【ヤーガの走る家】死んだ人を送り出すヤーガの家に生まれた少女の物語。運命は変えられるのか?【小学校中学年以上】

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ヤーガの走る家 ソフィー・アンダーソン/作 長友恵子/訳 後藤貴志/挿画 小学館

わたしの家には二本のニワトリの足がついている。夜中にすっくと立って猛スピードで駆け抜けるの。おばあちゃんはヤーガ。死者の魂を、あの世に送り届けるのが仕事だ。わたしは、そんなおばあちゃんと二人暮らしで……

この本のイメージ バーバ・ヤーガ☆☆☆☆☆ 家族愛☆☆☆☆☆ 運命を変える力☆☆☆☆☆

ヤーガの走る家 ソフィー・アンダーソン/作 長友恵子/訳 後藤貴志/挿画 小学館

<ソフィー・アンダーソン>
イギリス・スウォンジー生まれ。現在は湖水地方に夫と4人の子どもともに住む。

<長友恵子>
翻訳家。エッセイスト。北海道網走郡美幌町生まれ。ボストン大学経営大学院修了。2004年「中世の城日誌」岩波書店にて産経児童出版文化賞JR賞を受賞。「紙芝居文化の会」運営委員。JBBY(日本国際児童図書評議会)会員。やまねこ翻訳クラブ会員。

<後藤貴志>
愛知県出身。少し毒気のある、夢心地な世界観を得意とする。書籍装画・児童書挿絵・絵本・雑誌等で活動中。

ヤーガの走る家 ソフィー・アンダーソン/作 長友恵子/訳 後藤貴志/挿画 小学館

 ロシアに古くから伝わる「バーバ・ヤーガ」の伝説にインスパイアされたファンタジー。原題はThe House With Chicken Legs. 初版は2018年。日本語版初版は2021年3月です。

 ニワトリの足がついた移動する家に暮らす老婆、バーバ・ヤーガ。伝説では、骨と皮だけにまで痩せこけて、脚はむき出しの骨だけ。森の中の一軒家に住んでいて、その家は鶏の足の上に建った小屋で、庭にも室内にも人間の骸骨が飾られているという。

 映画「ハウルの動く城」のニワトリの足の元ネタが、バーバ・ヤーガの家だと思います。ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「銀のらせんをたどれば」にも、バーバ・ヤーガは登場します。(映画「ハウルの動く城」で城にニワトリの足をつけたのは、宮崎駿監督です。原作の動く城にはそういった設定はありませんでした)

 この伝説をもとにして、作者は死者の魂を歓迎し、癒し、慰め、あの世への幸せな旅路へと送る役を担った特別な存在ヤーガの物語を創りあげました。

 主人公はマリンカ。12歳。ヤーガの家に生まれ、おばあちゃんのバーバに次のヤーガとしてあとを継ぐことを期待されている女の子です。
 けれども、マリンカは、来る日も来る日も死んだ人とパーティーし、「扉」から送り出し、定期的に移動する家で暮らす、今の暮らしが嫌でたまりませんでした。

 友達がいないマリンカには、バーバと「家」だけ。生きている人間の友達となかよくなっても。すぐに「家」は移動してしまいます。
 ふつうの子どものように、学校に行き、友達を作りたい。街にも行きたい。友達と遊びたい。

 さまざまな不満が爆発しそうになっていたマリンカ。ついに、バーバに内緒でとんでもないことをしてしまいます。その結果、マリンカはたいへん後悔することになるのですが……

 ……と、言うのがあらすじ。

 閉塞された環境の中で、マリンカの不満はぐつぐつと煮えたぎっています。
 前半は、マリンカの環境への不満と、飛び出したい心、そしてその欲望が身勝手なまでに暴走してしまい、大きな問題を起こしてしまうまで。結果的にマリンカは、一番大切なものを失ってしまいます。

 その後、意外な事実が判明します。マリンカはバーバに嘘をついて勝手なことをしてしまったわけですが、バーバもマリンカに嘘をついていたとわかるのです。ショックをうけるマリンカ。

 状況を打開しようとするたびに、マリンカの状況はどんどん悪くなってゆきます。

 このお話、ほんとうにラスト、ちゃんとまとまるのかしら、どんなふうに着陸させるんだろう……もしかしたら、この本、ご紹介できないかもしれない……と、読んでいて何度も不安になりました。
 それくらい、ラストギリギリまで、とんでもない事態が続きます。

 このお話の「家」や「ヤーガ」が何かの比喩だとすると、家業や跡取り問題に通じるものがあります。
 ここでのヤーガは、お寺の住職にも似ています。特殊な家業の家に生まれ、様々な事情で「おまえしかいない」と言われる環境でも、その仕事を引き受けるべきなのか、それとも……

 日本だと、たいていの場合、覚悟を決めて引き受けますし、それが出来ない場合でも、家や保護者の気持ちを汲んで、あまりはずれたことはしないものです。よく、「スープの冷めない距離」などと言いますが、そこそこの距離感を保って独立する、と言うのが、賢いやり方とされます。

 ところが、マリンカは強情さと頑固さで、自分のやり方で強引に押し切ろうとします。「自分の人生を自分で決めたい」「生きている人間と交流したい」と言う気持ちが強すぎて、バーバや「家」の愛情を息苦しいと感じ、邪険にしてしまいます。

 このあたりは、「なんてわがままな」「恩知らず」「かわいげがない」と言われそうな性格です。とにかく、我が強いのです。

 作者のソフィー・アンダーソンは、なぜ主人公のマリンカをここまで癖の強い性格にしたのでしょう? 「そこそこ」の折り合いをつけないマリンカの性格は、様々な騒動を起こし、それによってマリンカ自身も深く傷つきます。

 そして、ふつうの流れだったら、大きな喪失を経験した後に、「こんなことなら、バーバの言いつけを守っていればよかった」「バーバのためにも、良いヤーガになろう」と優等生の人生を目指そうものなのに、「いや、なんとかしてみせる!」と、さらに暴走するのです。

 この性格は、なかなかすごい。日本だと、受け入れられない人も多いかもしれません。
 懲りて萎縮するという事がない……どこまでも突き抜けてゆく。

 しかし、読み続けてゆくと、彼女の強情さや頑固さがあってこそのこのラストだったのかなと思わせられます。

 マリンカは、そもそも最初の最初から、運命に抗い、超えてゆく子どもだったのです。

 確かに、「自分勝手で浅はかな行動を反省し、深い罪悪感を感じて、バーバの愛に報いるために優等生ヤーガとして生まれ変わる」、と言う人生も、悪くはないんだと思います。というか、ふつうはそうしようとするし、どう考えても、それが「正しい生き方」です。

 しかし、それでは、「ヤーガである以上は家族をもてないし、一人ぼっちで移動し続ける家とともに、毎日死者を送りつづける生活をしなければならない」と言うヤーガたちの運命は変えられません。

 ヤーガがこの世の循環の中で必要な存在なら、ヤーガだって幸せになっていいはず……ヤーガであるか、ないか、だけでなく、ヤーガ以上の、ヤーガを超えたヤーガが生まれれば、ヤーガの運命も変わってゆけるはず……

 生きてる人も幸せ、死者も幸せ、そして、生者と死者のあいだにいるヤーガも幸せ、そんな世界を生み出すために、マリンカと言う存在が必要だったのだ、と考えると、この小説が海外で高い評価を得たと言うのが、理解できます。とはいえ、なかなか癖が強いんですけども。

 文章は、マリンカの一人称で書かれているので、読みやすく、わかりやすいのですが、かなりのボリュームがあります。本の好きなお子様向きです。小学校中学年から。

 自分の人生とは、生きるとはなんだろうと考え始めたころに、おすすめの小説です。設定がしっかりしており、親子愛もテーマになっているので、大人が読んでも楽しめます。

 運命を超えてゆく女の子の、自己実現の物語です。子どもから大人まで、強い女の子のお話が好きなら、おすすめです。
 ただし、ラストギリギリまで、かなりフラストレーションがたまります。でも、ちゃんとハッピーエンドです。

 それを信じて前半のイライラを乗り越えていただければ、結末にはすっきりした気持ちになれると思いますよ。

 ※この本は電子書籍もあります。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 主人公の我が強いので、読む人を選ぶかもしれません。しかし、「到底変えることができそうもない運命」に抗い続ける主人公の、あきらめの悪さと突破力に、救われる読者もいるかもしれません。

 これは、そう言う物語です。必要な人のもとに届けば、勇気や元気をもらえるでしょう。

 人生や運命といったものを考えはじめたばかりのお子さまにおすすめです。主人公は女の子ですが、我の通し方がかなり小さな男の子っぽいところがあるので、男の子でも楽しく読めるかも。

 バーバのお料理が詳しく書いてあり、どれもすごくおいしそうです。
読後は、ジャムの入った、あたたかいロシアンティーでティータイムを。

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