【ア・テイル・オブ・マジック】あの「ザ・ランド・オブ・ストーリーズ」の前日譚。雪の女王は倒せるのか?運命の第2巻【魔法ものがたり】【妖精と魔女の真実】【小学校中学年以上】
マダム・ウェザーベリーのもとで魔法の修行にはげむブリスタルたち。しかし、四人の魔女たちがマダムを連れ去ってしまう。魔法アカデミーはどうなってしまうのだろうか…… (魔法ものがたり 下 妖精と魔女の真実 ア・テイル・オブ・マジック 2 クリス・コルファー/作 田内志文/訳 平凡社)
この本のイメージ 異世界ファンタジー☆☆☆☆☆ 魔法☆☆☆☆☆ 自己実現☆☆☆☆☆
魔法ものがたり 下 妖精と魔女の真実 ア・テイル・オブ・マジック 2 クリス・コルファー/作 田内志文/訳 平凡社
<クリス・コルファー>
1990年生まれ。アメリカ合衆国出身。俳優、歌手、脚本家、作家。第68回ゴールデン・グローブ賞最優秀助演男優賞を受賞。
<田内志文>
田内 志文(たうち しもん、1974年4月15日 ~)は、翻訳家、文筆家、スヌーカープレイヤー。埼玉県出身。ベストセラー「Good Luck」、「新訳 フランケンシュタイン」「新訳 ジキルとハイド」「失われたものたちの本」などの翻訳で知られる。
原題はA Tale of Magic….アメリカでの初版は2019年。日本語版は2022年です。
「ザ・ランド・オブ・ストーリーズ」の前日譚となっており、「ザ・ランド・オブ・ストーリーズ」で魔法が禁止されていた頃の過酷な時代の物語です。
この本から読んでも充分面白いのですが、登場人物のその後を想像したり、世界観を理解したい場合は「ザ・ランド・オブ・ストーリーズ」第1巻「願いをかなえる呪文」からお読みになったほうがいいでしょう。
「願いをかなえる呪文」のレビューはこちら↓
「魔法ものがたり 下 妖精と魔女の真実」は、「魔法ものがたり 上 禁じられた魔法の世界 」の後編なので完全にお話がつながっています。上巻でマダム・ウェザーベリーの魔法アカデミーに保護されたブリスタルがアカデミーでの修行をはじめるところから物語はスタートします。
「ブーツトラップ更生院」での虐待から救われ、マダムの魔法アカデミーで同様の妖精たちと修行をすることになったブリスタル。
生粋の妖精であるタンジェリーナやスカイレンたちにコンプレックスを抱きながらも、ブリスタルの魔法は上達していきました。
そんなとき、マダムのもとへ怪しげな四人の魔女が訪れ、マダムを連れ去ってしまいます。
もうもどって来ない覚悟をしているような様子のマダム。
ブリスタルたちは、行方不明のマダムの秘密は「ノーザン紛争」にあると考え、マダムを追ってノーザン王国へと向かいます。
しかし、そこに待ち受けていたのは残酷な運命で……
……と、いうのが今回のあらすじ。
「ザ・ランド・オブ・ストーリーズ」の読者ならおなじみのタンジェリーナとスカイレンですが、少女時代はまだまだ未熟で娘らしいところもあります。
また、ブリスタルとルーシーは最後まで読むと「ああ、あの人か!」とわかります。(まあ、わりかしバレバレではあるのですが……)
アレックスとコナーが訪れる前のザ・ランド・オブ・ストーリーズの世界はこんなに窮屈で息苦しい世界だったのですね。上巻は困難に耐えながらブリスタルが自分の「好き」を信じて貫いてゆくお話ですが、下巻は自分の力を全面的には信じられないながらも、自分自身と仲間たちとそして未来を信じて困難に立ち向かうお話です。
男性作家がここまで女性の心理に寄り添った自己実現の物語を描いてくれるのは新鮮です。
ブリスタルに自分の殻を破らせるのは、恋愛や憧れのイケメンではなく、自分の潜在能力を信じてくれる師匠だったり、同じ境遇の仲間たちだったり、切磋琢磨するライバルだったり。
ブリスタルの驚きや悩みに共感し、めまぐるしい展開にページをめくる手が止まらない物語ですが、驚くほどオーソドックスなイケメン出てこないわ……と、あとで気がつきます。
王子さまとお姫さまが出てくる物語が嫌いなわけではありませんが、ありがちな話だと王子さまかお姫さま、どちらかが「添え物」になってしまうのでそこが寂しいのです。
ブリスタルのような悩みをもった女性は恋愛では救われないので、このあたりをばっさり切ってしまったのは潔い。
けれど、そのぶんマダムとの心の交流や親友ルーシーとの友情が際立ちます。
よく「女は派閥を作るが友情を育てることはない」と言われますが、そんなことはないんですよ。
確かに女の子はグループ活動が好きで、小学生の頃から友達どうしで連れ立ってトイレに行ったりなど、男子から「ひとりで行動できないのか」と言われがちな習性があります。
でも、そんな女子たちのなかでも群れない子もいるし、群れない子が完全にひとりかと言うと少数の心を許した友達がいたりするもの。
最近はバレンタインのチョコレートは男子向けの「本命チョコ」ではなく、仲のいいお友達どうしで交換する「友チョコ」がメインだと言うし、女の子の友情もなかなかに熱いのです。
ブリスタルとルーシーの友情も男の友情に負けず劣らずの熱さです。
真面目で本好き、でも自己肯定感が低いブリスタルと、不真面目でちゃらんぽらんだけど自己肯定感だけは高いルーシー。正反対なふたりだけど、互いが互いを尊敬し、深い信頼で結ばれています。
きっとブリスタルが結婚するときはルーシーが相手の男にやまほど悪戯を仕掛けて困らせたんだろうなあ……と、なんだか今から想像して笑ってしまいます。(女の子の親友ふたりの三角関係でいちばんありがちなやつ。それは男子に対する親友の姑化)
文章は読みやすく、難しい漢字には振り仮名が振ってありますので、小学校中学年から。
ボリュームはありますが、細かく章に分かれているので読みやすい小説です。大人が読んでも楽しめるファンタジーです。
「ザ・ランド・オブ・ストーリーズ」ファンの方、またはまだ「ザ・ランド・オブ・ストーリーズ」をお読みでないけれど魔法やファンタジーがお好きな方、本が大好きな女の子におすすめ。
シリーズはまだまだ続くようなので、長い旅を楽しめるでしょう。
お気に入りの飲み物を用意して、この秋の読書にぜひどうぞ!
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな描写はあるにはありますが、児童書らしく気をつけて書かれているので残酷シーンや流血シーンはありません。
女の子が活躍する魔法ファンタジーが読みたい方におすすめです。
読後は、ベリーのデザートと紅茶でティータイムを。
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