【さすらいの孤児ラスムス】リンドグレーンの名作。家を求める少年の大冒険【小学校中学年以上】

2024年4月11日

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さすらいの孤児ラスムス  アストリッド・リンドグレーン/作 エーリック・パルムクヴィスト/挿絵 尾崎義/訳 岩波少年文庫

孤児院を脱走した少年ラスムスは、アコーディオンを奏でる陽気な風来坊オスカルと出会い、さすらいの旅をすることになります。ところが、ラスムスがピストル強盗の現場を目撃したことで危険に巻き込まれ……

この本のイメージ サスペンス☆☆☆☆☆ 冒険☆☆☆☆☆ ハッピーエンド☆☆☆☆☆

さすらいの孤児ラスムス  アストリッド・リンドグレーン/作 エーリック・パルムクヴィスト/挿絵 尾崎義/訳 岩波少年文庫

<アストリッド・リンドグレーン>
1907~2002。スウェーデン南西部のヴィンメルビューに生まれる。小学校の先生や事務員をしながら、執筆活動をはじめ、「長くつ下のピッピ」で子どもたちの圧倒的な人気を得た。ほかにも、農村の子どもの生活をユーモラスに描いた「やかまし村」シリーズ、「名探偵カッレくん」シリーズ、空想ゆたかなファンタジーなど、世界中の子どもたちから愛される多くの作品がある。1958年に国際アンデルセン賞を受賞

<尾崎義>
1903~69。「リンドグレーン作品集」のうち、6冊を訳している(「名探偵カッレくん」シリーズ、「さすらいの孤児ラスムス」「ラスムスくん英雄になる」「わたしたちの島で」)。著書に、「スウェーデン語辞典」(共著)、「フィンランド語四週間」など。

 初読です。
 原題はRasmus på luffen. 原書初版は1956年。日本語版初版は1965年。岩波少年文庫版初版は2003年です。

 「長くつ下のピッピ」「名探偵カッレくん」で知られるリンドグレーンの名作。
 孤児のラスムス(「名探偵カッレとスパイ団」に登場するラスムスとは別人)が孤児院を飛び出し、さすらううちに大事件に巻き込まれるというお話です。

 ストーリーは……

 ラスムスはヴェステルハーガ孤児院で暮らす孤児。両親のことは何も知りません。
 あるとき、手違いで怖い怖いヒョーク先生に水をぶっかけてしまい、明日は鞭打ちだとおびえます。

 親友のグンナルが軽い気持ちで「逃げてしまえばいい」と言ったのをきっかけに、ラスムスは孤児院を脱走するのでした。

 偶然にもアコーディオン弾きの風来坊オスカルと仲良くなったラスムスは、ふたりで旅をすることになりました。

 ところが、ある老婦人の家でピストル強盗を目撃したことによって、事件に巻き込まれてしまいます……

 ……と、いうのがあらすじ。

 「長くつ下のピッピ」のようなガキ大将ものや「やかまし村」のようなほのぼの日常系ではなく、「カッレくんシリーズ」のようなサスペンスものです。

 リンドグレーンのサスペンスものって、子どもが巻き込まれる事件としてはかなり本格的でリアリティがあります。
 本物の凶悪事件はもっと恐ろしいのでしょうが、子どもの想像力のぎりぎり限界くらいの絶妙の「危機感」があって、読んでいると心臓がどきどきしてきます。

 ラスムスはやんちゃ坊主の孤児ですが、無鉄砲なところと繊細なところが入り混じった性格をしています。
 ほかの孤児たちは孤児院を抜け出して飢えて生活できなくなるよりはヒョーク先生に怒られたり鞭で打たれたりするほうがましと考えているのに、ラスムスは鞭で打たれるくらいなら大抵のことは我慢できると思い脱走してしまいます。
 孤児院で優しそうなお金持ちに養子としてもらわれてゆくのはいつも縮れ毛のかわいい女の子で、自分のような針毛の男の子ではないことを劣等感に感じていたり、ヒョーク先生に母性を求めたりする繊細なところがある一方で、高いところへよじ登ったり飛び移ったりすることが何の苦でもないずぶといところがある、ラスムスはそんな奇妙な子どもなのでした。

 そんなラスムスが、凶悪な二人組のピストル強盗と渡り合うことになります。

 ラスムスはカッレくんのように自分から危険に飛び込んでゆくタイプではありませんが、本人の意思とは関係なく、あれよあれよと言う間に重大事件の目撃者となってしまいます。

 しかし、自分たちは孤児と風来坊。世間の人が自分たちを信用してくれるわけがありません。
 むしろ、犯人の濡れ衣をかけられてしまいます。

 さて、この難関をラスムスとオスカルはどう突破するのでしょうか。それは読んでみてのお楽しみ。

 カッレくんたちはそこそこいい家の坊ちゃん嬢ちゃんだし、ピッピはひとり暮らしでもたんまり金貨を持っていたりして、そんなに生活に困っていません。そんな子たちが冒険に惹かれるのと、ラスムスが冒険してしまうのは事情が違います。
 ラスムスは毎日、食べるものと寝るところに苦労するほどの生活なのです。

 食べ物と寝る場所さえあればいい、けして冒険を求めているわけでもないラスムスが意に反して巻き込まれた大事件に立ち向かうのは、ひとえに自分に親切にしてくれた人、優しくしてくれた人への情から。
 ラスムスは大好きな人のためなら、どんなに怖いときでも勇気を出せる男の子なのです。

 そんなラスムスが、困難を乗り越え、どんな結末を迎えるのでしょうか。
 ラストはあっと驚くハッピーエンド。

 文章は読みやすく難しい漢字には振り仮名が振ってありますが、総ルビではありません。かなりボリュームはあるほうです。小説を読みなれたお子さまなら、小学校中学年から。

 岩波少年文庫は、たいてい少し難しめの小説を子どもにすすめるように設定されているので、本を読みなれていないと難しいかもしれません。けれど、面白いお話なので挑戦してみてください。もちろん、大人が読んでも楽しめます。

 子どもの頃、リンドグレーンに親しんだ方もぜひ。
 やんちゃだけどけなげなラスムスは、読んでいて思わず応援したくなりますよ。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 サスペンスなので危険なシーンもあるのですが、児童小説らしく気をつけて書かれており、残酷シーンや流血シーンはありません。けれども、ハラハラドキドキの連続の、最高の冒険小説です。

 読後はあたたかいコーヒーとジンジャーケーキが食べたくなるかも。

 

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