【ビッケと空とぶバイキング船】祝・映画化!戦わないバイキング、ビッケの大冒険【小学校中学年以上】

2020年9月29日

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ビッケと空とぶバイキング船 ルーネル・ヨンソン/作 石渡利康/訳 評論社

ビッケは、フラーケ一族の族長ハルバルの息子です。まだ子どものビッケだけど、一族からは一目置かれていました。なぜって、彼みたいにかしこいバイキングはいなかったからです……

この本のイメージ 冒険☆☆☆☆☆  知恵VS知恵☆☆☆☆☆ 敏腕セールス☆☆☆☆☆

ビッケと空とぶバイキング船 ルーネル・ヨンソン/作 石渡利康/訳 評論社

<ルーネル・ヨンソン>
1916年~2006年。スウェーデンのニーブロに生まれる。スウェーデンのジャーナリストにして児童文学作家。1963年に、『小さなバイキングビッケ』を刊行、1965年ドイツ児童図書賞を受賞。

ビッケと空とぶバイキング船 ルーネル・ヨンソン/作 石渡利康/訳 評論社

 「小さなバイキング」からはじまるビッケのシリーズ三冊目です。
 今年の秋、映画化されるそうで、とってもたのしみですね。

 今回もビッケは、ハルバル父さんたちと一緒には航海に出ず、途中で助けに行く展開になりました。
 船で何日もかかる航路を、伝書鳩で連絡をとり、あざらしの水上スキーで駆け付けます。もちろん、伝書鳩もいざというときのためにビッケが父さんたちに前もって渡しておいたんですけどね。

 その後は、いつものパターンで、家に帰る途中のさまざまな冒険です。
 暴君の国で、暴君から国を解放したり、知恵のすぐれた一族からの攻撃を知恵で撃退したりします。

 どちらでもビッケは大活躍しますが、とくに、食いしん坊の暴君の国での活躍は、ビッケの話術が光りました。
 この国は、王様と側近たちだけがたらふく食べて、民やお城で働く家来たちはがりがりにやせ細っているという、気の毒な国でした。

 そこで、ビッケは一計を案じ、王様に「暖食器」という、食事をあたためる食器を売るセールスマンとなって王様を説得するシーンがあるのですが、これがもう、ものすごい敏腕セールスマンぶりなのです。作者はちょっと本気出して書きすぎです。

 でも、ビッケはこのとき必死なのです。ビッケが愛される理由はここだと思います。
 ピンチになったときに、頭に火花が散るほど必死で考えるけれど、けっして「しめしめ」って感じじゃないところ。とにかく、父さんや一族のみんな、困っている人たちを助けるために必死で考えて、必死で行動していて、そして、内心ではいろんなことがたくさん怖いのです。

 他の少年小説の主人公のように、怖いものなしのたくましさがあるわけではなく、いつもこわがりで、慎重で、考えこむたちの子なのです。でも、いざというときはがんばる。

 トム・ソーヤーやピーター・パンより、現代っ子には共感しやすい子じゃないでしょうか。ビッケって。

 今回、いいなと思ったくだりはここ。

 ビッケは勇気がない、と思われてもかまいません。評判なんて、どうでもいいのです。勇気があるように見せかけると、それだけたいへんなことにまきこまれてしまう、とビッケはいうのです。何か大きなことをやってみせようとやくそくなんかすると、やりたくもないことをやらなければならなくなるからです。やらなければよかったと後悔しても、もうあとのまつりです。何事でも見せかけだけではうまくいかないのです。(p219)

 すごく謙虚です。
 これは、仲間のチューレが敵を挑発したときにビッケが考えたことなのです。

 つまり、ビッケが謙虚なのは自分に自信がないからでも、自分を卑下しているからでなく、自衛なのです。しかも、こんなに小さな子どもなのに、様々なことを考えたうえで、自分で決めてそうしているんです。誰かに強制されたからとか、しつけられたからでもなく。

このビッケのかしこさ。

 一見、卑怯だとかこざかしいとか、臆病だとかいわれがちな「考える子ども」をこんなふうに描く、これがこの物語の魅力であり、テクノロジー社会に生きる現代の子どもたちに、いまこそビッケが必要な理由です。

 内省的なことや、慎重なこと、深く考えることは、一見とても弱く見えますし、臆病にも見えます。
 そして、「深く考えること」は瞬発力がないので、のろまにも見えます。

 けれども、「考える子ども」は、臆病でも愚鈍でもないのです。

 「深く考える子ども」には、他の子にはない良さがあります。
 受け入れる環境さえあれば、ビッケのように、その才能を花開かせることができるのです。

 フラーケ一族は、脳まで筋肉でできてるような脳筋一族ですが、それなのに「一族の異物」であるビッケのよさを否定しません。
 無理やり身体を鍛えさせてビッケから本を取り上げたり、彼の知恵や判断を適当に却下したりはせず、いつも、真剣にビッケの話をうけとめます。ばかにしないのです。これは、じつはなかなかすごいことです。小さなコミュニティで、「みんなとちがう子」に対して、こんなことができる人たちがそうそういるでしょうか。

 ビッケは、ばかにされないで育ったから、ビッケも他人をばかにしたり、騙して喜んだりしないのです。

 バイキングの族長の息子なのにもかかわらず、ひ弱で喧嘩が弱く、体力もなく、本ばかり読んでいる小さなビッケ。でも、そんなビッケを、フラーケのみんなは誰もばかにせず、全員でかわいがって育てました。それが、この脳筋一族の、たぐいまれなる美徳です。

 だからこそ、ビッケはたくさんの知恵を一族のみんなのために出すことが出来ました。そして、それは「みんなのために出す知恵」だからこそ、成功するのです。

 ビッケのとんちは、ひねりが効いているものも多いけれど、ビッケの物語そのものは正統派でまっすぐです。「知恵」をこんなふうに描くのって斬新ですよね。

 新しいように思えますが、じつは1970年代の本なんです。40年以上前の童話ですが、まったく色あせることがないし、今の子どもたちこそ、ビッケが必要な気さえします。

 字は大きくて読みやすく、短い物語のオムニバスなので、読み聞かせにもぴったりです。考えこみがちで、学校でも1人になりがちなお子さまに、ビッケはいかがでしょう。
 または、「どうして勉強しなければならないの」と本を読みたがらないお子さまにも、おすすめです。

 もちろん、ガッツが磨り切れそうなくらい頑張っている大人にも。
 臆病だっていいし、がんばりすぎなくていいんだと、肩の力を抜いてくれるお話でもあります。

 ビッケのお話は、あと三冊。今後もご紹介してゆく予定です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。楽しくゆかいなバイキング物語です。内向的で、今、学校などできつい思いをしているお子様には特におすすめです。疲れた大人にも、なごみやはげましをくれる物語です。

 ちなみに、営業職の方は、へたなビジネス書を読むよりビッケを読んだほうが役に立つと本気で思います。ビッケの営業手腕が毎回すごすぎます。

 読後には、北欧風のパンケーキとコケモモジャムでティータイムをどうぞ。

いつもありがとうございます

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