【ムギと王さま】イギリスのアンデルセンとも呼ばれるエリナー・ファージョンの短編集【本の小べや】【小学校高学年以上】

2024年3月7日

広告

ムギと王さま  本の小べや 1    エリナー・ファージョン/作 石井桃子/訳 岩波少年文庫

エリナー・ファージョンの育った家は、どの部屋にもあふれんばかりの本がありました。特にお気に入りだったのは、どの部屋にも収めきれなくなった本を入れる「本の小部屋」でした。そこで本に囲まれながら本を読む日々が、彼女を育てたのです……

この本のイメージ 幻想的☆☆☆☆☆ 繊細☆☆☆☆☆ 奇想天外☆☆☆☆☆

ムギと王さま  本の小べや 1    エリナー・ファージョン/作 石井桃子/訳 岩波少年文庫

<エリナー・ファージョン>
エリナー・ファージョン(Eleanor Farjeon,1881年2月13日-1965年6月5日)は、イギリスの児童文学作家、詩人。父は流行作家、母はアメリカの有名な俳優の娘。正規の教育をうけておらず、家庭で教育を受け、膨大な父の蔵書と、家に訪れる数多くの芸術家達の会話によって、知識と想像力を養った。著書に「ムギと王さま」「リンゴ畑のマーティン・ピピン」など。 

 

 たいへん有名な、児童文学の古典、エリナー・ファージョンの「ムギと王さま」です。
 原題はThe Little Bookloom. 原書初版は1995年。最初に翻訳されたのは、1959年。新訳版が2001年に出版されています。

 しかし、わたしは恥ずかしながら初読でした。(汗)

 こういう、子ども時代の忘れ物みたいな読書がたくさんあるんですよ……。大人になってから読むのと、子ども時代に読むのとでは、おそらく印象も感想も変わってしまうとは思うのですが、それでも、読めてよかったと思う名作です。

 この本で、一番印象に残るのは「まえがき」。作者ファージョンがどんな環境で育ったかが書かれています。
 とにかく、本が好きな家で、家中のどの部屋も壁いっぱいに本があふれ、そして、そこに整理しきれなくなった本を「本の小部屋」と呼ばれる部屋に押し込んでいたのだそうです。

 少女エリナーは、その部屋が大好きで、一日中、本のほこりにまみれながら、その部屋で本を読みふけってすごしました。

 すごい。本好きの夢のような家。そして、「チャーメインと魔法の家」のチャーメインや「美女と野獣」のベルみたいな本好きです。

 このエリナーの生い立ちが少し変わっていて、学校教育を受けていないのです。父親が作家、母親が俳優の娘と言う芸術一家で、家で教育を受けたと言われています。つまり、彼女を育てたのは、この「本の小部屋」だったのでしょう。

 ファージョンの童話は、一種独特の荒唐無稽さがあります。
 枠に囚われない自由さや、重力のない浮遊感があるのです。この、奇想天外でシュールな感じは、「アラビアン・ナイト」にどこか似ているように思われます。

 アラビアン・ナイトは、シェヘラザード姫が王様のためにでっちあげた夢物語、という設定になっています。

 これがどこまで本当なのかはわかりませんが、要所要所に現実味の乏しいシーンがあるのは確かです。河の底にきらきら光る宝石が落ちていたり、谷底にカッティング後みたいな輝くダイヤモンドが大量に落ちていたりとかね。

 こういうところが、逆説的に、「世間知らずなお姫様が空想した物語」と言うリアリティを感じさせるのです。

 エリナー・ファージョンの物語にも、そんな雰囲気があって、一度も学校に通ったことがない、本だらけの環境で育った、親が芸術家で親の交友関係は芸術家だらけだった、と知ると、なんとなく腑に落ちるのです。
 そう言う人にしか描けない、自由な想像力に満ちた世界があります。

 アラビアン・ナイトと違う点は、ファージョンの物語のほうが、格段に繊細で美しいこと。アラビアン・ナイトは、ダイナミックで残酷なところもある物語ですが、ファージョンの紡ぎだす世界は、細やかな感性に彩られた万華鏡のような世界です。

 男の子向けか女の子向けかと言えば、しいて言えば女の子向け。
 でも、ジェンダーレスの時代ですから、繊細で幻想的なお話が好きなら、男の子でも挑戦してみてください。ファージョンが好き、っていう男の子ってどんな子でしょうかしらね。
 わたしは、子どもの頃、冒険物語を読む女の子でもあったので、逆にすごく興味があります。

 収録されているお話は14編。
 わたしが好きなのは「レモン色の子犬」と「貧しい島の奇跡」です。

 どのお話も短くて、でも幻想的で、一瞬で異世界に飛ばしてくれる力があるので、そんなファンタジーがお好きな方は、読んでみてくださいね。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブなシーンはほとんどありません。
 でも、単純なハッピーエンドは少なく、一筋縄ではゆかない童話集です。ジョージ・マクドナルドがお好きな方は、ファージョンが好きかも。

 とても繊細な物語集なので、HSPの方やHSCのお子さまのほうが、むしろ楽しめると思います。
 起承転結や山場がハッキリしている、メリハリのあるお話が好きな方にはあまり向きませんが、美しくて幻想的なお話を読みたい時は、ぜひ。萩尾望都の短編がお好きなら、きっと好きなはず。

 とても美しく、映像的なお話ばかりです。
 読後は、熱々のお茶とビスケットで、ティータイムを。

商品紹介ページはこちら

お気に入り登録をしてくださればうれしいです。また遊びに来てくださいね。
応援してくださると励みになります。

にほんブログ村 本ブログへ

広告