【私立探検家学園】探検家を育てる奇妙な学校ではじまる学園物語。奇想天外、謎また謎の物語の開幕【はじまりの島で】【小学校中学年以上】

2024年2月8日

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私立探検家学園 1   はじまりの島で  斉藤倫/作 桑原太矩/画 福音館書店

わたし、松田コロン。小学五年生。行方不明のおじいちゃんのはからいで、この春、ちょっとふつうじゃない学校にに通うことになったの。その名も「私立探検家学園」。いったい何が待ち受けているんだろう…… (私立探検家学園 1   はじまりの島で  斉藤倫/作 桑原太矩/画 福音館書店)

この本のイメージ サバイバル☆☆☆☆☆ 奇想天外☆☆☆☆☆ 学園ストーリー☆☆☆☆☆

私立探検家学園 1   はじまりの島で  斉藤倫/作 桑原太矩/画 福音館書店

<斉藤倫>
詩人。「どろぼうのどろぼん」(福音館書店)で、第48回児童文学者協会新人賞、第64回小学館児童出版文化賞を受賞。おもな作品に「せなか町から、ずっと」「クリスマスがちかづくと」「ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集」「さいごのゆうれい」(以上福音館書店)、「レディオワン」(光村図書)、「あしたもオカピ」(偕成社)、「新月の子どもたち」(ブロンズ新社)」絵本「とうだい」(絵 小池アミイゴ/福音館書店)、うきまるとの共作で「はるとあき」(絵 吉田尚令/小学館)、「のせのせ せーの!」(絵 くのまり/ブロンズ新社)などがある。

<桑原太矩>
1985年生まれ。漫画家。北海道札幌市出身。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。2010年「鷹の台フリークス」でアフタヌーン四季賞佳作、2011年「ミミクリ」で同賞準入選。おもな作品に「とっかぶ」(講談社/全4巻)。現在「good!アフタヌーン」で「空挺ドラゴンズ」を連載中。

 「おおっ?」と言うタイトルで、惹き付けられました。初版は2022年10月。

 この地球上に未発見の大陸がなくなってから、「探検家」はあまり聞かない言葉になりました。けれども、まだまだ地球の全容がわからなかった時代は、この探検家という人たちは国家レベルで必要な人たちだったのです。

 現代の「探検」は未踏の土地に分け入ったり、未知の土地を発見したりではなく、もしかしたら新発明や新技術の領域なのかもしれません。けれど、大げさな言い方をすれば、生きることそのものが探検であるとも言えます。

 これは、そんな「探検」を子どもたちに教えてくれる物語。

 主人公、松田コロンは、どこにでもいる、平凡なせんべい屋のひとり娘。でも小学校に上がる前、変わり者の風来坊のおじいちゃんと二年ほど一緒に暮らしたことがありました。

 その時、どういうわけかおじいちゃんがコロンを気に入り、勝手にとある学校に入学手続きをしてしまっていたのです。
それが「私立探検家学園」。

 小学五年生になると入学資格ができるため、コロンはいきなりこの奇妙な学校に入学することになります。

 そこは「正解のない世界」。
 どんなことをしてもいい、自分だけの創意工夫で困難を乗り越えてゆく、探検家をめざす子どもたちの学校。

 世界中から集められた、一癖も二癖もある学友たちと奇妙な授業を受ける日々。
そして、突然、その日はやってきました。

 「明日は実習です」。

 さて、コロンたちは「実習」を見事クリアできるのでしょうか?

 ……というのがあらすじ。

 主人公は松田コロンちゃん。幼いときに風来坊のおじいちゃんからサバイバルの教育を受け「みどころがある」と思われていたという女の子。

 学園に集められた子どもたちは、それぞれ、なかなか強烈な個性の持ち主。さわやかな優等生、ジム・スコット。気障でおしゃれなニコラ・ポーロ、運動神経抜群のマリッサ・バートン、カリスマのある女の子アリカ・リヴィングストン、身近なものを上手に使いこなす女の子間宮流(ながる)ちゃんなどなど……

 この奇妙な学園で、世界中から集められた優秀な子どもたちと一緒に、コロンは不思議な授業を受けることになりました。

 この学校と言うのが、子どもをいきなり千尋の谷に突き落とすようなところで、何も説明をもらえないまま子どもたちは自分たちの創意工夫で困難を突破することを要求されます。
 それは、「どれが正解」というものではなく、何が正義で何が卑怯でもなく、ただ、困難を乗り越え目的を達成する世界。

 そこには、タイミングや運も必要で、先生は平気で「運をよくするように」とすら言います。

 でも、現実世界では運も大事です。
 現代の日本では、過剰な努力信仰のようなものがあり、「努力すればなんでも達成できる」と思われがちですが、運やタイミングが成功の後押しをした例は、枚挙に暇がありません。

 ただ、せっかくの運も、地道に努力をしていないと掴み損ねてしまうことはあります。
 それはそうなのですが、現代日本ではうまく行かなかった人に対して、過剰に「日ごろの努力が足りなかった」と責める傾向があるため、「どんなに努力しても運が悪ければ成功しないこともある」と言うことを、もう少し考慮しても良いのではないかと思ってしまいます。
 とことん努力してる人にだって、運やタイミングは大切なのです。

 この物語は、「教えられたことを、わかっている範囲で、真面目にコツコツとやってさえいればかならず成功する」と言う、現代日本の努力神話への、心躍る挑戦状です。

 ミウラ先生は探検家精神の必要性を「この世界をとめないため」と言います。

 そう、他人がしないことをすること、前例のないことをすること、未知のことに挑戦すること、まだこの世界にない、新しいものや考えを生み出すことは、それらすべてが「探検」であり、それは人類を前進させる行為です。

 この奇妙な学園で、コロンは何を学び、どう成長するのでしょうか。

 主人公の小さな探検家も、親友も、ライバルらしい子もみんな女の子。もちろん、男の子もいます。
 でも、読んでいるときはキャラクターの性別を忘れてしまいます。主人公たちが女の子だからと言って決して少女小説ではなく、真正面から「探検の楽しさ」を描いてくれる本格派の冒険小説なのです。

 固い固い固定観念にガツンとひびを入れてくれる、爽快な意欲作。

 すべての漢字に振り仮名があるわけではありませんが、難しい漢字はなく、なるべくひらいて書かれており、文章もコロンちゃんの一人称で読みやすいので、小学校中学年から。コロンちゃんが五年生なので、だいたいそこらへんを想定していると思うのですが、4年生あたりから読めるのではないかと思います。

 しかし、ストーリーは凝っていて、大人でも楽しめます。テーマもかっこいい。

 最近は人ごみに出かけるよりも、山などにキャンプにでかけるほうが人気ですが、そんな時代にぴったりの小説です。まだまだ寒いこの季節、おうちで冒険物語はいかがでしょうか。
 ちぢこまっていた心が羽ばたくような、わくわくする物語を、ぜひどうぞ。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 冒険、探検がテーマですが、残酷なシーンや流血シーンなどはいっさいありません。
 心躍る冒険小説です。主人公は女の子ですが性別が気にならないような描き方がされており、男の子でも女の子でも楽しく読めます。

 固定観念をいい意味でぶち壊してくれる面白さがあります。
 読後は、おせんべいとお茶でひと休み。

商品ページはこち

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