【小公女】古典児童文学の不朽の名作。激動の運命に気高く立ち向かう少女の物語。【小学校中学年以上】

2024年1月18日

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小公女 フランシス・ホジソン・バーネット/作 脇明子/訳 岩波少年文庫

インドで父親と育ったセーラは、イギリスの寄宿舎に入学します。父親の愛をいっぱいに受けて育った彼女は、学校で「小公女さま」と呼ばれるようになります。ところがある日、悲しい知らせが届いて…

この本のイメージ がんばれ☆☆☆☆☆ ドラマチック☆☆☆☆☆ 哲学☆☆☆

小公女 フランシス・ホジソン・バーネット/作 脇明子/訳 岩波少年文庫

<フランシス・ホジソン・バーネット> 1849〜1924年。イギリス生まれのアメリカの小説家。物語が雑誌に掲載されたのをきっかけに作家活動をはじめる。作品に「小公女」「小公子」など。

「小公子」「秘密の花園」で有名な、バーネットの名作です。日曜日の名作劇場でアニメーションにもなりました。

 あまりにも有名な話なので、あらすじをご存知の方も多いと思います。
インドで裕福な父親と二人暮らしだったセーラは、一人、イギリスの女学院で寄宿舎暮らしをすることになります。

 セーラを溺愛している父親は、彼女のために服、おもちゃ、本などありとあらゆるものを用意します。あまりの甘やかしぶりに、ミンチン院長先生は彼女を学院の広告塔として利用しようと思い立ちます。

 セーラはかしこい娘だったので、父親が自分に湯水のようにお金を使っても、道を踏み外すようなことはしませんでした。これは、彼女に死んだ母親と言う「理想」があり、「早くしっかりした大人になって父親の仕事を手伝いたい」と願っていたからかもしれません。

小公女 フランシス・ホジソン・バーネット/作 

 セーラはちょっと風変わりな女の子だったので、彼女を嫌いな子はからかいや皮肉をこめて、彼女を好きな子は愛情と憧憬をこめて彼女を「公女さま」と呼びました。

 父親は遠くインドから娘のために必要なお金を送金しますので、支払いにタイムラグがあります。その場合、誰かが立て替えて、送金があったときに精算することになっていました。ミンチン院長はセーラを利用しようと考えていたので、彼女に恩を着せようと自らすすんで多額の支払いの立替をしていました。それが、セーラをのちに追い詰めることになるのです。

 あるとき、父親のクルー大尉がインドでダイヤモンド鉱山にかかわる友人の事業に参加することになりました。しかし、その事業で失敗し財産を失い大尉は亡くなり、セーラは突如として無一文の孤児になってしまうのです。

 多額の立替金があったミンチン先生は、その損失のためにセーラの父親を恨み、負の気持ちは残されたセーラに注がれてしまいます。

 それから、セーラは女学院の下働きとして、「お情け」で置いてもらうこととなり、屋根裏部屋での暮らしが始まりました。

 このミンチン先生の立ち回りと言うか、態度の豹変がすごくて、この時点の豹変は序の口で、作中で何度も何度も手のひらが返るのです。彼女の豹変とアーメンガードたちの変わらぬ友情が全体を通して対比となって表現されてゆきます。 これは、作者自身がこのような体験をしたことがあるのではないでしょうか。

 何もかもを持っていた少女がすべてを失う話と言うのは、昔の少女小説や少女漫画、昭和のドラマではわりと定番でした。
 下働き生活になってからからは、ミンチン先生や元クラスメイトの執拗ないじめが続きます。もともと豊かだった頃に、父親が過剰とも言える愛情を注いでいたため、彼女の身なりや持ち物などへ良い感情を持っていなかった人たちが、隠していた感情をあらわにしたのです。

 それだけでなく、セーラがどんな状況でも、そこはかとなく品があり毅然としているので、それが彼らには反抗的に見えるのでしょう。

 苦しいセーラの生活の味方は、「想像力」でした。児童文学に出てくる女の子は、たいてい読書好きで想像力が豊かです。女の子は腕力で問題を解決できないので、本をたくさん読んで知識を蓄えたり、知恵を使ったり、想像力で辛さを乗り越えたりして、問題を解決します。

 セーラも、苦しいとき、辛いとき、様々なことを想像し、食べたつもり、手に入れたつもり、お姫様のつもりなど「つもり」になって乗り切ることにしました。

 バーネットは、どこかで心理学の勉強を専門にしたのかと思うほど、このあたりの描写が見事です。「秘密の花園」では、心が死んでしまった子供がどうやって感受性を取り戻し、生きる希望を見出していくかを詳細に描いていました。

 小公女では、理想の姿を想像し「つもり」になることで、辛い現実を乗り越える物語を書いています。

 セーラは、何度も絶体絶命になるのですが、そのたびに、「彼女が想像した」現実がやってきて、びっくりするような形で救われます。

 バーネット作品はファンタジーではないのですが、彼女の物語はいつもどこかファンタジックです。それは、彼女に何かを空想することや想像することは人の心の栄養でとても大切なことだと言う信念があるからでしょう。

小公女 フランシス・ホジソン・バーネット/作 
完訳版が出ているようです

 セーラの最大の武器はもちろん「想像力」ですが、彼女を守る盾もちゃんと存在していて、それはアーメンガードやロッティ、ベッキーなど、彼女の境遇がどんなにおちぶれても変わらぬ気持ちで接してくれる人たちの「友情」でした。

 セーラは、この「想像力」と「友情」と言う剣と盾で、大きな困難を乗り越えます。

 人生には様々な山や谷があり、立ち上がれないかもしれないような哀しいことも乗り越えられないようなつらいこともあります。
そんなときに、寄り添ってくれて力をくれる物語です。

 へとへとに疲れた週末に、温かいお茶と一緒にじっくり読むのがおすすめです。結末に近づくにつれ、だんだんと元気をもらえる話です。
 「いまさら」と思わず、ぜひ読んでみてくださいね。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 いじめのシーンは、ちょっと辛いかもしれません。でも、最後の大逆転を楽しみにちょっとご辛抱いただければ、ラストは文句なしのハッピーエンドです。
救われる話です。

 温かいインド紅茶とお菓子と一緒にぜひどうぞ。

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