【ほんとうのことしかいえない真実の妖精】真実しか口に出来ない、一人ぼっちの妖精は、一人ぼっちの女の子と出会って……【小学校低学年以上】

2024年3月20日

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ほんとうのことしかいえない真実の妖精 マット・ヘイグ/文 クリス・モルト/絵 杉本詠美/訳 西村書店

妖精は落ち込んでいた。自分がほかのだれとも似ていないから。19人いる女のきょうだいとも、38人いる男のきょうだいとも。それは、ジュリア大おばさんから、真実しか口に出来ないよう魔法をかけられたから。

この本のイメージ 真実とは☆☆☆☆☆ 絶望とは☆☆☆☆☆ 希望とは☆☆☆☆☆

ほんとうのことしかいえない真実の妖精 マット・ヘイグ/文 クリス・モルト/絵 杉本詠美/訳 西村書店

<マット・ヘイグ>
イギリスの作家。大人向けの作品に、「今日から地球人」(早川書房)などの小説やビジネス書がある。児童書作品で、ブルー・ピーター・ブック賞、ネスレ子どもの本賞金賞を受賞。

<クリス・モルド>
イギリスの作家、イラストレーター。文と絵の両方を手がけた作品を多数発表するほか、「ガチャガチャゆうれい」(ほるぷ出版)など多くの子どもの本のイラストも担当し、ノッティンガム・チルドレンズ・ブック賞を受賞。

<杉本詠美>
広島県出身。広島大学文学部卒。おもな訳書に、「テンプル・グランディン 自閉症と生きる」(汐文社、第63回産経児童出版文化賞翻訳作品賞を受賞)など。

 「クリスマスとよばれた男の子」に登場する「真実の妖精」を主人公にしたスピンオフ作品です。原書タイトルは、The Truth Pixie.初版は2018年。 日本での初版は2021年です。

 真実の妖精は、小さくてかわいい妖精ですが、ジュリア大おばさんから真実しか口に出来ないよう魔法をかけられたため、どんなときでも本当のことしか言葉にできません。

 そのうえ、わりと口が悪いので、周囲の人にどんどん嫌われてしまいます。おせじが言えないのです。
 巨大なトロルに捕まって、食べられそうになっているような絶体絶命の状況ですら、お世辞を言うことができません。命の危険があるときですら、トロルに憎まれ口(本当のことなんですが)をきいてしまいます。

 あるとき、ひとりぼっちの真実の妖精は、絶望的な状況にいる女の子アーダに出会います。

 お父さんが仕事をやめなくてはならなくて、住み慣れた町を引っ越さなければならなくなったアーダ。
 アーダは、「この町にいられないの?お父さんは仕事をやめなくてはならないの?お医者さまの手紙に書いてあるようなことにはならないよね?」と真実の妖精に聞きます。

 真実の妖精は、本当のことしか言えないので「どれもあなたの思うようにはならない」と、アーダの哀しみをより大きくします。はしごのない穴に落ちた気分になるアーダ。

 けれど、そこで真実の妖精は、「本当の言葉」で、アーダの心に言葉のはしごをかけるのでした。

 ……というのがあらすじ。

 「クリスマスとよばれた男の子」は、小学校高学年以上が対象の小説ですが、こちらは低学年向けのショートストーリーです。

 ほんとうのことしか言えない真実の妖精が、「どんなときでも本当のことしか言えない」と言う自分の個性に悩みつつ、孤独を抱えつつ、最終的には孤独な女の子を救います。

 ファンタジーなので、非常に極端に描かれてはいますが、現実にもいますよね。おせじの言えない人。もう少しそこで空気を読んでおけば損をしないのに……という場面で、真実や思ったことをそのまま、ドカンと口に出してしまう。

 そう言う人は、確かに大勢の友達に取り囲まれることはないけれど、少数の人に頼りにされます。

 わたしは技術者ではありませんが、長らくサポートスタッフとして開発の現場に一緒にいました。
 自分の乏しい経験で言うのは恐縮ですが、プログラムのバグを指摘する人は、往々にして嫌われます。だからといって、角が立つのを怖がって指摘しなければ、とんでもないことになってしまいます。

 最近は、バグを見つけるのは人間ではなくてAIにさせたほうが、人間関係にひびが入らなくていいのではないか、と言う流れになってきているようですが、それでも、「使った人の使い心地」など、「気持ち」にかかわることは、まだまだ機械では判定が難しいのではないかと感じます。

 おせじも言わず、嫌われることを怖がらずにバグを指摘してくれる人って、自分がバグを指摘されたときはたいてい、喜ぶんですよ。「うわあ、助かった。見つかってラッキー。ありがとう」みたいな感じで。

 でも、そう言う人が多数の人間関係の中で、人気者として人に囲まれているのは、あまり見たことがありません。(こう言う人って、本人はわりと、ひとりでも楽しそうなのですが)

 世の中は、ポジティブで前向きだから好かれるとか、ネガティブで悲観的だから嫌われる、と言う単純な問題ではないようです。

 しかし、ごく親しい人間にとっては、こう言う人はたいへん頼りになる、頼もしい味方です。真実の妖精はおためごかしは言わないけど、ほんとうの励ましはしてくれるから。

 この物語の「真実の妖精」も、自分の「真実しか口に出来ない」と言う欠点に悩みつつも、最終的に自分の個性を「ほんとうの励まし」に使い、ひとりの女の子を救います。

 人はいつか死ぬ。人生には必ず哀しい出来事がある。それは真実。
 けれど、人生には必ずすばらしいことがあるし、幸せなことだってある。それも真実。

 わたしは、このブログをはじめるときに、「好きな読書をたくさんして、好きな本について『好きだな』と思ったところをたくさん書こう」と決めました。

 それだったら、とくに何のスキルもない、何かの熟練者や専門家でもないわたしでも書けるからです。

 たとえば、わたしは、フィギュアスケートが大好きですが、もと選手でもなければ専門家でもないので、技術的な難しいことはさっぱりわかりません。
 だから、選手の演技を見ても「悪いところ」はわからないのです。
 専門家ではないので、欠点を理路整然と説明することなんて、できません。

 けれど、初心者でも「好きなところ」を褒めることはできます。いいなと思ったところを書くことはできます。そして、もともとフィギュアスケートを見るのが大好きだから、いいな、好きだなと思うところは、すごくたくさんあるのです。

 本も同じで、読書を楽しんだ後、いいなあとか、上手いなあ、すごいなあと思うところを見つけて書くのは、ただの読書好きでもできます。そして、なにより楽しい。

 「ほんとうのことしかいえない真実の妖精」は、一人ぼっちの存在同士が出会い、支えあう話でもあり、絶望の中から希望を見つける話でもあり、そして、非常にめずらしい個性を持った存在が、自分の個性をポジティブに生かして他人と幸せにかかわりあうという多様性の物語でもあります。

 こう言う人って、プログラマーとか、エンジニアにとても多いので、わたしはすごく親しみを感じて読みました。アーダがしあわせになったのもうれしいけれど、真実の妖精が幸せなのもうれしい。

 小さなお子さまの中には、アーダみたいな状況に陥った子もいれば、真実の妖精みたいな子もいると思います。どちらのお子さまにも、希望を与えてくれる、素敵な本です。

 クリス・モルドのとぼけた絵がたくさん入っていて、字はほどよい大きさと分量で、絵本を卒業して長めの物語を読み始めた年頃のお子さまにおすすめです。すべての漢字に振り仮名が振ってある総ルビなので、ひらがなとカタカナさえ読めれば、コツコツと最後まで読むことができます。もちろん、読み聞かせにも。

 「クリスマスとよばれた男の子」を読まなくても、充分楽しめます。

 年末年始のおうち時間にぜひどうぞ。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。ゆかいで、クスっとできて、それでいて、ラストはじーんとするハッピーエンドです。HSCのお子さまは、多くのメッセージを受け取れると思います。
 現在、苦しい状況にいるお子さまや、思ったことをズケズケ言ってしまう理系タイプのお子さまにおすすめです。大人が読んでも、心があたたかく、癒される本です。

 読後はあったかいスープでひとやすみ。

 

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