【ヨゾラ物語ファイル】星降る時代のストーリー。「まじょ子」の藤真知子先生がおくる、せつないSF短編集【オンボロボットは泣かない】【小学校中学年以上】
天の川銀河に生まれた地球と言う星。そこで生きる人類は高度な科学文明を発展させロボットともに生きていた。けれど、どんなに文明が発達しても、人はやっぱり不幸だったのだ……
この本のイメージ SF☆☆☆☆☆ 短編集☆☆☆☆☆ せつない☆☆☆☆☆
ヨゾラ物語ファイル オンボロボットは泣かない 藤真知子/作 LOWRISE/イラスト ポプラ社
<藤真知子>
日本の児童文学作家、環境活動家。東京都出身。 東京女子大学英文科卒業。1985年、「まじょ子どんな子ふしぎな子」で第1回ポプラ社こどもの文学に入選しデビュー。以後、数多くの児童文学を執筆し、「まじょ子」シリーズと『わたしのママは魔女」シリーズはそれぞれ50作を越える長寿作品となっている。
<LOWRISE>
イラストレーター。
本日ご紹介する「ヨゾラ物語ファイル オンボロボットは泣かない」は「まじょ子」シリーズ、「まじょのナニーさん」シリーズでおなじみの藤真知子先生の子供向けSFショートショート集です。初版は2022年8月。
収録されているのは
・ぼくとAIロボット執事
・秘密だらけの家族
・オンボロボットは泣かない
・AIスパイに出会った日
・野良ロボットの森
・星降る夜のできごと
・ゾボと旅の仲間たち
の七編です。
いつもはぱあっと明るいお話が得意な藤先生ですが、このシリーズは繊細で哀愁を帯びた物語ばかり。
少しビターな結末もあります。
「野良ロボットの森」はとりわけ心に残りました。
このお話は、今、社会問題になっているヤングケアラー問題を取り上げています。
父に叱られながら母を支え、限界だったノゾムの心の支えになってくれた野良ロボット、ゴン。野良ロボットを保護することは違法でも、それはノゾムには必要なことでした……。
現実世界でも、それが動物だったり、ぬいぐるみだったり、本だったり、それぞれの大切な何かに支えながら、子どもたちは生き抜いています。
とはいえ、それだけですまないのは、そのときはかろうじて生き抜けても、往々にして大人になってから子どものころにがんばりすぎたツケがやってくることなのです。
そのときになると、世間は「もういい大人なんだから、いつまでも子どもの頃のことなんて根に持っていないで未来に向かって生きていこうよ」なんて言うけれど、そんな単純な問題でもなく……
「野良ロボットの森」は難しい問題に切り込み、苦しんでいる子どもたちの心に寄り添おうとする意欲作です。
たいていの児童書は親が子どもに買い与えるものなので、このようなテーマを取り上げた作品が子どもの手に届くかどうかについては難しいところもあります。
けれども、この世の中には図書館と言うすばらしい場所もあるし、優しい大人たちもたくさんいます。
どのようなルートであれ、どうか必要な子に届きますように。
文章は平易で読みやすく、簡単な漢字以外には振り仮名が振ってあるので小学校中学年から。賢い子なら低学年からでも読めるかもしれませんが、子どもにしてはかなり高度な情緒を描いているので、物語を理解し感じ取るためにはある程度の自我の確立と情緒の成熟が必要でしょう。だいたい10歳以上のお子さまに。
「ヨゾラ物語ファイル オンボロボットは泣かない」は、章ごとにさしはさまれる「ヨゾラ紀の賢人のことば」を噛み締めながら一編ずつ、丁寧に読んでいると、はるかな未来への憧れとノスタルジーがないまぜになって胸に迫ってきます。
大人が読めば子どもの頃に大切にしていた懐かしい存在たちのことが思い出されてくるでしょうし、子どもが読めば日常的に使っている身近でささやかなモノたちを大切にしようと思うようになるかもしれません。
大人が読んでも、しみじみと涙が流れる短編集です。SFがお好きなお子さまと保護者の方に。
星降る夜の読書にぜひどうぞ。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はそれほどありませんが、せつなかったり、哀しかったりするところがあります。情緒をゆさぶられるお話が多いので、HSPやHSCのほうが多くのメッセージを受け取れるでしょう。
物語を理解するためにはある程度の情緒の成熟が必要なお話ばかりです。大人でも楽しめます。
SFや宇宙、ロボットなどが好きなお子さまにおすすめです。
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