【クレストマンシー】対立する二つの家と、トニーノの風変わりな魔法【トニーノの歌う魔法】【小学校高学年以上】
イタリアの小国カプローナには、モンターナとペトロッキと言うふたつの魔法の一族がありました。ところがこのふたつの家はほんとうに仲が悪かったのです。モンターナ一族の男の子、トニーノは、一族のみそっかす。呪文の覚えが悪く、できる魔法もほんの少しでした。だけど……
この本のイメージ 魔法☆☆☆☆☆ 音楽☆☆☆☆☆ 予測不能☆☆☆☆☆
トニーノの歌う魔法 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/作 野口絵美/訳 佐竹美保/絵 徳間書店
<ダイアナ・ウィン・ジョーンズ> 1934年イギリス生まれ。オックスフォード大学セントアンズ校でトールキンに師事。イギリスを代表するファンタジー作家。作品に「魔法使いハウルと火の悪魔」など。
「ハウルの動く城」の原作でおなじみ、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「大魔法使いクレストマンシー」シリーズです。今回の舞台は、イタリアの小国カプローナ。この世界では、イタリアは統一されず、小さな国がある状態のようです。
そのカプローナの二大魔法一族、モンターナとペトロッキは、たいへん仲が悪く、何百年間も一族同士のいさかいが絶えずに、憎みあっていました。
この物語の主人公、モンターナ一族の男の子トニーノは、魔法の覚えが悪く、一族のみそっかす。でも、魔法猫のベンヴェヌートが懐いてくれる唯一の人間でもあります。
今、カプローナには危機が近づき、本来ならモンターナとペトロッキは手を取り合うべき時でしたが、彼らは憎みあうばかり。そのうえ、両家の魔力は弱ってきているようなのです。それなのに、カプローナは周辺諸国との戦争に巻き込まれそう。この小さな国はどうなってしまうのでしょう。
不穏な空気を察して大魔法使いクレストマンシーが英国から訪ねてきます。しかし、彼によるとふたつの家の魔力「徳の力」はまだまだ充分にあるらしい。では、その力はどこへ?
そんなとき、モンターナのトニーノとペトロッキのアンジェリカが何者かにさらわれてしまいます。互いが相手のせいだと信じて、激しくぶつかり合う両一族。クレストマンシーの制止もきかず、両家は争います。
そして、そんななか、カプローナは周辺諸国に宣戦布告。ところが、大公は宣戦布告に覚えがないと言うのです。謎に包まれたまま、ついに戦争がはじまってしまうのです……
というのが、今回のあらすじ。
なんという盛りだくさんな展開! しかも、もっと複雑で、もっと込み入っています。
今回のモチーフは、「魔法」と「音楽」。
モンターナとペトロッキは、音楽に呪文をのせて詠唱するので、みんな音楽の使い手なのです。
トニーノは一族のみそっかすでしたが、一族の全員がトニーノの魔力の覚醒を信じて疑わないところに熱い家族愛を感じます。
だから、トニーノは自分が劣っていることを気にはしているけれど、自分のことが嫌いなわけではないし過剰な自己卑下はしてないんですよ。
そして、じつは誰よりも本質を見抜く目があり、他の人が気がつかない違和感に気づくのです。
物語後半では、トニーノには、非常に強力な力━━しかも、他人から発見されにくい━━があることがわかります。
その力で、絶体絶命の状況をひっくりかえしてゆきます。
この「どれも最初の見た目どおりではない」と言うのが、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品の魅力です。そして、後半になるとパズルのピースがばんばんはまり、超スピードでたたんでゆく展開がお見事なんです。
そして、くもりのない目で見ていたクレストマンシーだけは、どうやら最初からすべてわかっていたようで……
立ち上がりは世界設定などを理解するために時間がかかりますが、中盤をすぎた辺りからトップスピード。息もつかせぬ展開で、クライマックスになだれ込みます。もちろん、ハッピーエンド。
「つぎはどうなるの、どうなるの」と思っているあいだに読み終わってしまう、純粋にお話を楽しめる、上質ファンタジーです。
大魔法使いクレストマンシーシリーズは、「魔女と暮らせば」が第一巻ですが、一話完結なので、どの話から読んでも大丈夫。「魔法使いものが読みたいな」と思ったら、ぜひ手に取ってみてくださいね。
安心してください、「ハウル」と「クレストマンシー」にはハズレなしです!
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。わくわくする魔法使いファンタジーです。世界には魔法があふれていて、魔法使いが日常的に暮らしている世界の冒険物語です。トニーノは本が大好きで、とくに好きなのは「魔法が存在しないという奇想天外な異世界のファンタジー」だそう。つまり、わたしたちの世界の物語ですね。
そんな洒落た仕掛けがたくさんあるお話です。
読後のために、おいしいコーヒーとチュロスなどをご用意くださいね。
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