【扉のむこうの物語】倉庫の中の扉から異世界へ。パズルのような摩訶不思議ファンタジー。【小学校高学年以上】

2024年3月21日

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扉のむこうの物語 岡田淳/作・絵 理論社

行也(ゆきや)は、冬休みの宿題に「物語を書く」ことを選びました。何か題材になることはないかと、お父さんのつとめる小学校の倉庫で物色しているうちに、知らない女の人と倉庫に閉じ込められてしまいます。不思議なものがたくさんある小さな倉庫、そして不思議な扉。そのむこうには……

この本のイメージ 異世界ファンタジー☆☆☆☆☆ パズルのような伏線☆☆☆☆☆ 少年の成長☆☆☆☆☆

扉のむこうの物語 岡田淳/作・絵 理論社

<岡田淳>
日本の児童文学作家。著書『雨やどりはすべり台の下で』で産経児童出版文化賞を、「こそあどの森の物語」で野間児童文芸賞を受賞し国際アンデルセン賞の国際児童図書評議会(IBBY) オナーリストに選ばれた。翻訳家、挿絵・イラスト作家、エッセイストでもある。

 「こそあどの森」「びりっかすの神様」「二分間の冒険」などでおなじみの岡田淳先生の大長編異世界ファンタジーです。初版は1987年。新装版が2005年に出版されています。(現在、入手可能なのはこちら)

 岡田先生は、長年小学校の先生をされていたそうで、小学校が舞台となるファンタジーが多く、主人公が不思議な体験を通して様々な人たちと出会い、力をあわせて困難を乗り越え、成長する物語を描いています。

 今回のお話は、小学校の倉庫が入り口となる異世界ファンタジー。
かなりの長編ですが、前半にちりばめた伏線を後半に回収してゆくお話で、読み進めるうちにどんどん惹きこまれます。

 お話は……

 行也(ゆきや)は小学六年生。お母さんは五歳のときに死に、小学校教師のお父さんと二人で暮らしています。色白で男らしくないことを気にしている行也は、冬休みの自由課題に、みんなのようなスポーツや勉強ではなく「物語を書く」と言う創作を選びました。

 物語の題材を探して、お父さんの学校の倉庫に遊びに行き、そこで偶然出会った見知らぬ女性と閉じ込められてしまいます。そこには、面白そうなものがたくさんありました。ひらがなの五十音表、ピエロの人形、不思議なトーテムポール、迷路の地図、時計、古い机や椅子……。ふたりは、これらを使って即興でお話を作ろうと思い立ちます。

 ところが、そんなことをしているうちに、作り物の扉が開いて、その向こうには見たこともない世界が広がっているのが見えたのです……

 と、いうのが冒頭のあらすじ。

 人間を「枠」にはめ管理しようとする「何者か」と、自立した心でその「枠」を打ち破り成長する子どもたちのお話は、岡田先生の作品によく見られるテーマです。子どもたちは成長過程で互いに理解しあい、協力して、それぞれが一回り成長します。

 「扉のむこうの物語」は、子どもの想像力を具現化したような異世界ファンタジーなのですが、その一方で、社会風刺の要素もあり、それが異世界のキャラクターや不思議アイテムなどで比喩的に表現されています。

 独裁者のように君臨する、操り人形のピエロ。ピエロを操る、わし、ふくろう、マンドリルの大臣。人の言い分などまったく聞かず、自分たちの勝手な解釈でレッテルを貼り、ピエロの魔法で好き勝手なものに変えられてしまう世界……。

 子どもは五段階の成績表の数字だけで判断され、名前ではなく数字だけで呼ばれます。職人や音楽家、コックさんなども「陽気で親切なマスター」など、役割名で扱われます。

 その上、この世界では、「すでに死んだ人間」でさえ、好き勝手な解釈で「分類」され、最悪の場合、オルゴールや壷など、本人ではない「別の何か」に変身させられてしまうのです。

  簡単に人に「レッテル」を貼って、「こういう人間だ」と決め付ける社会。決め付けることで周囲も本人も安心してしまい、何も考えられなくなってしまう怖さ。
 それだけでなく、他人にレッテルを貼り付けて決め付けている人ですら、何者かに操られているという、何重にも重なった構造……

 それに対して、行也は、自分の頭と心で乗り越えます。最初は、自分の知恵を総動員して、そして、次には「自分たちだけが助かるだけじゃだめだ」と利他の心を発揮することで。

 子どもが読めば、わくわくする異世界ファンタジーとして、大人が読めば哲学的な物語として楽しむことができます。子どもの頃、夢中で読んだ人も、大人になってから読むと新しい物語との出会いがあるはず。

 小学生の行也と一緒に物語を作るのが、大人の「ママ」こと知恵さんだと言うのも、好きなポイント。
 いくつになっても、空想したり冒険したり、想像していいんだ、それを子どもっぽい、バカだ、と思う必要はない、と語りかけてくれているように感じるのです。

 そのうえで、行也の気持ちになって読むと、安全に守られていた「子どもの世界」から一歩、「大人の世界」へと踏み出したときの怖さや心細さがひしひしと感じられます。行也は「扉のむこうの世界」を体験したことで、大人の社会のゆがみを垣間見たのです。

 文章は平易で読みやすく、難しい漢字は少なく、振り仮名もあります。ただ、全体的に振り仮名が少ないのと、たいへんなボリュームなので、小学校高学年から。小説を読みなれたお子さま向けです。

 とくに、内向的で、内省することの多い方は、多重構造になった物語から、いくつものメッセージを受け取れるはず。

 ネット内で「スタジオジブリでアニメ化してほしい」と言う意見を見かけましたが、まさにぴったり。とくにヒロインの変幻自在さを、アニメーションで見てみたい。

 作品内には、「ツィゴイネルワイゼン」、シューベルトの「未完成」、「エリーゼのために」、「ブラームスの子守唄」など、随所にクラシック音楽が流れます。読後は、聴きたくなるかもしれません。

 たっぷりと時間がとれる休日に、「よっしゃ、今日は読むぞ!」と、どっぷり物語の世界に浸りたいときに、おすすめの、良質の児童文学です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はほとんどありません。パズルのように面白い異世界ファンタジーですが、哲学的な側面もあり、考えさせられます。HSPやHSCの方のほうが多くのメッセージを受け取れるでしょう。

 読後は、「ブラームスの子守唄」を聴きながらレモンティーとクッキーでひとやすみ。

 

商品紹介ページはこちら

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=XnWLcY3TfoY&t=766s
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