【アグネスさんとわたし】世代を越えた温かい交流。大切な歳の離れた「ともだち」を描いた絵本【4歳 5歳 6歳】

2024年4月6日

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アグネスさんとわたし   ジュリー・フレット/文・絵 横山和江/訳 岩波書店

カナダのクリー族の少女、キャセレナは住みなれた海辺の家から丘の上のちいさな家に引っ越しました。お隣の家には、アグネスさんというおばあさんが暮らしています。キャセレナはアグネスさんと少しずつ仲良くなってゆき…… 

この本のイメージ 静かな友情☆☆☆☆☆ 世代を越えて☆☆☆☆☆ 多様性☆☆☆☆☆

アグネスさんとわたし   ジュリー・フレット/文・絵 横山和江/訳 岩波書店

<ジュリー・フレット>
カナダの作家、画家、イラストレーター。カナダの先住民族クリー族の父とヨーロッパ系の母をもつメディス。コンコルディア大学、エミリー・カー芸術大学などで芸出を学んだ。先住民族をテーマに数多くの作品を発表、「わたしたちだけのときは」(デイビッド・アレキサンダー・ロバートソンズ文)で2017年カナダ総督文学賞受賞。本作で2020年TDカナダ児童文学賞受賞。作品を通じてクリー語の保存に努めている。バンクーバー在住

<横山和江>
埼玉県生まれ。絵本・児童文学翻訳者。訳書に「わたしたちだけのときは」(岩波書店)、「わたしの心のなか」「キツネのはじめてのふゆ」(ともに鈴木出版)、「フランクリンの空とぶ本やさん」(BL出版)、「300年まえから伝わる とびきりおいしいデザート」(あすなろ書房)、ほか多数。

 

 少し大人っぽい絵本をご紹介。原題はBIRDSONG.カナダでの初版は2019年。日本語版の初版は2022年12月です。


 読んでみてしみじみ、いい本だなあと思ったのですが、とても渋い、玄人好みと言った感じの絵本だったので、これはむしろこのサイトで推したいと感じてレビューを書いています。

 ストーリーは……

 舞台はカナダ。
 クリー族の少女キャセレナは、住みなれた海辺の町から丘の上の小さな家に引っ越します。

 少し離れたお隣には、アグネスさんというお年寄りの女の人が暮らしています。
 アグネスさんは陶芸をしていて、キャセレナは絵を描くことが好き。

 アートという共通点でふたりは、すこしずつ仲良くなります。

 やがて冬になり、アグネスさんはだんだん身体が弱ってゆき……

 ……と、いうのがあらすじ。

 安心してください、アグネスさんは死にません。(たぶん、まずここを知りたい人はいるでしょう)

 これは、種族(人種)や、年齢や、いままでの育ってきた環境や、様々にちがうものがあったとしても、わかりあい、助け合い、「友だち」になることができる、と言うお話です。

 日本は今、超高齢化社会に突入していて、人口の半分が50歳以上という異常事態です。
 つまり、この国には「50歳未満の国」と「50歳以上の国」と言う「ふたつの国」があって、「50歳以上の国」では50歳はまだまだ「若手」なのです。

 おそらく、この「50歳以上の国」で、次々と新しいことに興味がある人もたぶん「心の若手」に入ります。

 この超高齢化社会では、どういうわけか「若手」には厳しく、最近ではだんだんとこのふたつの国の断絶が激しくなってきたように感じます。

 近所に保育園ができそうになると大反対されたり、公園で子どもが遊んでいると「うるさい」と苦情が来たり……。
  わたしは昔、小学校の隣に住んでいたことがあるのですが、学校や幼稚園の近くって夜は静かだし治安は良いし、とてもいいところなんですよ。
 昼間に子どもたちの声がしたり、下校のアナウンスが聞こえると、のどかな気持ちになったものです。

 よく聞く、ピンポンダッシュのいたずらとかは、意外とありませんでした。一部の子なんでしょうけども、ああいうのが嫌がられる原因なのかもしれません。が、おおむね環境はよかったなと思い出されます。

 それに、昔は子どもと大人のそういったトラブルは日常的にあって、それも社会の一面として自然に受け入れられていたような気がします。
 「サザエさん」ではよく、カツオが公園で野球をしていてホームランボールが近所のカミナリおじさんの家のガラスを割ってしまったりして怒鳴られますが、そういうのもひとつの「交流」として成立していました。

 現代では、小さな子どもとお年寄りの交流はどんどん薄くなってきています。
  わたしは子どものころ、祖母や祖母の友だちたちと交流があり、昔の話を聞くことで人生が豊かになった記憶があるので、世代間の交流が希薄になってきた今の流れにはさみしいものを感じています。

 しかし、老人は昔子どもだったし、子どもはいつか老人になります。本来ならわかりあえるはず。

 この「アグネスさんとわたし」では、クリー族のキャセレナとアグネスさんというおばあさんが、人種や年齢を飛び越えて、ふたりのアーティストとして少しずつ心を近づけてゆく様子が丁寧に描かれています。

 知らない土地に引っ越したばかりで元気が無く、好きな絵も描けないでいたキャセレナは、陶芸家のアグネスさんとの出会いで自分の心のアーティストの部分を刺激され、楽しく絵を描くようになります。

  アグネスさんは陶芸、キャセレナは絵と、やりたいことは違うのですが、互いにそれぞれの好きなものを尊重し自分のしていることを相手に押し付けたりはしないで、心の根っこの部分━「アート」━でつながりあい、穏やかに交流するのです。
 キャセレナがアグネスさんへの思いを絵にして届けるシーンは壮観で、胸が熱くなります。

 アグネスさんはだんだん弱ってゆくので、いつかふたりの間には別れがくるのでしょうけれども、この年上の「ともだち」との出会いは、キャセレナにとって大きな財産になるはず。

 こうして、上の世代から下の世代へと、見えないなにかが継承されてゆくのでしょう。

 大きなテーマや教訓がある話ではないし、絵は渋くてけして華やかな絵本ではないのですが、何かをつくる、内向的なお子さまや、おじいさんおばあさんと離れて暮らしている、周囲に老人の少ない環境のお子さまには良いかもしれません。

 絵や、陶芸や、そういったアートには「言葉」を越える見えない言語があり、それが世代間の壁を越える力になる場合があります。

 学校になじめず、家でひとり遊びをするのが好きだったり、積み木を並べたり、絵を描いたり、パズルをしたりを何時間も夢中に続けてしまうようなお子さまには、もしかしたら「年上の友だち」がしっくりくるかもしれせん。

 寄り添うこと、分かり合うこと、友情などについて、新しい切り口をくれる絵本です。
 もしかしたら、響く人がいるかもしれません。

 平易で読みやすい文章ですが、漢字交じりで書かれています。ただしすべての漢字に振り仮名が振ってあります。ひとり読みでも、読み聞かせでも。でも、こういうのが好きなお子さまは、ひとりでじっくり読むかも知れません。

 
 必要としている人に届きますように。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。
 しみじみといい本です。HSPHSCの方のほうがより多くのメッセージを受け取れるでしょう。
 十人が十人、読んで楽しい嬉しいと言う絵本ではありませんが、ぴたっとはまるお子さまには、心の底にあたたかい何かが残ると思います。
 内向的で、絵を描いたり粘土をこねたり、園芸をしたり、何かを創ることが好きなお子さまに。

 

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