【ローワンと白い魔物】終わらない冬から谷を救え。エミリー・ロッダの不朽の名作、ローワンシリーズ完結編。【リンの谷のローワンシリーズ】【小学校中学年以上】
その冬は終わらなかった。やまない雪に閉ざされたリンの谷を救うため、ローワンたちは、仲間と連れ立って「禁じられた山」に登る決意をする。過酷な旅の末、そこで知ったのは、リンの谷の一族の秘められた歴史だった……
この本のイメージ 完結編☆☆☆☆☆ 一族の歴史☆☆☆☆☆ 循環する大自然☆☆☆☆☆
ローワンと白い魔物 【リンの谷のローワンシリーズ 5 】 エミリー・ロッダ/作 さくまゆみこ/訳 佐竹美保/絵 あすなろ書房
<エミリー・ロッダ>
Emily Rodda、1948年4月2日~ 。オーストラリア・シドニー生まれのファンタジー作家。代表作は「ふしぎの国のレイチェル」「リンの谷のローワンシリーズ」など。
エミリー・ロッダの「リンの谷のローワン」シリーズ第5巻。タイトルは Rowan of the Bukshah .(バクシャーのローワン)
原書初版は2003年。日本での初版は2003年です。
「リンの谷のローワンシリーズ」は、2巻と3巻が入手困難本なので、全巻読もうとすると、一部中古か図書館を利用することになりますが、まぎれもない名作なので、まだの方は、お読みになることをおすすめします。
とくに、内向的なお子さまや、職場で頑張っている大人の方にパワーを与えてくれる物語です。
お話は、一話完結ではありますが、第1巻から完全に続いており、伏線回収など、緻密に計算されていることから、第1巻「ローワンと魔法の地図」から順にお読みになることをおすすめします。
「ローワンと魔法の地図」のレビューはこちら↓
「ローワンと白い魔物」は、シリーズ最終巻。リンの谷に今までになかった困難が降りかかりますが、ローワンたちがそれに立ち向かいます。と、同時に、リンの谷の歴史や一族の秘密があきらかになる物語です。
主人公のローワンは、リンの谷と言う、たくましく屈強な人々の暮らす地で、ただひとり大人しくて内向的な男の子です。そのローワンが、一族にふりかかった様々な困難を、知恵と勇気で解決します。
今回のお話は……
リンの谷に厳しい冬が来ました。どういうわけか、今年の冬は終わらない。やまない雪に閉ざされて、食料もつきかけたリンの谷の人々は、海辺のマリスへと脱出します。
ローワンを含めたわずかな人間たちがバクシャーの世話をするために谷に残りますが、賢女シバの予言をうけて、予言された4人は「禁じられた山」に登る旅に出ることになります。
旅の仲間は、ローワン、ゼバックの村からやってきたシャーランとノリス、そして、ゼバックの子どもでありながら旅の人に育てられたジールの四人です。
四人は、シバから与えられた金のコインの力で予言を力を得たローワンの言葉を頼りに、過酷な旅を続けます。はたして、彼らは谷を救えるのでしょうか……
と、いうのがあらすじ、
このお話では、ついにローワンたちリンの谷の人々の歴史が明らかになります。そして、真の幸せが彼らに訪れます。
5巻のお話は、第1巻「ローワンと魔法の地図」のストーリーと対になっており、最後まで読むと、ローワンの住むこの世界と、リンの谷の秘密が理解できるようになっています。
今回、ローワンの仲間として旅に出てくれるのは、いままでの冒険で知り合った、シャーラン、ノリス、ジールです。この旅のためにいままでの冒険があったのかもしれないとも思わせる、伏線の回収。そして、「要らない人なんていない。みんなそれぞれに役割がある」と、信じさせてくれるラストが待っています。
好きなシーンは、ローワンが自分の特殊能力について「才能というより、呪いのようなものなんだよ」と言うところ。
それに対して、シャーランはこう言います。
「呪いでも才能でも、どっちでもいいのよ」シャーランが、少し体をひいて、ローワンの顔が見えるようにしながら言った。でも、まだローワンの腕はつかんだままだ。「親友をいくつかの部分に分けて『ここは好きだけど、そっちは受け入れない』なんて言うことはできないのよ。全体でひとりの人間なんですもの」(p276 引用)
いい言葉です。読みながら何度もうなずいてしまいました。人の欠点とは、裏返すと長所であることが多く、欠点だけを取り除いて、いいところとだけ人と付き合うことは難しいものです。
気が短く怒りっぽい人は、瞬発力に優れ行動力がありますし、スピード感が乏しくスローな人は慎重で確実性があります。
ケアレスミスが多く、注意力散漫になりやすい人は、たいてい好奇心が強くて新しいことを見つけ出す能力がありますし、デリカシーがなくて気遣いが上手く無い人は、メンタルが強くてここ一番というときに頼りになります。
逆もあって、メンタルが弱くて内向的な人は、感受性が強くて細かいところに気がつきます。
なんでもコインの裏と表で、いいところだけを取ることはできないのです。
ローワンは、屈強なリンの谷の一族の中で、たったひとりの、ひ弱で内向的な男の子でした。その谷で、弱い男の子が担当する仕事は、バクシャーという家畜の世話でした。
しかし、ローワンがひとりだけ内向的な性格なのも、バクシャーの世話をしてきたことも、すべて意味があったのです。
その、ローワンだけが持つ個性が、最後は谷を救うのでした。
完結編である第5巻のラストが、いままでの長い長いストーリーをすばらしく美しく収束させていて、大自然の循環にも似た、幸せな予定調和を感じさせます。人間の小賢しい知恵を超越したものが、「世界」にはある。すべてに無駄なものなんてないのです。
このシリーズ、最初は、リンの谷の人々と海の向こうの戦闘民族ゼバックとの戦いを描いた物語なのかな、と想像させておいて、まったく違いました。
ふたつの民族は「戦った」と言う設定がベースにあるものの、ローワンたちにふりかかる困難は、侵略や戦争ではなく、すべては「人間の無知」が原因で引き起こしたことばかり。それを、ローワンのまっすぐな心が解決してゆく物語です。
「世界に救いなんてない」と言うのがディストピアものであるならば、「リンの谷のローワンシリーズ」を貫くテーマは「世界はあなたを愛している」。
エミリー・ロッダは多作な作家で、ほかにも「デルトラ・クエスト」など有名な作品を多数生み出しているのですが、「リンの谷のローワン」シリーズは、段違いの傑作です。作家が名作を書くときは「言霊が降りる」と言いますが、何かが降りていたのではないでしょうか。
字はほどよい大きさで読みやすく、難しい漢字には振り仮名がふってあります。だいたい小学校中学年から、読めると思います。しかし、ファンタジーとして良質で読み応えがあるので、大人でも楽しめます。と言うより、読むべき。
第1巻の「ローワンと魔法の地図」は新品で購入できるので、これだけ読むのもおすすめです。2巻と3巻は、中古では購入できます。おこずかいが足りないときは、ぜひ図書館で探してみてください。
今、厳しい状況にあるお子さま、内向的なお子さまにおすすめの、希望と勇気をもらえるファンタジーです。大人が読んでも励まされます。
この、困難な時代の、おうち時間のお供にぜひどうぞ。
繊維な方へ(HSPのためのブックガイド)
おすすめです。
ネガティブな要素はほとんどありません。流血シーンは気をつけて書かれているので、残酷な描写はありません。
HSPやHSCの方のほうが、多くのメッセージを受け取れるでしょう。
主人公が内向的で、腕力などに乏しい男の子なので、内気でお部屋遊びが好きなお子さまにおすすめします。児童向けファンタジーの傑作です。
大人でも楽しめるだけでなく、多くのことを感じ取れる、繊細な作品です。
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