【ほんとうの友だちさがし】ほんとうの友だちはできるのか? 真実の妖精シリーズ第二巻【真実の妖精のおはなし】【小学校低学年以上】
「真実の妖精」は、ジュリアおばさんの呪いでほんとうのことしか口に出せませんでした。嘘がつけないので、おせじも言えません。でも、人間の友達アーダができてからは、とっても幸せでした。ところが、アーダが学校に通うようになって……
この本のイメージ 自分らしさとは☆☆☆☆☆ 友だちとは☆☆☆☆☆ ふつうとは☆☆☆☆☆
ほんとうの友だちさがし 真実の妖精のおはなし マット・ヘイグ/文 クリス・モルド/絵 杉本詠美/訳 西村書店
<マット・ヘイグ>
イギリスの作家。大人向けの作品に、「今日から地球人」(早川書房)などの小説やビジネス書がある。児童書作品で、ブルー・ピーター・ブック賞、ネスレ子どもの本賞金賞を受賞。
<クリス・モルド>
イギリスの作家、イラストレーター。文と絵の両方を手がけた作品を多数発表するほか、「ガチャガチャゆうれい」(ほるぷ出版)など多くの子どもの本のイラストも担当し、ノッティンガム・チルドレンズ・ブック賞を受賞。
<杉本詠美>
広島県出身。広島大学文学部卒。おもな訳書に、「テンプル・グランディン 自閉症と生きる」(汐文社、第63回産経児童出版文化賞翻訳作品賞を受賞)など。
「クリスマスとよばれた男の子」に登場する「真実の妖精」を主人公にしたスピンオフ作品「ほんとうのことしかいえない真実の妖精」の続編です。原書タイトルは、The Truth Pixie Goes to School.初版は2019年。 日本での初版は2021年です。
完全にお話が続いているので、まずは「ほんとうのことしかいえない真実の妖精」からお読みください。
「ほんとうのことしか言えない真実の妖精」のレビューはこちら↓
いたずらなジュリアおばさんに「ほんとうのことしか口に出来ない」呪いをかけられた妖精アヌーシュカは、どんなときでも真実しか言えません。絶体絶命で、トロールに食べられそうになっても、相手にお世辞が言えません。
そんなこんなで、友だちもいなくてさみしい思いをしていた真実の妖精ですが、前回のお話でアーダという人間の友だちができました。
アーダと真実の妖精は大の仲良しです。
引越しして新しい学校に通うことになったとき、アーダは真実の妖精と一緒に学校に通います。ところが、いじめっこのレーナやその取り巻きたちに「あんたたちはふつうじゃない」といじめられ、やさしそうな人間の子どもにも「妖精なんかと友だちだと友だちになれない」と言われてしまいます。
人間の友だちが欲しいアーダはつい、「妖精は友だちなんかじゃないわ」と口走ってしまうのでした。
さて、アーダと真実の妖精の友情はどうなってしまうのでしょうか?
……と、いうのがあらすじ。
アメリカは日本よりずっと個性や多様性の国だと思っていましたが、アメリカにも同調圧力はあるんですね。
真実の妖精があまりにもほんとうのことをズケズケ言うので、一緒にいるアーダはクラスメイトのコミュニティに入れてもらえなくなりました。
さみしくなったアーダは、一度は真実の妖精を見捨ててしまいます。傷ついた真実の妖精は、ふるさとに帰りますが、いとこのシリルはジュリアおばさんの呪いを受けて、「嘘しか言えない」体質にされていました。
ところが、シリルは人気者なのです。人間は、真実が嫌いなのでしょうか……。真実の妖精が気づいたことは……
「人はみんな真実が好き。ただし、自分のことを言われるのはべつ」。
これは真理ですね。
ただ、嘘しか言わないシリルが他人をほめてばっかりというのが、極端すぎだと思いました。人をけなす人が正直で、褒める人が不正直っていうのは、そこだけはちょっと賛成できないのですが……。
だって、たいていの人の長所と短所は同じところにあるから。
デリカシーの無い人はおおらかだし、神経質な人は細かいところに気がつきます。
せっかちな人は積極的で躊躇が無いのがいいところだし、物忘れやケアレスミスが多い人は、たいてい好奇心が旺盛で新し物好き。
ネガティブで過去のことをクヨクヨしがちな人は、記憶力が良くて掘り下げて考えるのが得意。自分のことを責めがちな人は責任感が強く、反対に、いい加減で大雑把な人はポジティブな人が多い。
相手を褒めるか、けなすかは解釈しだいだし、嘘をつかなくても他人を褒める事はできるのでは。
とは言え、嘘でもお世辞を言えば人が集まってきて、歯に衣着せぬ人が嫌われがちなのは事実。
でも、大切なのは、友だちの「数」じゃない。
アーダは一度は、「ふつう」の友だちが欲しくて自分を偽りますが、やがては、「ふつう」を演じる息苦しさに気づくのでした……。
子どもの世界だけでなく、大人の社会にも、アーダのような人も、レーナのような人も、真実の妖精のような人も、シリルのような人もいます。
「妖精さえいなければアーダと友だちになれるよ」と言った、気弱で優しそうな人も、現実にはたくさんいます。その子もその子で、妖精に対する偏見を信じこんでいるだけで悪い子ではなかった。
みんなが「ふつう」と言う、目に見えないものに囚われて、ほんとうの友情を育めない世界。でも、これは子どもの世界に限ったことじゃない、難しい問題です。
真実の妖精がアーダに言います。
「あなた自身があなたの友だちになるの」
これって、「自己肯定感」ですよね。無理をして自分でないものになろうとしないで、ありのままの自分の価値を認めよう……
お話はファンタジーであり、物語としては単純で、ラストも楽しいハッピーエンドですが、学校に通いはじめた年頃の子どもにとって、大切なことがたくさん書かれています。
また、大人が読んでも心が洗われるので、読み聞かせにもおすすめです。
自分を取り巻く環境の都合でさみしい思いをしているアーダのような子、「ふつう」に囚われるレーナのような子、偏見に振り回されるアーダの友だちのような子、そして、本当のことしか言えない真実の妖精のような子に、救いを与えてくれるファンタジーです。
とぼけた絵と、はっちゃけたレイアウトで読ませてくれる、ゆかいな本ですが、テーマは深い。絵が多くて文章は少なめなので、読みやすく、すべての漢字に振り仮名がふってある総ルビです。だいたい、絵本を卒業して、長いお話を読み始めくらいの頃におすすめ。まずは「ほんとうのことしかいえない真実の妖精」からお読みください。
学校に通いはじめた小さなお子さまなら、女の子にも男の子にもおすすめです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
小さな子が学校に通うようになってから体験する様々な問題を描いているので、物事を深く掘り下げるHSCのお子さまにとくにおすすめです。
読後は、あったかいココアを飲んで、温まりましょう。サンタクロースの国フィンランドのお菓子、シナモンロールやブルーベリータルトもいいですね。
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