「普通の人と同じように哀しみ」「普通の人と同じように立ち直り」「普通の人と同じように明るく生きる」ことを期待しすぎていたように感じます。

 アンナは本質的にはいい子なので、周囲の期待にこたえようとするのですが、深い悲しみに出会ったとき、しっかりと哀しみ、そしてきちんと自分で立ち直ることができないと、後々、哀しみは大きくなって戻ってきてしまいます。
 虐待されているわけでもないし、里親は愛情深く、アンナ自身も里親の愛にこたえたい気持ちが、ありありと伝わるのですが、周囲がどうしても「ふつうの人たちと同じペースで」立ち直って、「ふつうの人たちと同じペースで」元気になって「ふつうの人たちと同じペースで」未来に向かってほしいと、急ぎすぎてる感じなのです。

 そして、その「期待」を受け取りすぎるアンナは、応えられない自分に自己嫌悪になり、無気力になっていくという悪循環でした。ここでアンナは学校からは「やろうとすらしない」と言う評価を受けてしまいます。

心の荷ほどき

 アンナは「転地療養」のために、リトル・オーバートンにやってきますが、彼女には「1人になる空間と時間」が必要だった気がします。物語の描写的には、周囲の人々に「心を閉ざしている」ように描かれています。

 彼女はそれを、「輪の中にいる人」「輪の外にいる人」とし、自分自身は「輪の外側の人間」なので、「内側の人間」とは打ち解けることができないのだ、と考えていました。

 自分が内向的な性格なので、よくわかるのですが、辛い出来事に出会ったとき、自分の中に沈んで深く考え、悲しい気持ちをゆっくりと租借して消化する時間が必要になるときがあります。

  ときには、一週間、一ヶ月と、自分の中である程度の結論が出るまで時間がかかるときもあるのですが、学校や仕事など社会活動をしていると、心のありようにも一定の縛りがあり、いつまでもグズグズとしていられないことから、「手早く立ち直る」ことを期待されることは、現代でもあります。
  けれども、人間の感受性は千差万別なので、何かが起きたときの立ち直る時間も千差万別。1日で心を切り替えられる人もいれば、何ヶ月も引きずる人もいるものです。

 そうは言っても、「ショックからすばやく立ち直る」ことは、一般的に大人社会では美徳とされるので、真面目な子供ほど頑張りすぎてしまい、あとで負担になって、戻ってくることもあります。
必ずしも「立ち直りが早い」だけが美徳ではないと思うのですが。

 少々話が脱線しましたが、前半は、息苦しさから「何も考えない」状態になっていたアンナが、マーニーとの出会いを通じて、固く絡み合った毛糸玉みたいな心を解きほぐしてゆく物語です。

マーニーの正体

 後半はマーニーの正体の謎解きになります。
 マーニーの正体を書いてしまうと、すべてが面白くなくなってしまうので書けないのですが、最終的にアンナにとってもマーニーにとっても、どちらにとっても幸せな、救われるハッピーエンドになりました。

 読者としては「マーニーに報われてほしい」と強く思うのですが、ラストまで読むと、「アンナが幸せになることが、マーニーが報われるということなんだな」と納得できるのです。

「周囲に心を閉ざしていた子供が心の扉を開く話」と言うありきたりの解釈をしてしまうと、とたんに陳腐になってしまうので、できれば、時空を超えたマーニーの想いを受け取ってください。
 マーニーという存在を「寂しいアンナの心が作り出した幻想」と解釈することもできるのですが、湿地屋敷を「マーニーの時空を越えた愛が生み出した幻影」と解釈したほうが泣けます

 というか、そう解釈して泣きました。

 愛は時間と空間を超えるものだと考えると、今つらく厳しい状態でも、はるか過去やはるか未来から愛情が送られてくることもある、と信じられます。そう考えると、乗り越えてゆくことができるかも。

 勝負とか戦いとか恋愛とか、ジュニア小説らしいわかりやすい要素はひとつもないので、面白くない人には面白くないと思うのですが、繊細で内向的、内省的なお子様にはおすすめの物語です。

 読み聞かせや、感想を語り合う読書会などの題材には向かない物語です。ひとりで、しずかに読書したいときに。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素は、あまりありません。じっくりと時間をかけて、静かな環境で読むのに向いている本です。お気に入りのハーブティーや、あたたかい紅茶とともに、ぜひどうぞ。(お茶やお菓子を読書のお供にする時は、当然、本を閉じて飲んだり食べたりして、手を綺麗に拭いてから続きをお読みください。または、読んだ後にティータイムするのも○)お気に入りのインストルメンタルや、クラシックをプレイヤーでかけるのもおすすめです。

 読み終わったら、映画も見てね

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