【あやかしの店のお客さま】付喪神たちのつくろいもの屋さんふたたび。新感覚の和ファンタジー【お江戸あやかし物語】【小学校低学年以上】
お江戸の片隅に、あやかしたちが働く「つくろいものや」さんがありました。今日も今日とて、まち針のこまち、糸切りばさみのちょきち、縫い針のぬいばあは、お江戸の怪異を解決します……
この本のイメージ 和ファンタジー☆☆☆☆☆ ほのぼの☆☆☆☆☆ かわいい☆☆☆☆
あやかしの店のお客さま お江戸あやかし物語 水沢いおり/作 石橋富士子/絵 偕成社
<水沢いおり>
1975年北海道生まれ。2006年第23回小さな童話大賞受賞。著書に『つくろいものやはじめます』がある。
<石橋富士子>
1958年神奈川県生まれ。著書に『ぺたこさんの手作り生活』『知識ゼロからの着物と暮らす入門』など。ちりめん小物の製作販売も手がける。
古いさいほう箱から飛び出した、あやかしたちがお江戸の町でつくろいものやさんをはじめるという和ファンタジー、シリーズ2冊目です。
日本には、古くから「九十九神(付喪神)つくもがみ」という言い伝えがあります。古い道具が100年の時を経ると、魂がやどるというもの。モノにも魂がやどり、いつかは神様になるというのは、日本ならではの考え方です。
いまでも、車や自転車に名前をつける人とかいますね。
このお話は、古い古いさいほう箱の道具たちに魂が宿り、あやかしとなった道具たちが蔵を飛び出してお江戸の町で「つくろいものや」をしながら、様々なお客さまのお困りごとを解決すると言うストーリー。
「つくろいものや」と言うのは、布で出来たものの破れや穴を、針と糸でかがったり、継ぎをあてて修繕する仕事です。
これは「呉服屋」とか「小間物屋」とはちがい、つくろいものだけをするお店です。いまなら「リフォーム店」と言ったところ。
江戸では、仕事が細かく細分化されていて、完成品を売る店と修理をする店は別で、それぞれが別の職人の仕事だったのです。これは失業対策で、おかげで、ほとんど失業者のいない、かなり完成されたリサイクル社会だったそうです。
この不思議なつくろいものやさんで働くのは、つくも神たち。
まち針のこまち姐さん、糸切りばさみのちょきち、縫い針のぬいばあの三人です。
こまち姐さんのまち針は、捕り物のときには大活躍。手裏剣のようにとび、こまち姐さんにしか抜けないので、これでどこかに縫いとめられると動けなくなります。
ちょきちの持っている糸切りばさみは「縁切りばさみ」。人と人のえにしを、ちょきんちょきんと切ってしまいます。
そして、小さな小さな手のひらサイズのおばあさん、ぬいばあは、不思議な力ですいすいと、どんなものでも縫い付けます。
この三人が、お江戸の不思議な事件やお客様のお困りごとを解決すると言うストーリー。
今回は、
・まねき堂
・雨やどり
・なかたがい
・玉子稲荷
の四本。
わたしは、「まねき堂」のお話が好き。とっても心が温かくなるお話なのです。
字はほどよい大きさで、漢字にはすべてふりがながふってあります。
かわいらしい挿絵は表情豊かで、カラーの挿絵も贅沢にさしはさまれており、お人形のおいちとお袖ちゃんがさくら吹雪の中で遊ぶ絵が美しい。
前回よりさらに時代用語が増え、しかも言葉遣いも江戸っ子言葉が使われています。
今は時代劇の放送がないので、すごくひさびさに江戸っ子言葉を見た感じ。コスチュームだけ時代調の「なんちゃって時代劇」ではなく、児童向けながら骨太の時代小説なところがすばらしい。
時代言葉の説明も、1巻に引き続き、巻末ではなく、本文を上下二段に分けて、本文の下に解説を書いてくれています。
これなら、お子様が読んでいてもわかりやすいし、読み聞かせのときもすぐに解説できます。
そして、お話とお話のあいだには、江戸の風俗の説明が絵入りで詳しく説明されています。
隅から隅まで計算されつくした、細やかなつくりの本です。
お話の内容も、かわいらしいお話から友情もの、事件ものみたいな話もあって、女の子でも男の子でも。
あやかしがたくさん出てくる物語なのに、まったく怖いところが無く、どこかとぼけていて、愛らしいお話ばかりです。
読みやすいので、小学校低学年から。でも、大人が一緒に読んでいても惹き込まれる、誰が読んでも楽しい本です。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。
明るくゆかいな新感覚のお江戸ファンタジーです。
しっかりとした時代劇で、かつ、字がほどよく大きくて読みやすいので、お年寄りへの差し入れにも。大人の和み本としてもおすすめです。
本文が二段になって、解説が入っているので、読み聞かせもしやすくなっています。
読後は、おいしい緑茶と和菓子でひとやすみしてくださいね。
最近のコメント