【小公子】ふたつの国をつなぐ少年。純粋な気持ちが頑なな心を溶かす、児童文学の古典。【小学校中学年以上】

2024年2月17日

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小公子

ちなみに、これは(キャッチ画像もふくめて)映画とかじゃなくてただのフリー画像

貧しいアメリカの少年が、ひょんなことからイギリスの伯爵の跡継ぎに。独立したばかりのアメリカと、イギリスに橋をかける、一人の少年の物語。日曜日の名作劇場でアニメーションにもなった、児童文学の古典です。

この本のイメージ かわいい☆☆☆☆☆  純粋☆☆☆ ドラマチック☆☆☆☆☆ 

小公子  フランシス・ホジソン・バーネット/作  脇 明子/訳  岩波少年文庫

<フランシス・ホジソン・バーネット> 1849〜1924年。イギリス生まれのアメリカの作家。物語が雑誌に掲載されたのをきっかけに作家活動をはじめる。作品に「小公女」「秘密の花園」など。

 シンデレラストーリーと言うと、平凡な女の子がある日突然プリンセスになるとか、ものすごい才能を見出されるとか、そんな話を形容する言葉です。この話の主人公は7歳の少年ですが、貧しい暮らしをしていたアメリカの男の子が、ある日突然、「あなたはイギリスの伯爵の跡継ぎです」と言われるところからストーリーが展開していきます。

 主人公の名前は、セドリック。

 昭和の昔、自家用車にはおとぎ話や映画にちなんだ名前がつけられていました。フェアレディZとか、ブルーバードとか、セドリックとか。自家用車というのは、当時、おとぎ話のように庶民の夢だったからでしょう。セドリックは、この「小公子」にちなんだ名前です。

 物語の時代は、まだアメリカがイギリスから独立したばかり。同じ英語を使う国ですが、文化、慣習すべてが違う二国で、かつ、ちょっと前まで独立をめぐって戦争をしていた間柄でした。

 主人公のお父さんエロル大尉は、イギリスのドリンコート伯爵の三男坊でしたが、アメリカに渡り、そこで出会った美しい女性と結婚します。激怒した伯爵は息子を勘当します(良くある話ですが)が、その後大尉は病死、未亡人の母親と幼い息子が残されます。

 ところがイギリスのドリンコート伯爵家でも、長男と次男が相次いで死亡し、跡継ぎがいなくなってしまうのです。それで、主人公のセドリックが、はるばる海を渡り、伯爵家に次期当主として引き取られていく、と言う話です。

 この伯爵と言うのが、偏屈で頑固で、かんしゃくもちで、誰にも心を開かない老人だったのですが、天使のような純真なセドリックと交流していくうちに、だんだん頑なな心が溶かされていきます。これが前半です。

 後半は、突如として伯爵家にお家騒動が勃発し、それをみんなで解決していく展開になります。ここで前半のキャラクターや伏線が見事に回収され、クライマックスでは、イギリスとアメリカの二つの国の人々の心に橋がかかり、けっして交わることもないだろうと思われた人々が交流する、奇跡のような展開になります。

 小さいときに読んだ経験があり、前半はよく覚えていたのですが、後半はあらためて読んで、展開のみごとさに唸りました。

 セドリックは、最初から、終始、徹頭徹尾、自分のおじいさまは優しくて立派で、すばらしい人だと信じて疑いません。その結果、頑固で偏屈で傲慢だった伯爵は、本当に思いやりのある名君になっていくのですが、面白いことにその劇的な変化を、セドリックはまったく知らないのです。

 セドリックがその変化を起こしているのにもかかわらず、彼自身は、最初から自分の祖父は素晴らしい人だと信じているので、自分の周囲が猛烈に変化して行ってることに気がついていないのです。

 激流のただなかにいて、主人公だけはいつも無風地帯にいるのです。それなのに、面白い。あらためて読むと、構成力に脱帽してしまいます。

「小公女」の作者も同じバーネットなのですが、こちらは主人公のセーラの身の上は、ものすごいお金持ちからいきなり貧乏に転落したり、豪華な一人部屋から屋根裏部屋に移されたり、その屋根裏部屋に豪華な贈り物が届いたりと、めまぐるしく変化します。

 しかし、この「小公子」は、最初こそアメリカの下町からイギリスの大豪邸へ引っ越しますが、その後は、人間関係的には、セドリックとごく近くの人々は、大きな揉め事なく、いつも穏やかに安定しています。

 彼の心はつねに晴れ晴れとしていて、周囲の人の善意と幸せを信じて疑うことを知りません。いかなる環境にあっても、本人の心がポジティブで人の善意と幸せを信じていれば、その人自身はいつも幸せなんだというポジティブシンキングを体現しているような少年です。

 まれに、いますよね、こういう、台風の目みたいな人。周囲は嵐が吹き荒れているのに、その人の周りだけ凪いでる。それは、こういうことなんだな、と理解しました。

 現実にはセドリックのように、人を純粋に信じたり気高く行動したりするのは難しいかもしれないけれど、人の善意がまっすぐに報われる話を読むのは、心が癒されます。

 児童文学は、大人になってから読むとたくさんの気づきや発見があります。かつて戦争した二国のあいだを、純粋な少年の心が見えない橋をかける。人の心がばらばらに離れていきそうな現代に、もう一度、じっくり読んでみるのもいいかもしれません。

 ※なんと! 川端康成訳の「小公子」が出版されていたと知りました。表紙は山田章博先生です。

 さすがの美しい文章で、表紙も目がつぶれんばかりの美々しさでございます! 岩波少年文庫の脇明子先生の文章も美しいのですが、こちらもどうぞ手に取ってみてください。(2020.8.30追記)

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