【月の光を飲んだ少女】ニューベリー賞受賞のファンタジー。魔法に満ちた少女の、世界を救う冒険【小学校高学年以上】
毎年、赤ん坊を生贄に捧げなければならないその地は、悲しみの雲に覆われていました。しかし、捨てられた子どもたちは心優しい魔女に助けられていたのです。あるとき、魔女の助けた赤ちゃんは、手違いで月光を飲み込んでしまい、強力な魔力を持つことになってしまいました……
この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ 細密な世界観☆☆☆☆☆ 世界の表裏☆☆☆☆☆
月の光を飲んだ少女 ケリー・バーンヒル/作 佐藤見果夢/訳 玉垣美幸/挿画 評論社
<ケリー・バーンヒル>
1973年、アメリカ生まれの作家。二人目の子どもが生まれてから執筆を始める。数々の団体から奨学金を得て創作を続け、「月の光を飲んだ少女」で2017年のニューベリー賞を受賞。
<佐藤見果夢>
1951年、神奈川県生まれ。明治大学文学部卒業。公共図書館勤務を経て、児童書、絵本の翻訳に携わる。
<玉垣美幸>
京都市生まれ、京都市在住。成安造形大学デザイン科イラストレーションコース卒業。
透明水彩で物語性のある世界を描く。あすなろ書房「神々と戦士たち」、集英社「青藍の峠」、評論社「月の光を飲んだ少女」、株式会社KADOKAWA 野性時代「よろず御用承り所 千成屋お吟 」シリーズ挿絵など。
初読です。
2017年、ニューベリー賞受賞作。ニューベリー賞とは、その年最もすぐれた児童書に贈られる賞で、「クローディアの秘密」や「グリーン・ノウのお客さま」「ダーウィンと出会った夏」など、様々な名作が受賞しています。
原題は、The girl who drank the moon. アメリカでの初版は2016年。日本での初版は2019年です。
非常にしっかりした世界観と構成で、ぐいぐい読ませます。主人公の心理描写というより構成で読ませるお話ですが、面白い。
お話は……
辺境のとある地は、その地を守るために、毎年、その都市に生まれた赤ん坊を魔女の生贄に捧げるならわしがありました。長老たちが赤子を連れ、森に捨てて行くのです。
ところが、その赤子たちは、毎年、心優しい魔女ザンがこっそり拾って、優しい里親たちのもとに送り届けていたのでした。
あるとき、魔女は拾った赤子の可愛らしさにみとれて、手違いで月光を食べさせてしまいます。
月光には強い魔力があり、赤子ルナは強大な魔力を持つ存在となってしまいました。
ルナが成長するにつれ、彼女の魔力がどんどん強くなるので、ザンはルナの魔力を13歳まで封印し、それまでに手を打とうとします。
しかし、彼女は魔法に関するすべての記憶を失うだけでなく、魔法を受け付けない体質になってしまいました。
「魔法」と聞いただけで眠ってしまい、記憶を失ってしまうし、「魔法」と書いてあるものはすべて読めなくなってしまったのです。
一方、ルナのふるさとでは、ルナを失った母親が錯乱した状態で塔に閉じ込められていました。その塔には大きな秘密があり、その秘密が、ルナたちのふるさとを悲しみで満たしていたのです……
と、いうのがあらすじ。
閉鎖された保護区での特殊なしきたり、しきたりに従って捨てられる赤子たち、その「しきたり」は表向きには恐ろしい魔女への生贄と言うことになっているけれど、実は……と、いう、ふつうの小説ならラストのネタバレになりそうなことが、冒頭でいきなり全部種明かしされています。
しかし、そこからが面白い。
もちろん、謎も二重三重になっており、登場人物全員の過去と謎が複雑に絡み合っています。最後は、ルナが彼女の存在そのもので解決してゆくというストーリー。
登場人物それぞれが、物語の中で、それぞれの課題と向き合い、乗り越えて成長してゆくのも、見事です。
これは、少女ルナの物語なのですが、魔女ザンの物語でもあります。そして、「命」とは何か、「愛」とは何か、「魔法」とは「奇跡」とは、と問いかけてゆきます。ザンとルナは、おばあちゃんと孫のような関係なのですが、母と娘のようでもあります。
このふたりの関係が主軸になっていて、とくに恋愛とかも絡まずに、すっきりとテーマに向き合っているところも、ブレてない。女の子が主人公の物語ながら、彼氏キャラとかはあえて出さずに親子愛に焦点を定めていて、そこがいいのです。日本ではこういうの難しいかもしれません。
魔女ザンの人生の結末がとても美しく、しみじみとした気持ちで読み終われます。
文章はとても読みやすく、冒頭くぐっと引き込まれます。けっこうボリュームがあり、振り仮名は難しい漢字にしか振られていないので、小学校高学年から。
けれども、哲学的なテーマもあり、男女問わずおすすめの小説です。ファンタジーが好きなら、ぜひ。もちろん大人でも楽しめます。
この本を読むなら、夜。
月の綺麗な夜に、温かいお茶を飲みながら、ひざかけをしてじっくり読みたい本格ファンタジーです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブなシーンはほぼありません。キャラが大怪我をするところも、気をつけて書かれているので残虐な感じがしません。大丈夫だと思います。
非常な哲学的なテーマで、HSPやHSCの方のほうが、多くのメッセージを受け取れると思います。
読後はお月様を見ながら、あたたかいお茶を。
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