【亡霊は夜歩く】夢水清志郎事件ノート2。学校の四つの伝説の謎【名探偵夢水清志郎事件ノート】【小学校高学年以上】

2024年3月11日

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亡霊は夜歩く 名探偵夢水清志郎事件ノート 2 はやみねかおる/作 村田四郎/絵 講談社 青い鳥文庫

亜衣たちが通う虹北学園には、四つの伝説がありました。そして、ある日、不気味にも、この伝説が現実となってうごきはじめたのです。浮かび上がるのは、15年前の哀しい事件。はたして名探偵はこの謎が解けるのか?

この本のイメージ 学校の怪談☆☆☆☆☆ 過去を乗り越える☆☆☆☆☆ 子どもたちのために☆☆☆☆☆

亡霊は夜歩く 名探偵夢水清志郎事件ノート 2 はやみねかおる/作 村田四郎/絵 講談社 青い鳥文庫

<はやみね かおる>
日本の男性小説家(1964年4月16日~ )。三重県伊勢市出身。代表作は「都会のトム&ソーヤ」「怪盗クイーンシリーズ」「名探偵夢水清志朗シリーズ」など

 作家の初期の作品のなかには、その人の「原点」みたいなものがあります。
 おそらく、はやみね先生にとって、これはそれなんじゃないかと思います。

 これは、「名探偵夢水清志郎事件ノート」の第2巻。学園の怪談にまつわるミステリーです。
 初版は1994年。

 お話は……

 主人公の亜衣たちが通う虹北学園には、四つの伝説がありました。
 「時計塔の鐘が鳴ると人が死ぬ」「夕暮れどきの大イチョウは人を喰う」「校庭の魔方陣に人がふる」「幽霊坂に霧がかかると、亡霊がよみがえる」。

 ところが、ある日、壊れているはずの時計塔の鐘が鳴り響き、次々と伝説が現実になりはじめたのです……

 はたして、この怪異現象にはどんな意味があるのか。そして、名探偵はこの謎を解けるのでしょうか。

 ……と、いうのがあらすじ。

 はやみね先生は、もと小学校教師で、これは兼業作家時代に書いた小説だそうです。
 つまり、これを書いているとき、はやみね先生は現役の小学校教師だったということ。

 小学校教師! 小さな子どもの世話ができて国語算数理科社会全教科教えることができて、なおかつピアノが弾けて、歌が歌えて、体育が教えられないといけないという、スーパーサイヤ人しか勤まらないような超ハードな仕事……。その合間に小説を書いていたとは、おどろきです。

 そういう気持ちで読むと、これはかなり挑戦的なお話です。もちろん、正体を隠してペンネームを使っていたから書けた作品なんでしょうけども、現役の教師が書いたと思うと、登場する先生方の言葉のひとつひとつに重みを感じます。

 テーマは「校則」。

 厳しすぎる校則に、真っ向から立ち向かった女生徒、染井芳野は、15年前に哀しい死を遂げていました。その彼女への想いによって起きた怪事件を、夢水清志郎が解き明かす物語です。

 かつての親友を失った女性は成長して教師になっており、生徒に校則を守らせる立場になっていました。また、教え子を失った老教員も、そろそろ定年を迎えようとしていました。

 物語の中で、校則とは子どもへの教育のためではなく大人が子どもを管理しやすくするためにあるものだ、とはっきり書かれており、これを現役教員時代に書いたのであれば、たいへんな覚悟があったはずです。

 「都会のトム&ソーヤ」からはやみね作品を知ったばかりの、はやみね初心者のわたしですが、はやみね先生が腕白ではねっかえりで、やんちゃな男の子たちの物語にこだわる理由がわかってきました。
トム・ソーヤにちなんだ理由も。

 「都会のトム&ソーヤ」は、わくわくする子供心に満ちた冒険小説ですが、この「亡霊は夜歩く」は、心に響く物語です。
 もちろん、「マチトム」のほうが小説としてずっと洗練されていますが、「亡霊は夜歩く」には、祈りのような強い想いが込められています。
 思えば、第1巻の「そして五人がいなくなる」も、五人の子どもたちが楽しい夏休みを手に入れるお話でした。

 物語には「ワープロ」が登場します。物語は1994年、まだインターネット誕生前夜、ウィンドウズ95発売の前年です。
 ワープロというのは、「ワードプロセッサ」の略称で、文章を入力して出力する事務機器です。タイプライターのハイテク版のような感じですが、いまの若い人はほとんどご存じないでしょう。パーソナルコンピュータやインターネットがこの世に誕生する以前の世界です。

 でも、こんなに時が流れても、物語は色あせない。
 つまりは、子どもたちを取り巻く状況は、ほとんど変化していないのです。

 わたしは、意思ある物語が好きです。意思ある物語には、時折、言葉に出来ない「何か」が降りることがあります。
 それは、作家が書くべくして書いた物語だと思うのです。

 「未来ってのは、過去を悔やむためにあるんじゃない、とぼくは思います」と言う名探偵の言葉で事件は終わります。

 この物語の中では、誰も死んでいません。そして、誰も不幸になっていません、登場人物はみんないい人ばかりで、ただ、名探偵が学校の怪事件を推理しただけの物語です。
 けれども、深い悲しみと、そこから立ち上がる人間の強さが描かれています。「マチトム」のようなハイセンスなおしゃれさは無いけれど、朴訥で誠実な想いがこめられた児童小説です。

 はやみね上級者の方々には言わずもがなのことかもしれませんが、「都会のトム&ソーヤ」しか読んだことが無い人は、ぜひ、この「亡霊は夜歩く」をお読みになってみてください。電子書籍もあります。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 残酷シーンや流血シーンなどはありません。HSPやHSCの方のほうが多くを受け取れるでしょう。一見、おどけたジュブナイルミステリーの形をとっていますが、純粋な祈りに満ちた物語です。

 読後は、お腹がすくと思うので、どうぞ、好きなものをたくさん食べてくださいね。

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