【はなのすきなうし】80年以上愛されるロングセラー絵本。争いが嫌いな牛の物語【4歳 5歳 6歳】
むかし、すぺいんに ふぇるじなんど というこうしがいました。かれはおはながだいすきでした━━。戦いが嫌いな牛ののどかで幸せな生活を描いて、ずっと愛されている名作絵本です。
この本のイメージ 古典名作☆☆☆☆☆ 牛がかわいい☆☆☆☆☆ ロングセラー☆☆☆☆☆
はなのすきなうし 岩波の子どもの本 マンロー・リーフ/おはなし ロバート・ローソン/絵 光吉夏弥/訳 岩波書店
<マンロー・リーフ>
Wilbur Monroe Leaf(別名 Munro Leaf)(1905年12月4日~1976年12月21日) 40年間のキャリアの中で40冊近くの本を書いた児童文学のアメリカ人作家。「はなのすきなうし」(1936)で知られる。これは、彼が1時間ほどで黄色のノートに書き上げた子供の古典です。
<ロバート・ローソン>
Robert Lawson (1892年10月4日~1957年5月27日)は、アメリカの作家であり、児童書のイラストレーター。1941年にTheyWereStrong and Goodのイラストでコールデコット賞を受賞し、1945年 にRabbitHillの短編小説でニューベリー賞を受賞した。
<光吉夏弥>
光吉夏弥(みつよし なつや、1904年11月20日~1989年3月7日)は、日本の翻訳家・絵本研究家・舞踊評論家。本名・積男。
大阪府北区北野茶屋町で生まれる。1929年慶應義塾大学経済学部卒業。専門は児童文学・写真・舞踊。1953年岩波書店で「岩波の子どもの本」絵本シリーズを石井桃子とともに創立する。ほか児童書の翻訳、バレエの入門書など多数。1990年「絵本図書館(世界の絵本作家たち)」で日本児童文学学会賞特別賞受賞。(Wikipediaより)
古典名作絵本「はなのすきなうし」です。原題はThe Story of Ferdinand. アメリカでの初版は1936年。日本での初版は1954年です。アメリカで出版されてから80年以上、日本で出版されてからは60年以上愛されている古典名作です。
先日ご紹介した「子どもの本で平和をつくる」の作中に、主人公のアンネリーゼの弟の愛読書として登場しました。
ストーリーは……
牛のフェルジナンドはお花が大好き。
ほかの牛たちの夢が闘牛場で勇ましく戦うことなのに比べ、フェルジナンドは静かに座って花の香りをかいでいたいと思っていました。
おかあさん牛は、お友だちの牛たちと飛んだり跳ねたりして遊ばないフェルジナンドが、ひとりぼっちでさみしいのかと思い、心配しましたが、フェルジナンドはひとりで花の匂いをかいでいるのが幸せなのだとわかると、好きにさせてあげました。
ところがある日、マドリードから牛買いがやってきて、闘牛に出す牛を探しに来ました。ほかの牛たちは、大げさに暴れて牛買いに連れて行ってもらおうとしましたが、フェルジナンドはいつものように木陰に座って花の匂いをかごうとしました。
ところが、運悪くその下にくまんばちがいて、フェルジナンドをしたたかに刺したのでした。
はちに刺されたフェルジナンドは痛さに大暴れし、そのため凶暴な牛と勘違いされて闘牛場に連れて行かれます。
そして……
……と、言うのがあらすじ。
安心してください、ハッピーエンドですよ!
このお話、スペイン内戦(1936年~1939年)のさなかに出版され、その後ナチスドイツから出版を禁じられた絵本だったようです。さまざまな理由で、幾度も禁じられつつも、今もなお、世界中で愛されている伝説の絵本です。第二次世界大戦終戦後には、ドイツで30000部出版され、国中の子どもたちに無料で配られました。
アメリカでも大人気だったことから、ウォルト・ディズニーによって、Ferdinand the Bullとして1938年にアニメーション映画化されました。2017年には再度、ブルースカイスタジオによってFerdinand というタイトルでアニメーション映画化されています。
この物語はシビロンと言う、1930年代初頭にサラマンカ郊外の農場で育てられた実在の温和な牛のエピソードがベースになっているようです。シビロンは、闘牛なのに女の子の手から餌を食べるような温和な牛で、民衆の願いによって闘牛を恩赦されました。
しかし、残念なことにその後、戦火に巻き込まれて死んでしまったようです。
子どもの頃になんとなく読んで、とぼけたお話として憶えていましたが、今、読み返してみるとたいへん含蓄があります。
このフェルジナンド、今の言葉で言えば内向的で大人しい男の子。
ほかの男の子たちが友だち同士で追いかけっこしたり、取っ組み合いをして遊んでいるときに、フェルジナンドはひとりでコルクの木の下で花の匂いをかいでいます。
それが、彼のしたいことなのです。
お母さんは、最初、息子のことを心配しますが、「うしとはいうものの、 よく ものの わかった おかあさんでしたので ふぇるじなんどの すきなように させてやりました(引用)」
……ここが、いいですよね。なかなかできることではありません。
その後、とんだ誤解でフェルジナンドはマドリードに連れて行かれますが、そこでもフェルジナンドは自分を貫き通します。
フェルジナンドがひとりぼっちだったのは、仲間はずれにされていたからではありませんでした。
彼は臆病だから、引っ込み思案だから、ほかの雄牛たちと暴れまわって遊ばなかったわけではなく、自分の信念がある牛だったのです
今、読み返すと、とぼけたフェルジナンドはかっこよく感じられるし、おかあさんが懐の深い、愛情深いおかあさんなんだとわかります。
挿絵はリアル系の絵で、スペインの建物などはとても美しく描かれています。でも、フェルジナンドの表情は豊かで、とっても可愛らしい。
そしてフェルジナンドの大好きな「コルクの木」は、コルクガシの木がたいへんリアルに描かれているくせに、ワインのコルク栓がたわわに実っていたりして、そこがなんだかとてもとぼけていて、ファンタジー感があるのです。
いや、そんなふうに実ってないでしょ、コルク。と思ったときに「ああ、メルヘンなんだな」と気づかされる。けれど、このかわいいメルヘンが伝えようとしている大切なメッセージにも気づくのです。
もう一度、読み返してみたい絵本です。
長い年月を生き残ってきた作品には、力があり、今読んでも考えさせられます。
また、アメリカで出版されてからすでに80年以上、世界中の人々に愛されてきた絵本なので、国や人種、年齢を超えた共通言語でもあります。
ゴールデンウィークは、フェルジナンドのゆかいな、そして力強い物語を親子で楽しんでみませんか。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素がありません。子どもの頃読んだときは、ただのゆかいな話だったのに、今読み返すと、なんだか勇気をもらえるお話でもあります。
人とちがっててもいいんだ、好きなことを好きと貫いていいんだ、とエールをもらえる絵本です。
ロングセラーなので、祖父母、両親、子どもたちと、親子三代で楽しむこともできるでしょう。表紙のデザインも、令和の今だと、かえってレトロでおしゃれです。
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