【地下室からのふしぎな旅】地下室が異世界への入り口?ふしぎなふしぎな大冒険【小学校中学年以上】
アカネはおつかいでチィおばさんの薬局に来ていました。ところがこの薬局の地下室から、謎のヘンテコ紳士が飛び出してきます。どうやら地下室には秘密があって、別の世界との出入り口になっていたらしいのです……
この本のイメージ 異世界☆☆☆☆☆ カラフル☆☆☆☆☆ ほのぼの☆☆☆☆
地下室からのふしぎな旅 柏葉幸子/作 講談社青い鳥文庫
「霧の向こうのふしぎな町」の柏葉幸子先生の異世界ファンタジーです。2019年に「バースデーワンダーランド」としてアニメーション映画化されたようです。
映画は少し改変されているようなので、今回は小説のほうのあらすじをご説明いたしますと、
アカネは、チィおばさんの薬局におつかいに来ていました。チィおばさんは変わりもので、お母さんが死んでから小さな薬局にひとりで暮らしています。
その薬局の地下室に、突然、片眼鏡をかけたヘンテコ紳士と、小人がやってくるのです。
どうやら、この地下室は、別の世界への出入り口になっていたらしく……
「木の芽時の国」の錬金術師だというヒポクラテスとその弟子の小人ピポに連れられて、チィおばさんとアカネはとなり世界へ旅立ちます。
ふしぎな世界のふしぎな旅。アカネは面食らうことばかり。
ところが、途中でヒポクラテスたちともはぐれてしまいます。アカネたちはもとの世界へ戻れるのでしょうか?
と、言うのがこのお話のあらすじ。
全体的にほのぼのとしたやさしい雰囲気で、人が争ったり死んだりというお話ではありません。合気道三段の薬剤師、チィおばさんが、ヘンテコ紳士ヒポクラテスとともにいい味出しています。礼儀正しい小人のピポもかわいい。
「木の芽時の国」に行こうとしていた一行は、手違いで「小春日和の国」に来てしまいます。そこで小春日和の国の人々の悩みを解決し、市場へ行き、「時無し雨の国」に行き……と、あちこちを旅しながら出会った人の問題を解決してゆきます。
問題には共通した要素があって、「好きなことのためにどこまで犠牲にできるか」みたいなことでした。
この世界は、何かひとつに特化した国がたくさんあって、その国で生産されるものやコトを交換して支えあっている世界です。
小春日和の国はケイトウ色の毛糸で編んだセーターや手袋を輸出している国でした。
他にも、魚をとる国や、雨をふらせる国など、様々な国があるようです。「時無し雨の国」は、世界の水の供給を担当しているようでした。
それぞれの国の人々は自分たちの国の担当する仕事に誇りをもっていて、真面目に働いています。基本的に幸せなのですが、同じコトを続けていることで飽きてきてしまったり、職業病のような病気を抱えたりしています。
それを別世界から来たアカネとチィおばさんがちょっとしたことで助けてあげるわけです。
この地下室は、もともと「木の芽時の国」の(たぶん)女王アントムの城とつながっていて、アントムとチィおばさんのお母さん上杉リツさんのあいだで、共有する契約をしていたのでした。
おそらくアントムは、自分たちの世界に時々「外の世界の要素」を入れたほうがいい、と思っていたのでしょう。
そして、リツさんも、ときどき別の世界で息抜きしていたにちがいありません。
そのような世界と世界をつなぐ出入り口は、チィおばさんの薬局の地下室以外にもたくさんあるけれど、たいていの人は気味悪がってふさいでしまう。でも、アントムとリツは物好きだったから開けておいたのだ、とアントムの孫の王女は言うのです。
でも、その「物好き」のおかげで、「時無し雨の国」の王子の病気は治ります。
アカネは、内気で大人しい子どもです。チィおばさんには、とらえどころがない子だからと「カスミ」と呼ばれてしまうくらいです。印象が薄いと言いたいんでしょうね。けれども、そんなアカネが、「となりの国」の人々に、ほんのちょっとした助けをすることで、彼らの悩みが解決してしまうんです。
味のない料理に、ちょっとだけ塩を加えるみたいに。
このアカネがその「ちょっとした力」を発揮できるよう、後押ししているのがチィおばさん。合気道三段の薬剤師というプロフィールからもわかるように、最強にポジティブで、ずうずうしく、たくましい、キョーレツなおばさんです。
もちろん、チィおばさんだけでも問題は解決しません。でも、この強引さが必要な時もあるんですよね。
目の回るような冒険のあと、アカネはもとの薬局に戻ってきます。
でも、冒険を終えたあとのアカネは、以前のアカネとはすこしだけ違うのです。
ちょっとだけ塩を加えたみたいにね。
どこかなつかしい香りがする、ほのぼのとした異世界ファンタジーです。秋の物語なので、もう少し涼しくなってから公園などで読むのにおすすめです。
戦いのない異世界もので癒されたい人は、読んでみてくださいね。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はいっさいありません。安心してお読みいただけます。楽しくてカラフルなファンタジーです。魔法使いや錬金術師たちがみんな、いい味を出しています。
読み終わったら、栗が食べたくなったり編み物をしたくなったりするかもしれません。秋から冬にかけての物語です。あたたかいミルクティーをお供に、ぜひどうぞ。
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