【クローバーと魔法動物】新しい仲間との友情。わくわくの魔法動物ファンタジー【ライバルは夏の終わりに】【小学校中学年以上】

2024年3月21日

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クローバーと魔法動物 3  ライバルは夏の終わりに  ケイリー・ジョージ/作 久保陽子/訳 スカイエマ/絵 童心社


魔法紹介所に新しい仲間がやってきました。物知りの魔法使いオリバーです。ただの人間の女の子クローバーは、自分の居場所がなくなる気がして不安でいっぱい。そんなある日、魔法動物たちの体調に異変が起きて……

この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ 魔法動物☆☆☆☆☆ 対立と友情☆☆☆☆☆

クローバーと魔法動物 3  ライバルは夏の終わりに  ケイリー・ジョージ/作 久保陽子/訳 スカイエマ/絵 童心社

<ケイリー・ジョージ>
カナダの児童文学作家。ブリティッシュ・コロンビア大学で児童文学の修士号を取得。絵本や読み物を数多く手がけている。邦訳は「ハートウッドホテル」シリーズ(童心社)がある。本書はカナダで高い評価を受けており、第1巻はOLA Best Bets Award Winner, 2016を受賞し、ドイツ、ルーマニア、イスラエル、中国で翻訳出版されている。

<久保陽子>
鹿児島県生まれ。東京大学文学部英文科卒業。出版社で児童書編集者として勤務ののち、翻訳者になる。訳書に「ハートウッドホテル」シリーズ(童心社)「カーネーション・デイ」(ほるぷ出版)「ぼくってかわいそう!」「明日のランチはきみと」「うちゅうじんはいない?」(いずれもフレーベル館)「わたしのペットはまんまるいし」(ポプラ社)などがある。

<スカイエマ>
東京都生まれ。児童書・一般書の装画や挿絵など幅広く手がけている。第46回講談社出版文化賞さしえ賞を受賞。おもな作品に「ぼくがバイオリンを弾く理由」「幻狼神異記」シリーズ「忍剣花百姫伝」シリーズ(いずれもポプラ社)「林業少年」(新日本出版社)「アサギをよぶ声」シリーズ(偕成社)「ぼくらの原っぱ森」(フレーベル館)などがある。

 不思議な魔法動物紹介所で働き始めた人間の女の子、クローバーの冒険を描いた「クローバーと魔法動物」の第三巻。原題は、The Magical Animal Adoption Agency: The Missing Magic.初版は2016年。日本での初版は2021年です。

 お話は、第1巻「運のわるい女の子」から完全に続いているので、まずは第1巻からお読みください。

第1巻のレビューはこちら

 夏休みに「魔法動物紹介所」で働き始め、仕事にも慣れてきたクローバー。この「魔法動物紹介所」とは、飼い主のいない魔法動物(サラマンダーやペガサスなど)に里親を見つけてあげる施設です。

 ふつうの人間の女の子クローバーは、動物が大好きだったので、この仕事が大好き。魔法動物たちもクローバーになついていて、どうやらこの仕事に向いているようです。

 そこへ、新しい仲間がやってきました。それは、魔法使いのオリバー。彼は物知りで魔法動物に詳しく、クローバーとさほど年齢が違わないのに、もう本を何冊も出版しています。

 所長のジャムズさんとずっと二人でやってゆくのだと信じていたクローバーは、新しい所員にびっくり。しかも、オリバーは紹介所で暮らすと言うのです!

 クローバーの心は不安でいっぱいになりました。

 そんなとき、またしてもジャムズさんにお留守番を言い渡されます。ところが、ジャムズさんの留守中に魔法動物たちの身体に異変が起きて……

 ……と、いうのがあらすじ。

 この「クローバーと魔法生物」、毎回はっきりとしたテーマがあるようです。 第1巻のテーマは「運とは何か?」第2巻のテーマは「才能とは何か?」そして、第3巻のテーマは「自分のよさを信じよう」。つまり、今話題の自己肯定感です。

 もともと、自分のことを「運が悪い子」だと信じていたクローバーは、自信がない子でした。そんな自分に自信のない、ただのふつうの人間の女の子のクローバーが、ジャムズさんに信用されて魔法動物紹介所で働くようになります。

 魔法の力がなくても自分にはこの仕事ができるんだ、といわば「才能より努力」で頑張ってきたクローバーですが、魔法使いのオリバーがやってきたことで、せっかく築いた自信も揺らいでしまいます。だって、オリバーは紹介所に部屋をもらって住むことになったからです。

 モヤモヤしてしまうクローバーですが、ジャムズさんの留守中の大事件を経て、モヤモヤを乗り越え、オリバーとも親友になれたのでした。

 優秀な魔法使いで、何冊も著書があるくらい有名だけど現場力には乏しいオリバーが登場したとき、だいたいのストーリーは予想できました。
 しかし、読んでみたら安易な予想を超えて、素敵でかわいいお話でした。オリバーが、ただクローバーにぎゃふんと言わされるだけの、お高く止まった記号的な悪役ではないところが好きです。

 まったくの個人的な好みですが、お高くとまった悪役が登場して偉そうにふるまい、それを主人公がぎゃふんと言わせ、反省させてからお友達になる、みたいな安易な展開が苦手なので、こういう「どちらの気持ちもわかるなあ」と思わせる展開にはほっとしました。(勧善懲悪が読みたい時もあるんですけどね)

 知識で防衛してしまうオリバーも、自分の居場所を取られてしまう不安で固くなってしまうクローバーも、どちらの事情も丁寧に描かれており、どちらにも共感できます。しかも、オリバーが魔法を使うのは自分が楽をして怠けるためではなくて、彼なりのポリシーでちゃんと努力家なのがポイント高い。

 こういうのはさじ加減だと思いますし、こういうところに作者の好みが現れ、読者も好みで選ぶところなので、「うんと悪いヤツが出てきて容赦なくひどい目に遭う話」が好きな人もいれば、「誰も悪くなくて誤解が重なっているだけの話」が好きな人もいると思います。好みだけでなく、タイミングもあって、前者が読みたいときもあれば後者が読みたいときもあります。

 わたしの好みからすると、この「クローバーと魔法生物」のシリーズは、そんなさじ加減が絶妙。「おお、このお吸い物の塩加減、いいね!」って感じなのです。「困った人」はたくさん出てくるんですけど、ぎりぎりでそれが「かわいげ」や「魅力」になっているのです。今回のわたしのお気に入りは、人魚のお姫様。このけなげさと強気さの絶妙なバランス、すばらしい。

 文章は平易で読みやすく、簡単な漢字以外には振り仮名がふってありますので、小学校中学年から。

 映画「ファンタスティックビースト」シリーズや、幻想生物系ファンタジー、動物ものがお好きな方ならおすすめ。
 おとぎ話の動物たちがたくさん登場する夢いっぱいのファンタジーですが、子どもが成長期にぶつかる哲学的なテーマにも真正面から取り組んでおり、良質の児童小説です。

 お話は、3巻で完結ということになっていますが、いくらでも続きがつくれそうなお話なので、続編があるようならうれしい。
 この作品でケイリー・ジョージのファンになった方は、「ハートウッドホテル」もどうぞ。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネカディブな要素はありません。学校で、複雑な人間関係に対応する必要が生まれた頃の悩みに寄り添うシリーズです。内向的な女の子クローバーが一歩一歩成長してゆく様子にはげまされます。

 伝説の幻想生物が続々登場するので、魔法動物好きな人にはたまらないファンタジーです。

 読後は、オリバーのチキンヌードルスープ(もしかしてチキンラーメン?)が食べたくなるかも。そうでなければ、ジャムズさん大好物の、シナモントーストでティータイムを。

 

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