【夏への扉】映画公開が待ち遠しい、時を超えて愛される名作SF。過去と未来が循環するタイムトラベルストーリー【中学生以上】

2021年3月23日

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夏への扉 ロバート・A・ハインライン/作 福島正実/訳 早川書房

恋人と親友に裏切られ、会社を奪われたダンは、30年の冷凍睡眠の契約をして「現在」に別れを告げようとしていた。ところが、その直前、思い返して真実を追究しようとして返り討ちにあってしまう。30年後、目覚めたダンは、財産も失い無一文になっていると知るが……

この本のイメージ タイムトラベル☆☆☆☆☆ 循環する時間☆☆☆☆☆ 猫がかわいい☆☆☆☆☆

夏への扉 ロバート・A・ハインライン/作 福島正実/訳 早川書房

<ロバート・A・ハインライン>
ロバート・アンスン・ハインライン(Robert Anson Heinlein、1907年7月7日 – 1988年5月8日)は、アメリカのSF作家。アンスン・マクドナルド(Anson MacDonald)、ライル・モンロー(Lyle Monroe)などの名義で執筆していた時期もある。SF界を代表する作家のひとりで「SF界の長老」(the dean of science fiction writers)とも呼ばれ、影響を受けたSF作家も多い。(Wikipediaより)

夏への扉 ロバート・A・ハインライン/作 福島正実/訳 早川書房

 

 日本で三木孝浩監督、山﨑賢人主演で初実写映画化され、現在公開待ちとなっている、名作SF「夏への扉」のご紹介です。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の原型となったとも言われる、古典名作。原題はThe Door into Summer.初版は1957年.日本での初版は1958年です。

 いつものことなんですが、太古の昔に読み「感動した」と言う記憶だけを残して、ほぼ忘却していたので(だめだろう)、再読しました。

 映画化を記念して、早川書房から新訳版が発売されており、昔ながらの訳の「文化女中器」などの用語は「ハイヤーガール」などに修正されています。

 ストーリーは…

 1970年、そこでは、「冷凍睡眠」の技術が確立され、未来への片道旅行をするため長い眠りに着くことが流行していました。
 優秀な技術者ダニエルは、恋人ベルとの結婚を控え、親友マイルズと共同経営の会社も順調で幸せの絶頂でしたが、ふたりの裏切りに遭い、すべてを奪われてしまいました。
 失意のダニエルは、愛猫ピートとともに30年の冷凍睡眠を契約し、人生をリセットしようと決意。しかし、直前で思い直し、二人に復讐しようと詰め寄りますが、返り討ちに合い、冷凍睡眠に追い込まれます。

 財産も、愛猫ピートすら失い、未来に取り残されたダンですが、すでに親友は死に、ベルは醜く老いていました。自分を慕ってくれていたマイルズの義娘リッキーことフレデリカの行方を捜しながら、慣れない30年後の世界で暮らすダンは、ある未完成の技術を知らされます。

 それは、タイムマシン。
 ダンは、30年前に跳び、すべての決着をつけようとしますが……

 と、いうのがあらすじ。

 伏線の張り方が芸術的にすばらしく、ラストまで読むと「おおっ、そうだったのか!」と膝を打ち、最初から読み直してしまう傑作。
 そして、そのまま、結末にどう流れ込むかを確認しながら、二巡目を読んでしまうことまちがいなしです。

 この物語が書かれたのは、1956年なので、この時点での1970年と言うのは、作者にとっては近未来で、その時には発明されていただろうと想像された便利なものが数多く登場します。

 ワープロみたいなものとか、ロボットの原型みたいなものとか。そして、30年後に跳ぶ世界とは、2000年です。
 その昔、2000年とか、21世紀とか言ったら、たいそう素晴らしい未来社会になっていると思われていたのです。(佐良直美の歌う「21世紀音頭」と言うすごい歌があって、子どもらは運動会で踊らされたのですよ。いまの方はもう、サガラナオミって誰って感じだと思うんですけども)

 たしかに、家庭内に高性能のパソコンがあったり、コンピュータの機能を持った電話スマートフォンが普及したりと、かなりハイテクな世界になってはいるのですが、わたしが子どもの頃に想像されていた21世紀は、あたりまえのようにロボットが働いていたり、小型の自動翻訳機でどんな国の人とも不自由なく会話できたり、海外旅行に行くような感覚で月旅行をしたりとか、もっといろいろとできると思っていたのです。

 わたしが子どものころ、自分が大人になるような時代になったら、近眼と虫歯は治せるようになってると思っていましたね……。治ると言うのは、他の病気みたいに元通りに治療できるという意味で。
 21世紀にまだまだ眼鏡、金歯、銀歯があるとは思ってもいませんでした。
 なかなか、そんなに簡単な問題でもないようです。

 50年以上前のSFは、未来を予言できているところもあれば、まったく外れているところもあって、なかなか面白いです。とくに、昔に書かれた未来社会もの小説で、現実と大きく違うのは、電話と手紙です。

 コンピュータの発展はだいたい予測できているか、いまより便利だったりするのですが、コンピュータに電話と手紙が合体しているという状況は予測できた人がいなかったようで、昔のSFには、電話機や郵便局がふつうに登場します。

 この作品中の2000年も、その当時に想像していた21世紀ですから、固定電話や郵便以外は現在よりはるかにテクノロジーが発達しているので、映画化にあたって1995年と2025年に変更したのは、ちょうどいい変更だと感じます。

 映画ではリッキー(フレデリカ)であるところの少女が未来で死んだことになっているので、そこは原作とは違うようです。はたして、彼女は本当に死んでいるのか、も含めて謎解きが楽しみですね。

 この作品以前に「タイムトラベルもの」の小説が無かったわけではありませんが、タイムパラドックス問題を芸術的にうまく回収しており、その後の、多くの「タイムトラベルもの」に多大な影響を与えました。パズル的なお話が好きだったり、考察好きな方で未読の方はぜひ。

 物語は、裏切りや陰謀などもありながら、不思議にノスタルジックな優しさに包まれており、それが時を超えて愛される魅力となっています。

 そうそう、猫好きの方には大切なことだと思うので、ちょっとだけネタバレしますが、猫のピートは無事です。そして、幸せになりますのでご安心ください。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 まさに、HSPやHSCのための小説です。ネガティブな要素はなくはありませんが、すべてがラストで報われます。大丈夫です。

 こんなにすっきりと収まる、みごとなハッピーエンドはないんじゃないかというくらいの名作なので、安心してお読みください。お見舞いなどにも、おすすめです。猫好きさんにはぜひ。

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