【消える総生島】夢水清志郎事件ノート3。不思議な伝説の島の怪【小学校高学年以上】
亜衣たち三つ子は、とある映画のキャンペーンガールに選ばれ、不思議な伝説のある島でのロケに行くことになりました。いつのまにか同行している夢水教授。名探偵がいれば事件が起きる。はたして、名探偵は事件を解明できるのか?
この本のイメージ 孤島の怪事件☆☆☆☆☆ 映画撮影☆☆☆☆☆ 壮大なトリック☆☆☆☆☆
消える総生島 名探偵夢水清志郎事件ノート 3 はやみねかおる/作 村田四郎/絵 講談社青い鳥文庫
<はやみね かおる>
日本の男性小説家(1964年4月16日~ )。三重県伊勢市出身。代表作は「都会のトム&ソーヤ」「怪盗クイーンシリーズ」「名探偵夢水清志朗シリーズ」など
はやみねかおる先生の夢水清志郎事件ノートシリーズ第3巻初版は1995年。
1995年の時代背景を解説しますと、マイクロソフトのコンピュータOS、「ウィンドウズ95」が発売された記念すべき年です。
つまり、「インターネット元年」。
ウィンドウズの出現により、「パソコン通信」から「インターネット」へと移行した年です。
ちなみに、携帯電話は一般的ではありませんでした。電話代はとても高額で、ごく一部の大人が利用していただけの、珍しいものでした。
つまり、電話と言えば、電話線でつながった「固定電話」。
この小説には、古風な黒電話が登場します。さすがに1995年では黒電話は珍しくなっていましたが、それでも、「電話と言えば電話線でつながったもの」と言う認識の時代でした。
ですから、コンピュータと言えば、でっかい箱が机の下か上に設置されていた時代です。
そして、日本はとても景気が良かったのです。
この物語にも、途方もない大富豪が登場して映画を撮影しますが、そんな景気のいい時代であったのも確かです。
さて、ストーリーは……
季節は冬。
亜衣たち三つ子は、「万能財団」が制作する映画のキャンペーンガールに抜擢され、映画の予告編を撮影すべく、総生島にある霧越館という館にロケに行くことになりました。
その島は、非業の死をとげた兄弟の伝説が残る、ちょっと不気味な島で、万能家の私有地だったのです。
なんだかんだと理屈をつけて、同行することになった(した)名探偵夢水教授。
一同が到着したとたん、彼らを運んでいたフェリーは何者かに爆破され、電話線が切られ、ロケ隊は孤島に閉じ込められてしまいます。
そして、次々と奇妙な事件が起きるのでした……。
……と、言うのがあらすじ。
このシリーズ、ちょっぴりけれん味があって、江戸川乱歩の風味があります。ただし、名探偵がかなりギャグ風味になっているので、江戸川乱歩特有のおどろおどろしさがありません。
今回は孤島の怪事件を「教授」こと夢水清志郎が解決…と言うより解明します。
プロローグの映画館の事件がヒントになっていて、最後の謎解きがわかりやすく解説されていたり、ラストにどんでん返しが三回くらいあるのは、見事。
子供向けなので、殺人などの残酷シーンはないのですが、トリックはダイナミックで、推理は本格的です。
しかし、教授の食い意地とずうずうしさ、ものぐささがすごい。
また、興味のあることにだけ突進して、あとはどうでもいいという落差もすごい。
バブル時代以降の日本のライトノベルによく登場する、「世のため人のために役に立つのは首から上だけで、首から下は迷惑なのでいらない」タイプのキャラクターです。
明智小五郎みたいに、颯爽とした美男子じゃないんですよね。この、夢水清志郎のおちゃらけたキャラクターが、物語をけっしてシリアスにしません。さすがだ。
推理小説では、このような隔絶されたシチュエーションで起きる事件を「嵐の山荘もの」と言い、古くからミステリファンに愛されてきました。
でも、文明が発達すると、これがどんどん難しくなるのです。いまや、ひとりひどりがそれぞれのスマートフォンを持ち、ショートメールやSNSなど、連絡手段が多岐にわたり豊富になっています。
ですから、1995年くらいだと、ちょうどいい感じに連絡手段が乏しく、そして、ちょうどいい感じにテクノロジーが発達していて、面白いのです。
推理の面白さだけでなく、バブル時代の華やかさもあります。また、豊かな時代だけに、その上の世代の方々のつらさや苦労も語られます。たしかに、そういう時代でしたね。
ちょっぴりレトロですが、今読んでも色あせない少年少女向け推理小説です。気のいい映画クルーたちや、映画など創作、文化への愛情にあふれ、「都会のトム&ソーヤ」へと続く道筋も感じられます。
あの時代がもうレトロだっていうのが、時の流れを感じさせますが、このシリーズを読むと江戸川乱歩を読み返したくなりました。こうやって、いろんなものが受け継がれてゆくんだなあ。
小学上級からと書かれていますが、すべての漢字に振り仮名がふってあるので、かしこい子なら小学校中学年から読めます。挑戦してみてください。
子供向けだけど本格派のミステリーなので、大人でも楽しめます。雨の日には、お気に入りの飲み物と一緒にぜひどうぞ。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
おすすめです。残酷なシーンはまったくありません。人が死んだり、暴力シーンはないけど、推理は本格派と言う、良質の子供向けミステリです。
推理の面白さだけでなく、子どもたちに伝えたい大切なこともたくさん含まれています。
かなり昔のお話なので、保護者の方が時代背景を解説してあげると、親子の会話が盛り上がるかもしれません。
教授があまりにも食いしん坊で、読後はおなかがすくと思うので、好きなものをたくさん食べてくださいね。
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