【クルミわりとネズミの王さま】バレエでも有名なファンタジーの名作。クリスマスの不思議の物語【小学校高学年以上】

2024年3月20日

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クルミわりとネズミの王さま ホフマン/作 上田真而子/訳 岩波少年文庫

クリスマスの前日、フリッツとマリーのきょうだいは、ドロッセルマイヤーおじさんからのプレゼントを心待ちにしていました。たくさんのおもちゃの中から、マリーは不思議なクルミわり人形を見つけます。それが、マリーの大冒険のはじまりでした……

この本のイメージ クリスマス☆☆☆☆☆ 幻想☆☆☆☆☆ ハッピーエンド☆☆☆

クルミわりとネズミの王さま ホフマン/作 上田真而子/訳 岩波少年文庫

<エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン>
Ernst Theodor Amadeus Hoffmann, 1776年1月24日~1822年6月25日)は、ドイツの作家、作曲家、音楽評論家、画家、法律家。文学、音楽、絵画と多彩な分野で才能を発揮したが、現在では主に後期ロマン派を代表する幻想文学の奇才として知られている。本名はエルンスト・テオドール・ヴィルヘルム・ホフマン(Ernst Theodor Wilhelm Hoffmann)であったが、敬愛するヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトにあやかってこの筆名を用いた(伯父と同じ名前を嫌ったとも言われる)。(Wikipediaより)

 フィギュアスケートグランプリファイナルの中止が決定しました。競技年齢が短いスポーツなので、選手の皆さんは残念だと思いますが、年末のこの時期、連戦はとても大変なので、これもいい機会と思って、どうぞ身体を休めてください。こればっかりは、仕方がない。

クルミわりとネズミの王さま ホフマン/作 上田真而子/訳 岩波少年文庫

 さて、本日ご紹介するのは、ホフマンの「クルミわりとネズミの王さま」。
 これは、バレエやフィギュアスケートでおなじみの「くるみ割り人形」の原作です。
 原題はNusknacker und Mausekonig. 初版は1816年。日本語版の最も旧い翻訳は、1936年三笠書房より出版された「ホフマン全集」に収められたもの。この岩波少年文庫版の初版は2000年です。

 正確に言うと、バレエの「くるみ割り人形」は、「三銃士」「モンテクリスト伯」などで知られるアレクサンドル・デュマ(父親のほう)が、ホフマンの小説をもとにして「はしばみ物語」と言う物語を書き、それにチャイコフスキーが曲をつけて舞台化したもの。なので、バレエ版の主人公の名前はクララ。ホフマンの原作ではマリーです。

 デュマは、ドラマチックな勧善懲悪ものが得意なので、翻案された「くるみ割り人形」はとてもわかりやすく、クリスマスにぴったりのファンタジックなお話に仕上がっていますが、原作の「クルミわりとネズミの王さま」はちょっぴり怖い雰囲気。

 今風に言えば、デュマがパステルカラーのキラキラの夢物語だとすると、ホフマンはゴスロリな雰囲気のダークファンタジーと言う感じです。

 ストーリーは……

 クリスマスの前日に、マリーはドロッセルマイヤーおじさんから、ちょっと不細工なクルミわり人形をプレゼントされます。マリーはこの人形を気に入りますが、兄のフリッツとの取り合いで、壊れてしまいます。

 人形を気の毒に思ったマリーは、ハンカチで包んで介抱してあげました。

 その夜、マリーは不思議な夢を見ます。ネズミたちの大群が人形たちを襲ってきて、クルミわり人形が指揮官となって人形軍が迎え撃ち、戦っているのですした。

 七つの首がある恐ろしいネズミの王さまと戦うクルミ割り人形。マリーは、大好きなクルミ割り人形を助けようと加勢しますが……

 と、言うのがあらすじ。

 デュマの「くるみ割り人形」はかなりわかりやすい話に再構成されており、もともとのお話は同じですが、くるみ割り人形の謎や人形とねずみの王国、ねずみと人形たちの戦いは一夜の夢として描かれています。

 ところが、ホフマンの原作のほうは、もっと複雑で、ドロッセルマイヤー親子の正体や人形とネズミの王国は、もっと現実世界に近く、幻想と現実が入り混じった、摩訶不思議な世界が展開しています。

 斉藤洋先生が「ドローセルマイアーの人形劇場」で描こうとしていた世界観は、こちらです。現実と幻想の境目がかなりあいまいで、どこまでが現実でどこからが幻想なのか、わからない。

 クララが主人公のバレエ版は、ネズミがあくまで悪者で、呪いをうけたクルミ割り人形は、悪者と戦うヒーローのような要素があるのですが、ホフマン版は、この善悪の区別も曖昧です。

 と、言うのも、ソーセージの脂身が足りないくらいで激高してネズミを全滅させようとした王さまもけっこう大人気ないのです。ネズミは王妃さまに許可とってますしね。

 ねずみと言うのは、昔から貧しい労働者の比喩としても使われます。ねずみたちを貧しい人たち、ネズミリンクス夫人は下町の魔女みたいな存在だと思うと、そういうことなのかなとも思います。

 マリーは純粋で優しい女の子なのですが、フリッツがなかなかのクソガキ……もとい、活発で率直なお坊ちゃまなので、少しイラっと来るかもしれません。しかし、なんでも勝ち負けで決めようとするフリッツに逆らう、優しいマリーが最終的にクルミわり人形の呪いを解くのは、この作品のテーマの一つだと感じます。

 ただ、お話のラストも、かなり難解です。

ここからネタバレ 平気な方だけクリック
クルミわりとネズミの王さま ホフマン/作 上田真而子/訳 岩波少年文庫
これがレープクーヘン

 最後は、クルミ割り人形の呪いが解けてお菓子の人形の国の王様となったドロッセルマイヤー青年とマリーは結ばれるのですが、そのラストも夢と現実が入り混じっていて、はっきりしないまま終わっています。

 ハッピーエンドではあるのですが、その「ハッピー」に、ほんの少しの「不安」が残されたままなのです。

 もしかしたら、マリーは大怪我をした結果、高熱を出して死んでしまったのかもしれません。お菓子の国だと思ったのは死後の国で、青年も実はとっくに死んでいるのかもしれません。

 でも、それでは、どうして彼女はガラスで怪我をしてしまったのかと言うところへ戻ると、やっぱり人形たちとねずみの戦いは現実だったのではないか……と、いろいろと説明がつかなくて、怖いままなのです。

 読めば読むほど、幾通りにも解釈が出来る物語です。

 でも、怖いばかりのお話ではありません。登場するお菓子が全部、とてもおいしそうで、そして、かわいい。そこはキラキラ感満載。華やかなシーンもたくさんあります。

クルミわりとネズミの王さま ホフマン/作 上田真而子/訳 岩波少年文庫

 作中に登場する「ハチミツクッキー」とは、ペッファークーヘン(レープクーヘン)とのこと。スパイスたっぷりの日本ではジンジャークッキーと呼ばれているもののようです。ドイツでは、このクッキーでお菓子の家を創ります。
 かなり大きなクッキーなので、これらのお菓子が魔法で動いてねずみと戦うというのも、納得できますね。

 多くのファンタジーに影響を与えた名作です。この季節の読書にぴったり。バレエやフィギュアスケートが大好きな女の子は、ぜひチャレンジしてみてください。

 様々な考察、想像の余地が残るファンタジーです。本好きのお子さまへのクリスマスプレゼントに。バレエ鑑賞の副読本として。もちろん、大人にもおすすめです。
 これを読んで気に入ったらぜひ、「ドローセルマイアーの人形劇場」を。また、こういうテイストがお好みなら、漫画「からくりサーカス」もおすすめです。

 単純な漢字以外にはすべて振り仮名がふってありますので、とても読みやすい小説です。
 読書好き、バレエ好きな方の、冬のおうち時間にぜひどうぞ。

※この本は電子書籍もあります。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 少しダークなファンタジーです。かといって、残虐シーンや暴力シーンはありません。ゴスロリファッションや、ダークファンタジーが好きな方に。ファンタジーと言うより、幻想小説と言った感じです。

 また、文学的にも様々な解釈ができるので、親子で一緒に考察したりするのも、楽しそうな小説です。物語の裏を考えるが好きなお子さまにはおすすめです。

 読後は、レープクーヘン(手に入らない場合はジンジャー・クッキー)と、温かいコーヒーでひとやすみ。

 

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