【小さなバイキングビッケ】今秋映画化!テレビアニメーションにもなった名作童話。闘わない小さなバイキングの物語【小学校中学年以上】

2024年2月13日

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小さなバイキングビッケ ルーネル・ヨンソン/作 エーヴェット・カールソン/絵 石渡利康/訳 評論社

ビッケはフラーケのバイキングの族長、ハルバルの息子です。でも、実はビッケは戦うのは大嫌い。小さなビッケは知恵を使って、ピンチを乗り切るのです。そして、最初はビッケをばかにしていた父さんたちも、だんだんビッケを認めるようになっていきます……

この本のイメージ とんち☆☆☆☆☆ アイディア☆☆☆☆☆ やさしい☆☆☆☆

小さなバイキングビッケ ルーネル・ヨンソン/作 エーヴェット・カールソン/絵 石渡利康/訳 評論社

 テレビアニメーションにもなった、名作児童文学。大人気少年漫画「ONE PIECE」の原点になった童話でもあり、どうやらこの秋にアニメーション映画化されるようです。

「小さなバイキングビッケ」のあらすじ

 ビッケは、フラーケのバイキングの族長、ハルバルの息子です。身体は小さく、腕力はなく、けんかをしたらからっきし弱い。けれど、ビッケは知恵を使って数々の危機を乗り越えます。

 そんなビッケのことをハルバルは、「卑怯だ」「男らしくない」と、バイキングの息子として行く末を真剣に心配し、父心で鍛えてやらねばならないと思っていました。母親のイルバは逆で、ビッケのことをかなり頼りにしていたんですけどね。

 ハルバルの命令で、小さなビッケはバイキングのみんなと船に乗って航海の旅に出ることになります。
荒々しいバイキングたちは、敵に騙されて捕まったりと、散々な目に遭いますが、ビッケが知恵を使って危機を乗り越えます。そして、略奪なんてしなくても、見事な交渉で金銀財宝を手に入れます。(ココ重要)

スウェーデンからやってきた風変わりなバイキング物語

 これは、いっぷう変わった、「闘わないバイキング」の物語です。

 スウェーデンは良質な児童文学の多い国です。「ニルスのふしぎな旅」とか、「長ぐつ下のピッピ」のリンドグレーンとか、この「小さなバイキングビッケ」もスウェーデンからやってきた物語です。
冬が長いので、子どもたちが本を読んだり物語を楽しんだりする時間が長いからでしょうか。

 この「小さなバイキングビッケ」がアニメ化されたとき、ドイツの放送局が発注、制作は日本のアニメーション会社というつくりでした。なので、キャラクターデザインがかなり癖があったと記憶しています。

 日本のアニメにありがちな、目が大きくて、ほっぺがあかくて…みたいな子じゃないんですよね。でも、仕草や動きでかわいく見えました。とても面白くて、今でもファンが多いと思います。

 何年か前にドイツで実写映画化されたこともあります。かなり顔がアニメに寄せてありますね。あの、鼻をこするシーンも健在です。

名作童話の底力

 昔の名作児童文学って、風雪に耐えて残ってきただけあって、うんうんとうなずいたり、元気付けられたりすることが多いのです。

 アニメーション化されたり、映画化されたりすることもありますが、映像作品より原作のほうがよかったりすることは多いので、話題になった児童文学の原作はぜひお手にとっていただきたいです。

 ビッケは、ケンカは弱く真正面から剣や腕力で戦ったら絶対に負けます。だから、いつも知恵を使って乗り切りますが、それを父親のハルバルは「情けないことだ」と思っています。

 「男なんだから正々堂々と闘うべきだ、ビッケは小ざかしいし卑怯だ」と思っているんですね。でも、イルバ母さんは、その「男らしい」ハルバルが、片目や耳を失っているのはその「男らしい戦い」のせいだと知っているし、ビッケがいるから家が支えられていると言ってビッケの味方です。

 そして、父さんたちと航海に出たビッケは、その知恵で何度も仲間たちの危機を救い、闘わないでも、闘った時よりずっと多くの財宝を手に入れ、無事に戻ってきます。

 でも、ビッケは頭がいいとは言ってもなんでもわかるわけではありません。頭を使うときも「しめしめ」って感じじゃない。お父さんや仲間たちが死ぬかもしれないから必死なんです。

 著者は、人間は頭を使うときだって、身体を使うときと同じくらい努力しているし、絶対の自信があってやってるわけじゃない、一生懸命なんだ、ってことを書いてくれています。

 これって、とっても大事なことだと思うのです。

古い誤解に、のほほんとビッケは立ち向かう

 わりと意味が取り違えられてる童話ってありますよね。アリとキリギリスとか、ウサギとカメとか。


 アリとキリギリスって、原作はキリギリスが死ぬ話じゃないんです。冬に倒れて死にそうなキリギリスが、アリの家の前でバイオリンをひくと、アリが「ブラボー」といって扉をあけて家に入れてくれ、助けてくれる。
 そして、寒い冬はアリの蓄えとキリギリスのすばらしい音楽で、お互い楽しく暮らしました、というのが正しいお話で、「人間には労働と芸術の両方が必要なんだ」と言う教訓だったんです。ところが、いつのまにかキリギリスが行き倒れになる展開になってしまったわけ。

 たぶん、どこかで「キリギリスが助かるのはおかしい」と考えた人がいて、書き換えてしまったんでしょうね。日本らしいといえばらしいです。

 また、ウサギとカメの話の教訓は「油断大敵」なのですが、いつのまにかコツコツ頑張っていれば亀でもウサギに勝てるという話に摩り替わっている感じがします。

 「コツコツと努力して正々堂々と真正面から闘ったら勝てるんだ」と言う教訓が主流の国で生きてきた人間には、「小さなバイキングビッケ」は、かなりびっくりな童話に感じられると思いますが、このお話はとくに新しい話でもなく、1963年に初版の、古典と言われてもいいくらいの物語なんです。

今だからこそ、「ビッケ」を読んで

 ビッケとハルバルが、石を運ぶ勝負をするエピソードがあります。
ハルバルはまず大きな石を運び、それからだんだんと小さな石を運びます。これ、頭を使っていないわけではないですよね。体力のあるうちに大きな石を運び、疲れてきたら小さな石を運ぶ。ハルバルだってばかじゃないことがわかります。

 ビッケは、最初は寝転んで何もしていないように見えます。のいちごとか食べたりして、遊んでいるように見えるんです。でも、このとき、ビッケは考えてるんですね。どうすれば体力の劣る自分が、あのたくさんの石を遠くまで運べるか。
頭の中は猛烈に仕事をしてるんです。

 そして、ビッケは投石器を作ることを思いつき、自宅の頑丈な扉を使って猛スピードで組み立てます。(ありものの材料でリメイクするところもすごい)あとは、それを使ってびゅんびゅん投げるだけ。

 途中経過ではハルバル父さんが勝っていたけど、途中で逆転してしまいます。

 これはとても象徴的な話です。
 知りあいのプログラマーから聞いた話ですが、ソフトウエア開発で一番大切なのは「設計」だそうです。「どんなふうな仕組みにするか」を考える時間が一番必要で、そこが一番大事なんだそう。(まあ、家だってそうですよね)

 それがきっちり決まれば、あとは迷わずに開発していけばいいだけだからです。

 たとえば、同じ「小さなシステム」をつくる場合も、将来的にも「小さいまま」なのか、「将来的にはとても大きなシステムに拡張する予定なのか」で、設計がまったくちがってしまうのだそう。確かに、1坪の土地に100坪のビルは建ちません。そこで、将来は100坪のビルが建てられるように設計して1坪の小屋を立てる必要があるのです。

 ところが、設計があいまいなまま、まず手をつけてしまうと、建て増しを繰り返した老朽旅館か、今は亡き九龍城みたいになってしまう。そうなってしまうと、トラブルが出たときの対処も難しくなります。

知恵と勇気をやさしく使うビッケ

 「ビッケ」は、50年以上前に作られた童話ですが、ほのぼのストーリーと見せかけて、かなり本質をついている物語です。

 ビッケは、知恵と勇気を自分のためだけには使いません。いつも、考えに考え、考え抜くのは、大切な家族と仲間たちのため、フラーケ一族のためです。

 むやみに闘わない、そして、知恵を自分だけのために使わない。

 時代を超えた、普遍のテーマが「ビッケ」にはあります。

 かわいくて、とんちが効いてて、読めばクスッとしてしまうお話ですが、大切なことがギュッと詰まっています。小学校中学年以上向けですが、かしこい子なら低学年からでも。

 小さな物語のオムニバスなので、小さい子の読み聞かせにもおすすめです。もちろん、疲れた大人にも、癒しや励ましをくれると思います。

 子どもが1人で、大人が1人で、そして親子二人で。それだけでなく、お年寄りへのプレゼントにも最適です。きっとなつかしく楽しんでくれるでしょう。

 今は、家で過ごすことが多いとき。こんなときは、ほのぼの読書がいちばんです。
 力がなく、まともにぶつかっても解決できない問題でも、一生懸命考えて考え抜けば、それぞれがそれぞれなりの、解決方法がきっと見つかるはず。

 そんな気持ちにさせてくれる、物語です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 暴力シーンや流血シーンなど、ネガティブな要素はいっさいありません。ほのぼのとして、とんちが効いている、かわいらしい冒険物語です。

 ビッケがかしこく、やさしく、かわいらしいです。「どうして勉強しなければならないの?」と聞くお子さまに、「ビッケみたいになるためよ」と答えてあげられる、そんな物語です。
 疲れた大人にもおすすめです。休日の午後にハーブティをお供にぜひどうぞ。

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