【点子ちゃんとアントン】ケストナーの名作!生まれも育ちも違う女の子と男の子の最高の友情。【小学校中学年以上】
点子ちゃんの本名はルイーゼ。生まれたときにとっても小さかったので点子ちゃんと呼ばれています。大金持ちの家の子、点子ちゃんと貧しい家の子アントンは、大の仲良し。生まれた家や環境なんて関係なく、ふたりは大親友です。このふたりが、気がつかないうちに大事件に巻き込まれて……
この本のイメージ 友情☆☆☆☆☆ サスペンス☆☆☆☆☆ 哲学☆☆☆☆☆
点子ちゃんとアントン エーリヒ・ケストナー/作 池田香代子/訳 岩波少年文庫
<エーリヒ・ケストナー>
1899~1974年。ドイツ、ドレスデン生まれの詩人、作家。ナチスの圧迫を受けた。国際アンデルセン大賞受賞。代表作は「飛ぶ教室」「エーミールと探偵たち」「点子ちゃんとアントン」「五月三十五日」など。
点子ちゃんは大きなお屋敷に住む大金持ちの家のお嬢さん。アントンはお屋敷街から橋を渡ったところにある、貧しい家の息子です。ふたりはひょんなことで出会い、大親友になりました。
アントンは人知れず悩みを抱えていましたが、点子ちゃんが察して彼の大ピンチを救います。
一方、点子ちゃんは知らないうちにとても危険な事件に巻き込まれていました。それに気がついたアントンは点子ちゃんを助けようと頑張ります。
さて、点子ちゃんはどうなるのでしょうか。ふたりの友情はどうなるのでしょうか。
……と言うのが、このお話のあらすじ。
このお話には、たくさんの女性キャラが出てきます。
が、点子ちゃんのお母さんとアントンのお母さんはどちらも、あまりいいお母さんのようには描かれていません。どちらも最終的には反省しますが、欠点がある人として描かれています。
また、点子ちゃんの養育係アンダハトさんは典型的なダメなタイプの女性として、そして、メイドのベルタさんは善良な肝っ玉母さんタイプの女性として登場します。
ところが、点子ちゃんは、これらのどの女性たちともまったく違う、とてもユニークな女の子なのです。
とにかく、ふつうの女の子っぽくない。そして、想像力や空想する力が豊かなせいか、なんだかとぼけていてかわいらしい。登場したとき、豪華なお屋敷の中で、壁に向かって「マッチ売りの少女ごっこ」をして遊んでいる点子ちゃんですが、妙にうまいのです。(これがなんと伏線だとは!)
その後のやりとりも、誰と話すのも茶目っ気たっぷり。けれど、他人をばかにしているわけではありません。生まれも育ちもぜんぜん違うアントンの家に遊びに行って、アントンのお母さんには礼儀正しくふるまい、アントンとは楽しく遊びます。
この短い描写の中で、点子ちゃんの天真爛漫さ、優しさ、純粋さ、そして、頭の回転の速さなどがいっぺんにわかるのです。
と、同時にアントンのけなげさ、優しさ、がんばりやなところも伝わってきます。
ケストナーはこの作品の中で、生まれも育ちも(加えて言うなら性別も)違いすぎる子供たちは親友になれるのか、互いに助け合って問題を解決できるのか、と問いかけ、一つの解を提示してくれます。
ふつうの作家なら、ありきたりなロミオとジュリエットみたいな展開にしてしまいがちなところを、ケストナーは見事に意表をついて、さわやかな友情物語にしてしまうのです。
点子ちゃんが、そんじょそこらの男の子より男前で、かっこいい。
そして、アントンも、負けず劣らず、かっこいい男の子です。
書かれた時代(1931年)を考えると、ケストナーがかなり挑戦したことがわかります。この作品、ドイツでは根強い人気で、二度映画化されているようです。
なんと言っても、90年前です。戦前です。
この時代に、経済状態や身分の差、性差を軽々と飛び越えて、生き生きと行動する「点子ちゃん」という女の子を生み出したケストナーの感性が規格外だったのですね。
「戦前」は、日本だけでなく、その他のいろんな国でまだまだ階級制度や身分制度が色濃く残っている時代でした。その時代の物語だと考えると、点子ちゃんの突拍子もなさがわかります。
そして、90年たったいまでも、点子ちゃんとアントンの友情は、まだまだ「新しい」。
書かれた時代の歴史背景などを調べながら、ぜひ、親子で楽しんでいただきたい名作です。
ラストは、「こう来たか!」と驚くハッピーエンド。現代の読者のほうが驚いてしまうかもしれません。けれど、ほんとうに気持ち良く、スッキリとすべてが収まるところに収まります。
90年前のちっちゃなハンサムガール、点子ちゃんの大活躍をどうぞお楽しみください。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はいっさいありません。楽しくあたたかい、友情物語です。点子ちゃんもアントンも、どちらもとてもいい子で、そしてかっこいい子供たちです。
作中でおいしそうに食べるシーンがあるので、ぜひコーヒーとシュークリームをご用意くださいね。
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