【ダーウィンと旅して】自然と科学を愛する少女の自己実現ストーリー続編【小学校高学年以上】
1900年、新しい世紀に入ったアメリカ。テキサスで暮らす12歳のキャルパーニアは、在野の研究者のおじいちゃんの「共同研究者」として実験や観察を続けていました。様々な経験を経て、彼女は将来の夢を見つけます……
この本のイメージ 等身大の少女☆☆☆☆☆ 少女の自己実現☆☆☆☆☆ 多様性☆☆☆☆☆
ダーウィンと旅して ジャクリーン・ケリー/作 斉藤倫子/訳 ほるぷ出版
<ジャクリーン・ケリー>
ニュージーランドで生まれる。幼い頃にカナダのバンクーバー島、熱帯雨林で育つ。その後、米国テキサス州の医学部へ進み、医者として長年働いたのち、テキサス大学法科大学院へ入学。弁護士として活躍後、小説を書きはじめる。2009年 『ダーウィンと出会った夏』(The Evolution of Calpurnia Tate)を出版して作家デビューする。
<斉藤倫子>
さいとうみちこ。1954年生まれ。東京基督教大学卒。訳書に「シカゴよりこわい町」(東京創元社)「ライオンとであった少女」(主婦の友社)「ホワイト・ピーク・ファーム」(あすなろ書房)など多数。
ニューベリー賞受賞作品「ダーウィンと出会った夏」の続編です。原題はThe Curious world of Calpurnia Tate.(キャルパーニア・テイトの好奇心旺盛な世界) 初版は2015年。日本語初版は2016年です。
新しい作品ではありますが、これは「赤毛のアン」の系譜、少女の自己実現の物語です。
お話が完全に続いているので、まずは「ダーウィンと出会った夏」からお読みください。
「ダーウィンと出会った夏」のレビューはこちら↓
時代は20世紀に入ったばかり。自動車が台頭し始めた頃のアメリカです。まだまだ人間の移動手段は馬でした。
そんな時代のテキサスで生まれたキャルパーニアは、7人きょうだいの真ん中っ子。三人の兄と三人の弟に挟まれた、たった一人の女の子です。
お母さんは、キャルパーニアを一人前のレディに育て上げようと、ピアノを教えたり、刺繍や編み物をさせたりと必死ですが、キャルパーニアは、「変わり者」のおじいちゃんとの共同研究に夢中でした。
おじいちゃんはペカンナッツ農家として財を築いた偉大な経営者でしたが、引退してからは地元の大自然の研究に人生を捧げており、かのチャールズ・ダーウィンとも親交があると言う、在野の優秀な研究者だったのです。
おじいちゃんがそこまでの人だと、キャルパーニア以外の家族は誰一人知りません。おじいちゃんの眼鏡に叶ったキャルパーニアは、かなり高度なお手伝いもできるようになっており、彼女は科学の魅力にどんどんのめりこんでゆきました。
そんなとき、港町ガルベストンに大嵐が来て、被災した親戚のアギーたちがキャルパーニアの家に身を寄せることになります。
都会からやってきたアギーとの交流で、キャルパーニアは新しいスキルを身につけ、ひとまわり成長します。
そして、次々と野生動物を拾ってくる弟トラヴィスの面倒を見るうちに、将来の夢を見つけるのでした……
……というのがあらすじ。
「赤毛のアン」のリケジョ版といったところのキャルパーニアのシリーズ。今回も日常のエピソードが淡々と続きます。
大事件が起きてそれを主人公が解決する、と言うような話ではないため、男性が読むとつまらないかもしれません。
でも、わたしは好きです。
おそらく、男性作家の書くお話なら、大嵐の事件をクライマックスに持ってきて、キャルパーニアたちがガルベストンに乗り込み、アギーたちを救う話にすると思うんです。でもそうではない。おそらく、作者が書きたいのは、この淡々とした日常なんですよね。
今回のお話では、キャルパーニアの動物好きの弟、トラヴィスが次々と傷ついた野生動物を拾ってきて飼おうとし、騒動を起こし、それをキャルパーニアが面倒をみる展開になっています。
前作「ダーウィンと出会った夏」でも、クリスマスに食べる予定の七面鳥の世話を命じられ、名前をつけてかわいがってしまい、その後大騒動を引き起こしたトラヴィスですが、今回も同様。
くるくる巻き毛でかわいくて、にこっと笑うと誰も抵抗ができなくなるほどの美少年トラヴィスは、動物好きで愛情深くていい子なのですが、とにかく臆病で血や傷口が苦手です。
男女が逆転していれば、トラヴィスは申し分のない美少女ヒロインですし、キャルパーニアも科学の好きなかっこいい男の子になるでしょう。
ところが、男女が逆転していないために、この美少女ヒロイン的なトラヴィスの行動が、ことごとく迷惑なのです。
読者としてイラっと来るのは、毎回キャルパーニアとの約束を守らないで動物を拾ってくるのに、困ったら姉に助けてもらおうとするところ。でも、キャルパーニアは弟のために全力で頑張ります。
※この本にも注意書きとして書かれていますが、野生動物は伝染病や寄生虫の危険があるため、触ったり拾って飼ったりしてはいけないのです。
それでも、ここまでは許容範囲なのですが、怪我をしている馬の包帯をキャルパーニアがトラヴィスの手伝いで取替えたのを「僕たちが包帯を取り替えた」と獣医のプリツカー先生に報告したさい(確かに嘘ではない)、「君は獣医になれるね、トラヴィス」と褒められたとき、そして、本当は自分が取替えたとキャルパーニアが話したときのプリツカー先生の微妙な態度を読んだときに、彼女の悔しさが波のように流れ込んできました。
プリツカー先生は、獣医の仕事は動物の血まみれになるし、汚い糞尿にも足を踏み入れないといけないし、女の子ができる仕事じゃないと言います。ところが血や内臓が駄目なのはトラヴィスのほうなのでした。
獣医さんにほめられて、俄然やる気になったトラヴィスは獣医になりたいと言い出しますが、彼がやりたいのは動物をかわいがること。動物の身体を切ったり縫合したりはできません。
心配したキャルパーニアは尊敬するおじいちゃんに相談します。
おじいちゃんは、トラヴィスが自分たちと一緒に解剖学を学び、ごく単純なつくりの生物からだんだんと進化の過程に沿って、動物の解剖ができるようになれば、それらのことが平気になって獣医になれるのではないか、と提案しました。
解剖そのものはおじいちゃんとキャルパーニアが行い、それをあとでトラヴィスに見せて説明すればいいと言うのがおじいちゃんのアイディアです。
なんと言う一石二鳥の助言でしょう!
おじいちゃんは、トラヴィスの訓練のように見えながら、キャルパーニアに高等教育をほどこそうというのです。
彼は、キャルパーニアに研究の才能があること、そして、自分の息子たち夫婦がこの、お気に入りの孫に高等教育を受けさせることを渋るだろうとわかっていたのでしょう。
おじいちゃんは頭がいいので、息子夫婦とまともにぶつかることはせず、できるかぎり手元で必要なことを教え込もうとしたのでした。
そんなおじいちゃんのもとで、そして、都会からやってきたアギーとの交流で、キャルパーニアは成長してゆきます。
このアギーという女の子も、ぜんぜんまったくかわいげのない、ずうずうしくて小生意気な女の子なのですが、それでも女性が読むとなかなかどうして、魅力的なところがたくさんあるのです。
アギーが、学校の先生から教師の手伝いとして働いてみないかと誘いを受けたときの彼女の返しと、それを聞いて卒倒せんばかりに驚くキャルパーニアのお母さんのくだりは、ちょっぴり痛快で、読んでいてニヤリとしてしまいます。
こうやって、窮屈な状況から、できることをして切り開いてゆく。100年前も、そして今も。
若い子、特に女の子にはおすすめの物語です。
若い子が読めば「昔はこんなに窮屈だったのか」と思うでしょうし、年寄りが読めば「そうそう、こんなふうだったよ」と思うか「今もこんなもんよ」と思うかもしれません。
でも、すくすくと育って、成長してゆくヒロインは、応援したくなります。
面白いです。2巻目にして、いまだに「赤毛のアン」のギルバート的なかっこいい男の子の登場もないのも、すがすがしい。ありきたりな小説なら、アギーを男にしていますよ。そう言う意味でも、骨太の物語です。
ボリュームがあり、難しい漢字にしか振り仮名がふっていないので、本来は中学生以上が対象の読み物なのでしょうが、キャルパーニアが11歳のころから物語が始まるので、ぜひ、小学校高学年から挑戦していただきたい。ニューベーリー賞作品なので、図書館には必ずあると思います。
母子で読むのもおすすめです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
洪水と水害の描写があります。かなり詳しく書かれていますので、苦手な方はご注意ください。それ以外は、ネガティブな要素はほぼありません。
がんばる女の子におすすめの小説です。少女の自己実現物語なので、男の子にはつまらないかもしれませんが、動物や科学に興味がある男の子なら楽しく読めるかもしれません。
読後はペカンナッツのケーキとお茶でティータイムを。












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