【はなの街オペラ】大正時代の浅草に少女はなの歌声が響く。少女の自己実現ストーリー。【小学校高学年以上】

2024年4月7日

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はなの街オペラ  森川成美/作  坂本ヒメミ/画 くもん出版

歌が大好きなはなには不思議な能力があった。どんな歌でも一度聞けばおぼえて歌えてしまうのだ。そんなはなが奉公に出たのは偶然にも東京の作曲家の家だった……

この本のイメージ 大正浪漫☆☆☆☆☆ 音楽の魅力☆☆☆☆☆ 自己実現☆☆☆☆☆

はなの街オペラ  森川成美/作  坂本ヒメミ/画 くもん出版

<森川成美>
東京都生まれ。東京大学法学部卒業。「アオダイショウの日々」で第18回小川未明文学賞最優秀賞受賞。主な作品に「くものちゅいえこ」(PHP研究所)、「マレスケの虹」(小峰書店)、「フラフラデイズ」(文研出版)、「妖怪製造機」(毎日新聞出版)、「はじめくんがっこうへいく」(ナツメ社)、「さよ 十二歳の刺客」(くもん出版)、「アサギをよぶ声」シリーズ(偕成社)などがある。全国児童文学同人誌連絡会季節風同人。

<坂本ヒメミ>
イラストレーター。装画を多数手がけながら、さまざまな媒体で活動。装画を手がけた作品に「起終点駅 ターミナル」(桜木紫乃・作)「京都スタアホテル」(柏井 壽・作/ともに小学館)、「花嫁は墓地に住む」(赤川次郎・作/KADOKAWA)、「百貨の魔法」(村山早紀・作/ポプラ社)、「駅鈴」(久保田香里・作/くもん出版)など多数。

 大正時代の少女の自己実現ストーリー「はなの街オペラ」です。初版は2021年。

 ストーリーは……

 宇都宮近郊の村で育ったはなは、奉公のために東京のお屋敷に出ることになる。
 そんなはなには、不思議な能力があった。
 どんな歌でも一度聞けばおぼえて歌えてしまうのだ。

 偶然にもはなの雇い主は作曲家。お屋敷で働く書生の響乃介に導かれ、はなは浅草の歌芝居の世界へと導かれる……

 ……と、いうのがあらすじ。

 NHKの朝の連続テレビ小説のような波乱万丈の物語です。
 主人公のはなは音楽の魅力に魅せられ、音楽に取り付かれた女の子。一度聞いた歌は頭のなかをぐるぐる駆け巡り、気がつくと口ずさんでしまいます。

 そんなはなの才能を響乃介が見出し、彼女が音楽の教育を受けられるよう、さりげなく取り計らってくれたおかげではなの才能は開花してゆきます。
 しかし、それは彼女の運命を大きく変えてしまうことで……

 平凡な田舎娘だったはなが音楽と出会うことで、あっと言う間に激動の運命に飲み込まれてゆきます。

 「惚れた人のために歌う」とか「憧れの人のために練習する」などの気持ちはみじんもなく、ただただ「歌が好き。だから歌う」と言うはなの一途さが心を打ちます。「自分にはこれしかない」と思う幸せと不幸せ。
好きなこと、没頭することに出会うのは幸せですがその反面「平凡な幸せ」は捨てることになります。

 はなはただ歌が好きでついつい歌っているだけなのに、運命は彼女を音楽の世界へと連れてゆく。
 彼女が歌を選ぶというよりは「歌に選ばれる」ような強力な力が働いていて「何かに魅せられた人」だけが感じる運命の強制力を見事に描ききっています。

 しかし、最後の最後の決断でははなは自分の意思ではっきりと決めます。
 いままでの人生の選択は親が決めたことだったり、他人に誘われたことだったりしてきたはなでしたが、はなは最終的に恋も安心も踏み越えて、自分の道を決定するのです。

 文章は読みやすく難しい漢字には振り仮名がふってあります。小学校高学年から。賢いお子さまなら中学年から読めると思います。

 大正時代の文化風俗、とりわけ浅草六区の描写が華やかですばらしく、伝説の「十二階」こと凌雲閣が登場します。
 この建物が登場した時、「ああ、これはクライマックスはもしや……」と想像できました。

 しかし、どんな絶望のなかでも歌やお芝居や、そうした「楽しみ」が人の心を支えます。

 華やかな歌芝居の世界を、「お金を儲けたい」とか「人気者になりたい」とかそんな気持ちはなにひとつなく、ただただ「歌うのが好き」と言う気持ち一つで駆け抜けるはな。 

「がんばる女の子のお話が読みたい」方、「いだてん」や「わろてんか」「鬼滅の刃」「はいからさんが通る」などレトロなドラマや漫画が大好きな方に。「博物館の少女」(こちらは明治)を読んでハマった方にもおすすめです。
 坂本ヒメミ先生のおしゃれな挿絵が各章の扉絵を飾っており、乙女心をときめかせます。

 歌に人生をかける大正乙女の自己実現ストーリーを、ぜひどうぞ。

 ※作中ではなが歌っている「東京節」の動画を見つけたので貼っておきます。当時の浅草の様子がわかります。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ほんとうは大きなネタバレはしないほうがいいのですが、震災のシーンがあります。
 もう12年経っているので当日のことを覚えているお子さまも少なくなりましたが、その後も熊本などで大きな地震がありました。
 地震のシーンが読めない方がいるかもしれないので、迷いましたが書いておきます。
 「そういうシーンがあるのだな」と前もってわかっていれば大丈夫な方ならば、おすすめです。
 どんな絶望的な状況でも歌が希望をくれるという物語です。

 

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