【天国を出ていく】児童文学の名作を石井桃子の翻訳で。繊細で美しい短編集【本の小べや】【小学校高学年以上】

イギリスのアンデルセンとも呼ばれるエリナー・ファージョンの短編集を石井桃子が翻訳しました。これは「ムギと王さま」に続く、ファージョン短編集の第2巻。彼女の瑞々しい感性があふれ出します。
天国をでていく 本の小べや 2 エリナー・ファージョン/作 石井桃子/訳 岩波少年文庫
<エリナー・ファージョン>
エリナー・ファージョン(Eleanor Farjeon,1881年2月13日-1965年6月5日)は、イギリスの児童文学作家、詩人。父は流行作家、母はアメリカの有名な俳優の娘。正規の教育をうけておらず、家庭で教育を受け、膨大な父の蔵書と、家に訪れる数多くの芸術家達の会話によって、知識と想像力を養った。著書に「ムギと王さま」「リンゴ畑のマーティン・ピピン」など。
たいへん有名な、児童文学の古典、エリナー・ファージョンの「本の小べや」です。
原題はThe Little Bookloom. 原書初版は1995年。最初に翻訳されたのは、1959年。新訳版が2001年に出版されています。新訳版を出版するさい、収録する短編を11編から27編に増やしたということです。
エリナーは、作家の父と俳優の娘の母のあいだに生まれた娘で、正規の学校教育をうけていません。
家族は芸術一家なので、作家や俳優などの出入りが多く、そして、天井まで届くほどの本棚に詰まった本に囲まれて育ちました。
ファージョンの家は、それほど豊かな家ではありませんでしたが、イギリスでは昔から上流階級の子どもは家庭教師に教育されることが多く、経済状態がそこそこ良くても学校に行かない子供と言うのは、めずらしくなかったようです。
「ピーター・ラビットシリーズ」のビアトリクス・ポターも家庭教師に育てられているため、学校に通った経験がありません。
エリナー・ファージョンの描くメルヘンには、独特の幻想的な雰囲気と、荒唐無稽さがあって、固定観念にとらわれない空想の翼を感じさせます。心のアンテナが同じ年頃の子どもたちの集団にまみれて、平均的にならされてしまわずに、そのまま成長したような、摩訶不思議な雰囲気があるのです。
この、独特の雰囲気は、もしかしたら、大人のほうが楽しめるかもしれません。「ムギと王さま」はまだ子どもにわかりやすいメルヘンが選ばれていましたが、この「天国を出ていく」は、なかなか哲学的な、一度では読みこなせないような話もあります。
収録されているお話は、
・天国を出ていく
・小さいお嬢さまのバラ
・むかしむかし
・コネマラのロバ
・ティム一家
・十円ぶん
・《ねんねこはおどる》
・ボタンインコ
・サン・フェアリー・アン
・ガラスのクジャク
・しんせつな地主さん
・「がみがみシアール」と少年
・パニュキス
の13作です。
収録されている話は、幻想的で美しい物語ばかり。
ただし、単純なメルヘンでも教訓的なお話でもなく、予定調和的な展開がないので、びっくりする方もいるかもしれません。
「ガラスのクジャク」なんて、小さな子だと「なんでそうなるの?」と思ってしまうかも。(これは本当に大切で美しいものは、形のないものです、と言うお話だと、わたしは解釈しています)
わたしが好きなお話は表題作の「天国を出ていく」と「サン・フェアリー・アン」。「コネマラのロバ」もいいお話です。
「天国を出て行く」は、タイトルだけ見ると哀しいお話のように感じられますが、ハッピーエンドです。
天国で何不自由なく暮らしていた三人の王子さまたちが、妖婆にだまされて上のふたりは天国を出て行きますが、一番下の王子さまがちゃんと連れ戻すというお話です。
孤児の女の子の大切な人形、サン・フェアリー・アンが数奇な運命の末、彼女に幸せをもたらす話「サン・フェアリー・アン」は、その次に好きな物語。たいへん短いお話ですが、人形もののなかでも、一、二を争うくらい好きです。
どれも、ふつうの人の頭の中からは、ちょっと出てこないようなメルヘンなので、幻想的でファンタジックな世界に浸りたい方にはおすすめします。アンデルセンの「雪の女王」とかが好きな人なら、好きだと思います。
男の子か女の子かと言われたら、どちらかと言えば女の子向けですが、今はジェンダーレスの時代ですし、繊細で美しい世界が好きな男の子なら、読んでみてもらえたら。
一言では言えない、不思議な魅力があるメルヘンばかりです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
おすすめです。HSPやHSCのほうが多くを受け取れると思います。繊細で美しい、ガラス細工のようなメルヘン集です。読後は、パステルカラーの可愛らしい砂糖菓子や、一つか二つのマカロンと、かわいいティーカップといい匂いのする紅茶などで、ひとりでティータイムをすごすのがおすすめです。「ムギと王さま」に比べると、「天国を出ていく」のほうが、少し哀愁があります。
明るく美しいハッピーエンドのメルヘンファンタジーが読みたい方には、ファージョンの「ガラスの靴」がおすすめです。
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