【お江戸あやかし物語】付喪神たちのつくろいもの屋さんシリーズ三作め。新感覚の和ファンタジー【くらのそとのお針箱】【小学校低学年以上】

2024年3月17日

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くらのそとのお針箱 お江戸あやかし物語  水沢いおり/作 石橋富士子/絵 偕成社

お江戸の片隅に、いっぷうかわったお店がありました。それは、あやかしたちが働く、「つくろいものや」さん。まち針のこまち、糸切りばさみのちょきち、縫い針のぬいばあ。今回は、ふしぎな娘が店へたずねてきて……

この本のイメージ 和ファンタジー☆☆☆☆☆ ほのぼの☆☆☆☆☆ かわいい☆☆☆☆

くらのそとのお針箱 お江戸あやかし物語  水沢いおり/作 石橋富士子/絵 偕成社

<水沢いおり>
1975年北海道生まれ。2006年第23回小さな童話大賞受賞。著書に『つくろいものやはじめます』がある。

<石橋富士子>
1958年神奈川県生まれ。著書に『ぺたこさんの手作り生活』『知識ゼロからの着物と暮らす入門』など。ちりめん小物の製作販売も手がける。

 古いさいほう箱から飛び出した、あやかしたちがお江戸の町でつくろいものやさんをはじめるという和ファンタジー、シリーズ3冊目です。

 古い道具が100年の時を経ると、魂がやどるという「九十九神(付喪神)つくもがみ」という言い伝えがあります。
「もの」にも心があり、長い時を経ると神様になると言う考えです。物体そのものが神様になると言うのは、日本独特の考え方だと思います。

 このお話は、古い古いさいほう箱の道具たちに魂が宿り、あやかしとなった道具たちが蔵を飛び出してお江戸の町で「つくろいものや」をしながら、様々なお客さまのお困りごとを解決すると言うシリーズです。お客様の中には、人間もいるし、人間ではないあやかしのたぐいもいます。
この世界の「お江戸」では、人間とあやかしがそうとは知らず共存しているようです。

 「つくろいものや」と言うのは、布で出来たものの破れや穴を、針と糸でかがったり、継ぎをあてて修繕する仕事。

 これは「呉服屋」とか「小間物屋」とはちがい、つくろいものだけをするお店です。いまなら「リフォーム店」と言ったところですが、着物だけでなく、布で出来たものはすべて請け負います。

 江戸では、仕事が細かく細分化されていて、完成品を売る店と修理をする店は別で、それぞれが別の職人の仕事だったのです。
 これはリサイクルと失業対策であり、おかげでほとんど失業者のいない、かなり完成されたリサイクル社会でした。当時は子どもも働いていましたから、わらじからぬけたわらを拾い集める仕事や、ぬけた髪の毛を拾ってかつら屋さんに売る仕事もあったそうです。細分化の度合いがすごいですよね。

 さて、このつくろいものやさんで働くのは、お針箱に入っていた道具が化身した、つくも神たち。まち針のこまち姐さん、糸切りばさみのちょきち、縫い針のぬいばあの三人です。

 こまち姐さんのまち針は、手裏剣のようにとび、こまち姐さんにしか抜けないので、これでどこかに縫いとめられると動けなくなります。悪漢退治や捕り物に大活躍。今回もきんちゃっきり(巾着切り。すりのこと)から大事な財布を守ります。
 ちょきちの持っている糸切りばさみは人と人のえにしを、ちょきんちょきんと切る「縁切りばさみ」。悪い奴との縁を、あっと言う間に切ってしまいます。
 そして、小さな小さな手のひらサイズのおばあさん、ぬいばあは、針のすがたになると、すいすいと、どんなものでも縫い付けます。

 今回のお話は、
  ・再会
  ・四万六千日
  ・真夜中のお客
  ・うらまさり

 の四本です。

 この巻で、あやかしたちのお針箱を倉から出してくれた、大店のお嬢さん、おみつが登場し、あやかしたちと再会します。
 好奇心旺盛で、じゃじゃ馬娘のおみつは、あやかしたちの店をかぎつけて訪ねてきたのです。
 まだ桃割れ頭の、ういういしい娘さんですが、おこそ頭巾とかかむっちゃって、隠密みたいにお店をさぐっているのがかわいらしい。

 「四万六千日」は、人に悪さをする雷獣のお話、「真夜中のお客」は、つくろいものやにやってきた、不思議に少年のお話、「うらまさり」は、弟たちのために働く、気のいいおとせさんのお話です。

 挿絵はカラフルなカラーのものと白黒のものが二種類。カラーは、とにかく色使いがいいのです。パステル風味の、華やかな挿絵です。
 また、ひとつひとつのエピソードのあいだに、江戸風俗の説明が図解で入っていて、わかりやすい。今回は、いろんな着物の柄の説明が入っています。

 今回も、上下二段になっていて、本文で江戸っ子言葉があると、下段で解説しています。章末や巻末にまとめて「解説」があるより、このほうが絶対にわかりやすい。小さなお子さまに読みやすい、親切設計です。読み聞かせのときに「○○ってなあに?」と聞かれても、これなら大丈夫。

 文章は平易でわかりやすく、漢字にはすべて振り仮名がふってありますので、読みやすい本です。ひらがなさえ読めれば、こつこつ読めば読みきれるので小学校低学年からおすすめ。わからない言葉は解説がありますし、もっと知りたければインターネットで検索すれば、江戸時代のことを深く知ることも出来ます。

 男の子にも女の子にも、おすすめのお江戸ファンタジーです。お子様だけでなく、お年寄りへの読み聞かせにも。
 摩訶不思議なお江戸の街へトリップしましょう。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。かわいくて、カラフルなお江戸ファンタジーです。
 現代語を使った「なんちゃって時代劇」ではなく、言葉遣いはちゃんと古風な江戸ことばをつかっており、解説をいれるという本格派です。子供向けですが、大人のなごみ本としても、楽しく読めます。

 読後は、あったかい緑茶とおまんじゅうで、ちょっと一息。

 

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