【へんくつさんのお茶会】森の不思議なパン屋さんの、ほんわか日常ストーリー【おいしい山のパン屋さんの物語】【小学校中学年以上】

2024年3月20日

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へんくつさんのお茶会 おいしい山のパン屋さんの物語  楠章子/作 井田千秋/絵  学研プラス

ぽっこり山のふもとに一軒のおいしいパン屋さんがありました。パンを焼いているのは、気難しく、へんくつばかり言っているおばあさん。「へんくつさん」と呼ばれています……

この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ 妖精や動物☆☆☆☆☆ ほのぼの☆☆☆☆☆

へんくつさんのお茶会 おいしい山のパン屋さんの物語  楠章子/作 井田千秋/絵  学研プラス

<楠章子>
大阪府に生まれる。第45回毎日児童小説・中学生向きにて優秀賞受賞。2005年に「神さまの住む町」(岩崎書店)でデビュー。
2017年「ばあばは、だいじょうぶ」(童心社)で課題図書に選定、児童ペン賞童話賞を受賞、のちに映画化される。
そのほか「ハニーのためにできること」(童心社)、「お母さんは、だいじょうぶ」(毎日新聞出版)、「星空をつくる プラネタリウム・クリエーター大平貴之」(文研出版)など著書多数。

<井田千秋>
イラストレーター。書籍の挿絵、装画などで活躍中。
「今日は心のおそうじ日和」(メディアワークス)、 「ぼくのまつり縫い」シリーズ(偕成社)の絵を手がける。
著書に「わたしの塗り絵BOOK 憧れのお店屋さん」 「わたしの塗り絵 POST CARD BOOK 森の少女の物語」(ともに日本ヴォーグ社)などがある。

 「まぼろしの薬売り」の楠章子先生がおくる、へんくつで、気難しくて、ぴりりと辛口のおばあさん、へんくつさんがヒロインのほのぼのファンタジーです。初版は2020年10月。

 へんくつさんは、ぽっこり山のふもとでひとりで暮らしているパン屋さんです。パン屋さんには、看板は出ていませんが、おいしいので森の住人に大評判。人間はお金を、森の動物たちや妖精たちは、森のめぐみや、何か役立つのをお金のかわりに持ってくるのでした。

 今日も、へんくつさんのもとへ、お客さんがやってきます……

 ……と言うのがあらすじ。

 物語は、六つのお話のオムニバス。それぞれ

 ・かんばんのないパン屋さん ~ぽってりクリームパン~
 ・やくそくの金貨 ~かりっとクルミのカンパーニュ~
 ・サルのへんくつさん ~洋ナシのかしゅかしゅデニッシュ~
 ・なかなおりのパン ~こんがりフレンチトースト~
 ・こまったしょうたいじょう ~黒こげのバターロール~
 ・へんくつさんのお茶会 ~ふっくらシナモンロール~

 と、なっています。

 ヒロインが幼い子どもだったりすると親子の物語とか、若い女の子だとラブ要素が入ることが多いものですが、へんくつさんは、おばあさんなので、お年寄り特有の問題も題材に入っていて、児童書としてはそれが新鮮です。

 わたし自身、歳をとってきたと実感するのは、親しい人間と死に別れるようになってきたこと。子どもの頃はぴんと来ませんでしたが、祖母が昔「友達はもう、死んでいる人間のほうが多い」と言っていたのを思い出すようになりました。

 日本は高齢化社会ですし、災害も多いので、そういうふうになってゆくのかもしれません。

 へんくつさんは、辛口で、甘い事は言いませんが、心の中はとってもやさしい、おばあさんです。
 「わたしはけちじゃないんだよ」が口癖。愛想が悪いけれど、気前はいいのです。

 気難しくて、甘いことを言わないへんくつさんのパンが、心をこめて丁寧につくられた、とってもおいしいパンだと森のみんなはよく知っています。

 ごみごみした都会ではなく、森の奥で看板も出さずに、ひっそりと、でも毎日規則正しくきびきびと働いているへんくつさんのもとへ、三時になるとお客さんたちがお茶をしにやってきます。
 そこには、人間だけでなく、動物たちや、小さな小人の妖精や、さまざまなお客さんたちが、「へんくつさんのパン」を通じてつながっているのでした。

 物語の中で、こういうポジションにいるのは、ふつうなら、いつもニコニコした、ぽっちゃりした優しそうなおばあさんです。子どもは遠くで暮らしているけれど、孫はたくさんいて、クリスマスにはカードがどっさり届くような。

 でも、へんくつさんは、一人暮らし。落ち着いたひとりの生活が大好きで、ずっと森でひとりでパンを焼いてきました。

 そんなへんくつさんですが、けっしてお客は途絶えません。むしろ、売り切れてしまわないように、急いで買いに来るお客さんもいるし、お茶会となれば、いそいそと訪ねてくる動物たちもいます。
 人嫌いで、無愛想で、憎まれ口ばかりの、そして、自分からはパン屋の外に出て行こうともしない、若くも綺麗でもないおばあさんなのに、へんくつさんは、愛されているのです。

 これって、ある意味とても今風でリアルだなと思います。
 お年寄りって、優しいのは自分の孫にだけで、たいていはへんくつです。でも、別に冷血なわけじゃない。いろんなことがあって、愛想をふりまく気力や元気を忘れているだけなのです。

 でも、人に優しくしたいと言う気持ちはあるから、自分にできるかぎりはする。そして、それが感じ取れる人は、集まってくる……。

 大都会で、大勢の人にいつもニコニコして接するのはたいへんだけれど、森の奥の小さな家で、訪ねてきてくれるお客さんに、丁寧に焼いたパンを売ることはできる。へんくつさんは、自分の出来る範囲をしっかりと決めて、その中で誠実に仕事をすることで、森の住人たちと固い信頼関係を築いてきたようです。

 へんくつさん自身は、それには気がついていないようですが……。

 核家族化で、小さな子どもたちは自分の祖父母との交流が減りましたが、高齢化社会により、子どもはお年寄りに囲まれて生きていかざるをえなくなりました。

 そんな時代を反映したようにも思える、メルヘンファンタジーです。

 もともと、進研ゼミの小学三年生用の付録に掲載されていたストーリーらしく、おそらくは小学校中学年向けなのだと思いますが、とても素敵なストーリーなので低学年からぜひともお読みいただきたいです。その場合は、振り仮名が足りないので、保護者の方が鉛筆で振り仮名を追加してあげてください。
 もちろん、読み聞かせなら、低学年から。オムニバスなので、読み聞かせしやすいと思います。

 メルヘンな世界観を楽しみつつ、小さな子どもが、お年寄りの気持ちをちょっぴり理解することもできる、世代間に橋をかけるファンタジーです。

 赤ちゃんと同様、お爺さんやお婆さんも性別を超えるので、男の子でも女の子でも楽しく読めると思います。
クスッとしたり、うきうきしたり、しみじみ、じーんとしたり。わたしは少し泣いてしまいました。

 ぜひ一度、このピリリと辛くてやさしい世界に触れてみてくださいね。

 ※この本は電子書籍もあります

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ちょっぴりせつないお話はありますが、ネガティブな要素はありません。HSPやHSCの方のほうが多くのことを感じ取れると思います。
 ファンタジーですが、心があたたまる、ヒューマンストーリーでもあります。

 シリーズ化するようなら、つづきも読んでみたいですね。

 読後は、もちろん、おいしいパンでティータイム。クリームパンか、シナモンロールがおすすめです。

 

商品紹介ページはこちら

 

 

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