【せかいいちしあわせなクマのぬいぐるみ】クリスマスにぴったりの絵本!クマのぬいぐるみの数奇な運命【4歳 5歳 6歳】
今から60年前のこと、メアリー・ローズという女の子が、おこずかいを貯めてクマのぬいぐるみを買いました。彼女がクマに「ウーウー」と名づけると、お母さんは足に頭文字をししゅうしてくれ、メアリー・ローズはどこへ行くにも一緒に行きました。ところが、彼女はある日、ウーウーを電車に置き忘れてしまったのです!
この本のイメージ かわいい☆☆☆☆☆ あきらめない☆☆☆☆☆ 願いは叶う☆☆☆☆☆
せかいいちしあわせなクマのぬいぐるみ サム・マクブラットニイ/文 サム・アッシャー/絵 吉上恭太/訳 徳間書店
<サム・マクブラットニィ>
1943年、北アイルランドに生まれる。教師をしていた30代のころから子どもの本を書きはじめ、現在は執筆に専念。
<サム・アッシャー>
イギリスで活躍するイラストレーター。初めての絵本『Can You See Sassoon』はウォーターストーン図書賞、子どもが投票するレッドハウス児童図書賞にノミネートされた。邦訳された絵本に『あめのひ』『かぜのひ』(徳間書店)がある。
<吉上恭太>
1957年東京に生まれる。週刊誌・児童書の編集者を経て、翻訳、編集、小説の執筆など、幅広い分野で活躍。訳書に『デイジーのこまっちゃうまいにち』『ちゃんとたべなさい』(以上、小峰書店)、『ひとりぼっちのかいぶつといしのうさぎ』『かしこいさかなはかんがえた』『くまくんと6ぴきのしろいねずみ』『テッドがおばあちゃんを見つけた夜』(以上、徳間書店)など。(以上 本より引用)
ラストシーンがクリスマスなので、クリスマスプレゼントにぴったりの絵本です。
あるところに、メアリー・ローズと言う女の子がいて、おこずかいをこつこつ貯めて、クマのぬいぐるみを買いました。おなかを押すとウーウーと音がするので、「ウーウー」と名づけました。
お母さんは、クマの「ク」と言う文字と、ウーウーの「ウ」と言う文字を、ウーウーの足に刺繍してくれました。
メアリー・ローズは、ウーウーをどこへ行くにも連れて行くくらいかわいがっていましたが、ある日、電車の中に置き忘れてしまったのです!
そして、ウーウーの運命の流転が始まります。駅の忘れ物置き場から、様々な持ち主を転々とするウーウー。
様々な持ち主の幸せを見守りながら、ウーウーはだんだん古ぼけてぼろぼろになってゆきます。たどりついた「おもちゃ病院」のおじさんが、ウーウーを綺麗になおしてくれ、そして……
というのがあらすじ。
「ポケットのなかのジェーン」もそうでしたが、人形は自力で移動することが出来ません。ですから、意に染まない運命が襲い掛かってきたとき、人形たちができることは、「耐えること」と「祈ること」です。
西洋のお話には、この「祈ること」を重視した物語が数多くあります。これはキリスト教の影響でしょう。
「祈ること」は現代の日本では軽視しがちで、「心の中で願っているひまがあったら行動しよう」と言うのが一般的です。
それはそれで大切なことなのですが、では、人生に身動きもできないようなにっちもさっちもゆかない事態がないか、と言うと、世の中にはわりとあります。
学校でつらいことがあっても、すぐに転校できる子はまれでしょう。病気や怪我もすぐには治りませんし、親の勤めている会社がうまくゆかないなど、世の中には子どもどころか大人であっても、今日明日にはどうしようもないことはたくさんあります。
そんなとき、事態を受け入れて最善を尽くすとき、支えてくれるのは、未来に希望を抱くことや祈ること。
クマのウーウーは自分では何も出来ません。買ってくれたメアリー・ローズと楽しく遊び、そして、彼女とはぐれてからは、新しい持ち主とその時その時、せいいっぱい幸せに過ごす……そして、何度も暗い倉庫や、棚の上に追いやられます。
でも、最終的にウーウーは、せかいいちしあわせなクマになりました。
もしかしたら、これを読んで
「ウーウーは何もしてないじゃないか!」と、不満に思う方もいるかもしれません。「努力もしないで、せかいいち幸せになるなんておかしい」って。
でも、そうでしょうか。
ウーウーは一度も人間をうらんだり憎んだりしていません。たとえ、腕がもげて棚の上で自分の運命に絶望したり、悲観したりしているときでも、「ぬいぐるみなんかに生まれてくるんじゃなかった」、とか「子どもなんて大嫌いだ」とかは思っていません。
むしろ、綺麗に修繕されて、大人しか入らないアンティークショップに飾られたとき、「こんなところでは子どもに買ってもらえない」とがっかりするくらいだったのです。
様々な子どもたちがウーウーの持ち主になりましたが、ウーウーは彼らが大きくなってウーウーを必要としなくなるまで、楽しそうに、いつも一緒にいました。やさしい目で子どもの成長を見守るウーウーは、人間が、子どもがだいすきなのです。
ウーウーが「せかいいちしあわせなクマ」になれたのは、子どもたちに寄り添い、愛を与え続けたからではないでしょうか。「こんなやつは、メアリー・ローズじゃない」「こんなところにいるのは嫌だ」とうらむことなく、ぬいぐるみのクマの使命━子どもたちを幸せにすること━を、どこにいても忘れなかったから、運命はウーウーを幸せなおうちに連れていってくれたのだと、わたしは思います。
使命、と言うとおおげさかもしれませんが、でも、どんな人にも、ちょっぴりした小さな小さな大切な何かがあると思います。ポリシー、とか信念と言う人もいるかもしれません。でも、言葉にしてしまうと、どれも少しおおげさです。
大切な人においしいご飯を食べさせたい、困っている人に道案内をしたい、綺麗な花を咲かせて和んでもらいたい、他人をはげまして元気になってもらいたい、わからないことを教えて不便をなくしてもらいたい、などなど……
人には「自分はこれをやる」みたいなことがあるものです。それが、すごくささいなものでもです。
「ツバメ号とアマゾン号」のスーザンが「お母さんのいないときは、クルー全員に三度の食事とお茶をさせる」と心に決めているように、ポリアンナが「つらいときは喜びのゲームをしよう」と決めているように。
ささいなことでも、「自分はこれをする」と思っているものがあると困難を乗り越えられます。
ウーウーは、自分が「子どものためのクマのぬいぐるみ」であると言う、アイディンティティ━自分が自分であるという心の土台のようなもの━を決して捨てませんでした。もちろん、この不動の信念は、人間でなかったからこそ保つことができたのかもしれません。人生には、それすら難しいときがあります。
けれど、自力で動き回ることができないぬいぐるみが、いちばん幸せな場所にたどり着く、唯一の方法だった気がするのです。
長々と小難しい感想を書いてしまいましたが、これは今、話題になっている「自己肯定感」に通じるものだと思います。
ウーウーは、自分が「子どものためのクマのぬいぐるみ」であることを常に肯定し続けることができたから、数奇な運命を乗り越えられたように思えるのです。
同じ作者の「パパとママのたからもの」がダイレクトに「自己肯定感」をテーマにしているのですが、この本は「パパとママのたからもの」を一歩進めて、自己肯定感によって人生の荒波を超えてゆくすがたを描いているように思います。
「パパとママのたからもの」とあわせて、おすすめの絵本です。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
いい絵本です。とくに現在、辛い思いをがまんしているお子様におすすめの絵本です。大人のなごみ絵本としても、また、ぬいぐるまーの癒しとしてもいいのですが、やはりこれは子ども向けでしょう。どうぞ、読み聞かせしてあげてください。
クリスマスのシーンでハッピーエンドをむかえるので、クリスマスプレゼントにぴったりです。
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