【霧のむこうのふしぎな町】迷い込んだ不思議な町でひと夏の冒険を。【小学校中学年以上】
リナは夏休みに一人旅に出ました。目指すは「霧の谷」。お父さんにすすめられて指定の駅に着いたのはいいものの、どこにあるかもわかりません。すると、持っていたピエロの柄の傘が、突然、風にあおられて……
この本のイメージ 不思議☆☆☆☆☆ わくわく☆☆☆☆☆ どこかなつかしい☆☆☆☆☆
霧のむこうのふしぎな町 柏葉幸子/作 講談社 青い鳥文庫
初読です。
児童文学界ではかなり有名な本だったようです。
無知で申し訳ありませんでした。(土下座)
夏にぴったりの物語で、この季節に読んでほんとうによかった。
ご存知な方にはいまさらな名作だと思うのですが、本日はレビューさせていただきます。
あらすじは、
夏休みにリナはお父さんのすすめで、東北のとある場所に行くことになります。
場所は「霧の谷」。
だれも場所を知らなくて、途方にくれていたリナですが、持ってきたピエロの柄のついた傘が風に飛ばされて、追いかけていくと、突然見知らぬ町にたどり着きます。
そして、そここそが、リナの目的地「霧の谷」だったのです。
これは、リナの、霧の谷でのひと夏の生活のお話です。
リナがたどり着いたのは「ピコット屋敷」。ピコットさんという、毒舌のおばあさんが取り仕切る下宿屋さんです。そこに下宿する条件は、「町で働くこと」。
彼女は、この奇妙な町の、お店一軒一軒に働きに出て、摩訶不思議な体験をしてゆくのでした。
読み進んでゆくうちに、ここは「魔法使いの子孫」たちの町だとわかってきます。小さな町には、ピコット屋敷以外には「めちゃくちゃ通り」に五軒しか店がありません。
けれど、遠くの国からゾウに乗って王妃様がやってきたりするのだから、おそらく、この町の存在する時空にはほかの村も町もあるのでしょう。
この町の奇妙な人たちと交流しながら、リナが成長していく、正統派のファンタジーです。
出てくる人たちは、全員、欠点はあるけどいい人ばかり。
わたしは、ツンデレのオウム、バカメがお気に入りです。この物語のかわいさ大賞って感じです。遠くの国の王子さまも、少しバカメに似ています。
よく考えたら、ピコットばあさんも、そんなタイプです。
無愛想で、口が悪くて、一見意地悪そうに見える人たちが、リナと交流してどんどんやさしさを表に出すようになります。そして、リナ自身も、お店での体験を通じて成長してゆきます。
ぜんぶのお店で働いたら、夏休みの終わり。
リナは、お土産を持って、家路につきます。
ピコットばあさんが、お土産袋の奥にひそませた、最高のお土産を握り締めて。
癖のある人たちは出てきますが、悪人は出てきません。突拍子もない人たちばかりですが、よくよく考えると、これはユートピア。
どんなに食べても太らないお菓子を売ってるお菓子屋さん(でも虫歯にはなる)、めずらしい本がわんさか置いてある本屋さん、最高においしい料理を作ってくれるコックさん、不思議な食器ばかりを置いてるせとものやさん、四季の花をいっぺんに咲かせてくれる発明家……
子どもの頃に「あったらいいな」と思ったものばかり。
そして、こんな、めちゃくちゃな人たちばかりが出てくる物語なのに、主人公のリナが負けてないのです。ごくふつうの女の子なのに、気おされず、影薄くならず、だんだん魅力があふれ出してくる。
それは、リナの「順応する力」のせいかもしれません。
どんな突拍子もない人がでてきても、リナは最初はびっくりするけど、だんだん受け入れて打ち解けてしまうんですよね。だから、相手も心を開く。
最初はとくに特徴もない、ごくふつうの女の子に見えたリナの受容力や打たれ強さが、途中からどんどん周囲の人たちを惹き付けてゆく様子が、読んでいて気持ちがいいのです。
難しい漢字は使われておらず、平易な文章なので、小学校中学年以上ならどなたでも読めますが、大人にもおすすめ。
読み終わったとき、思わず「はあーっ」と幸せなため息が出てくる、どこかなつかしいファンタジーです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
HSPにHSCにもおすすめの本です。ネガティブな要素はありません。安心してお読みいただけます。夏休みにぴったりの本です。読み聞かせにもおすすめですが、冒頭の東北弁のシーンが苦労するかもしれません。
食べ物のシーンはおいしそうです。
ただし、たくあんにマヨネーズをかけたい、とお子さまが言い出すかもしれませんから、お覚悟を。
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