【14ひきのやまいも】秋のやまいも堀り!力をあわせて生きるやまねずみ大家族のロングセラー絵本【14ひきシリーズ】【3歳 4歳 5歳】
おとうさん、おかあさん、おじいさん、おばあさん、そして10匹のきょうだいたち。ぜんぶで14匹家族のやまねずみ大家族の日常を描いた絵本。今回は、秋、家族全員でやまいもを掘りに行くお話です。さて、大きなやまいもは掘れるかな?
この本のイメージ ほのぼの☆☆☆☆☆ かわいい☆☆☆☆☆ 森の秋☆☆☆☆☆
14ひきのやまいも いわむらかずお/作 童心社
<いわむら かずお>
日本の絵本作家。「14ひきのシリーズ」(童心社)や「こりすのシリーズ」(至光社)は国内だけでなく、フランス、ドイツ、台湾などでもロングセラーとなり、世界の子どもたちに親しまれている。
「14ひきのあさごはん」で絵本にっぽん賞、「14ひきのやまいも」などで小学館絵画賞、「ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ」(偕成社)でサンケイ児童出版文化賞、「かんがえるカエルくん」(福音館書店)で講談社出版文化賞絵本賞受賞。2014年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。1998 年4月栃木県馬頭町に「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開館。絵本・自然・子どもをテーマに活動を始めた。
いわむらかずお先生のかわいいやまねずみの物語、「14ひきの」シリーズ。「14ひきのやまいも」は1984年初版です。
「14ひき」は、おじいちゃん、おばあちゃん、おとうさん、おかあさんと、いっくん、にっくん、さっちゃん、よっちゃん、ごうくん、ろっくん、なっちゃん、はっくん、くんちゃん、とっくんの10匹きょうだい。
彼らは、森の大きな木のうろの家で暮らしています。
今回のお話は、秋、14ひきの家族たちがみんなでやまいもを掘りに行くお話。
立派なやまいものつるをみつけたおじいちゃん。ごうくん、はっくん、ろっくん、にっくん、なっちゃんが木に登って「むかご」を採ります。
おじいちゃん、おばあちゃん、おとうさん、おかあさんがおちばをどかしてやまいもを掘り始めました。子どもたちも手伝います。
やがて、大きな大きなやまいもが土の中から出てきます。つるで縛って、力を合わせて引っ張ります。土から出てきた大きなやまいも。今夜は、やまいもとむかごでごちそうです。
……と、いうのがあらすじ。
14ひきのシリーズは、細密な筆致で描かれた、森の自然と愛らしいねずみたちです。ねずみたちは、二足歩行で服を着たすがたで描かれていて、リアルというよりは少しだけキャラクター化されています。しかし、植物や虫などは、かなりリアルに描かれており、大自然の中で、自然と共存して暮らすやまねずみ大家族は、どこかなつかしい昔の日本の大家族を思わせるのです。
最近の小さなお子さまは、スーパーマーケットで売っているやまいもを見たことはあっても、それがどんなふうに森に生えているか、知らないのではないでしょうか。ましてや「むかご」を目にすることは無いと思います。
山で野生の植物を採取すると、そのときはじめて、食卓で完成した「おかず」としてしか出会うことのなかった食べ物たちの本来のすがたを知ることになります。畑を見るのも勉強になりますが、実際の植物は、あのように整然と同じ形で並んでいませんから、山や草原に行って体験することはとても貴重です。
いわむら先生の絵本は、ねずみやりすを、洋服を着て二足歩行しているかわいらしいキャラクターとして描きつつ、山や森、草原などの大自然を詳細に描写しており、それがしみじみとした情緒ある、ノスタルジックな魅力となっています。
いまではこんな大家族はめずらしいし、子どもを何人も育てるのは大変ですから、令和の子どもたちには想像がつかないことと思いますが、わたしたちの親世代のきょうだい人数は、七人八人はあたりまえでした。
戦争もありましたし、結核など当時特効薬のない病気が多かったので、たくさん生まれてもたくさん死んだのです。ですから、きょうだいが結婚しても同居することも多く、大きな家に、おじいさん、おばあさんと、おじさんおばさん、おとうさん、おかあさん、そして子どもたちが一緒に暮らしていました。
同じ家でおばさんやおじさんが住んでいると言うのは、今の核家族時代には想像できないかと思いますが、昔は大きな大きな家で親戚どうしが暮らし、赤ちゃんが生まれたら、母親だけでなく、祖母や義妹などが力をあわせて面倒をみたのです。きょうだいが結婚しても同居している家では、誰かが出産しても手の空いている誰かが育児を手伝うという体制ができていました。
そのときの風習に「乳兄弟」というのがあります。母親のお乳の出が悪いとき、そのとき子育てをしている人が授乳を助けてあげるのです。
わたしが子どもの頃は、まだこの「大家族主義」時代の名残があって、それぞれの家族が別々の家に暮らすようになっても、家は隣同士や近所だったりして、親族の行き来が多い時代でした。
今は「ワンオペ育児」などと言う言葉を耳にするようになりましたが、そんな超人的なことは最近の文化です。
昔の育児は、祖母、母親、長姉、叔母などが複数で行うのがあたりまえでした。そうでなければ、仕事をしながら、家事をしながら、子供の面倒を見ることは難しいのです。わたしの親世代は鍋でご飯を炊き、薪でお風呂を沸かし、桶と洗濯板で洗濯してましたから。(ちょうどわたしが生まれる少し前くらいの頃、冷蔵庫、洗濯機、炊飯器などが爆発的に普及しました)
わたしが幼い頃も、母は仕事で忙しく働いていましたが、祖母や遠縁のおば、近所のおばさんなど、手分けして面倒をみてもらった記憶があります。
確かに今は家電がハイテク化されたので、昔に比べたらお洗濯やお料理もかなり楽になりました。冷たい食品を電子レンジで一瞬で加熱できたり、全自動洗濯機に洗濯物をおまかせできたりと、夢のようです。昔の洗濯機って二層式で、つきっきりにならないといけなかったですからね。
とはいえ、それでも、なにをしでかすかわからない乳幼児の世話は、一人で行うのはきついのではないでしょうか。
「14ひき」シリーズは、古き良き大家族時代の雰囲気を感じることができる絵本です。
食べ物を採りに行くのも、お料理をするのも、みんなで力をあわせて行います。すばしこい子どもたちが木に上ってむかごを採りにゆけば、大人たちは土を掘ってやまいもを掘り出します。
食べ物を運ぶのも、お料理するのも、みんなで一緒にやります。おじいちゃんやおとうさんも包丁を持って食材を切り、火をおこしてスープを作ります。
お母さんひとりが切りきり舞をして、子どもたちやお父さんたちに食事をさせるわけではなく、みんなで手分けしてがんばる大家族です。
若い方で「昔はお母さんがひとりで全部の家事をやった」と誤解をしている方がわりと多いのですが、そんなことないんですよ。
確かに男性が家事をやることはありませんでしたが、そのかわりに、おばあさんやおばさん、お姉ちゃんや従姉妹など、みんなで手分けして家事をしたのです。家が分かれている場合は、手伝いに行ったり、おかずを分けたりして暮らしていました。「お母さんがひとりで何もかもやる」と言う文化のほうが最近のものなのです。
14ひきのやまねずみたちの昔懐かしい暮らしから、大家族時代の日本の香りを感じてみてください。しかも、彼らはおじいちゃんおお父さんたちもお料理をするので、理想的な大家族です。
子供が読むと、見慣れない山の植物や虫たち、大勢の家族で山に芋ほりにゆくやまねずみたちのようすに好奇心を刺激されるでしょうし、大人が読むとなんとも言えない懐かしさに癒されます。
字はすべてひらがなとカタカナ。見開きに一行しかないので、ほとんどが絵の絵本です。字をおぼえたての小さなお子さまに。また、大自然の植物、虫などが深い愛情をこめて詳細に描かれています。植物や虫が好きなお子さまにもおすすめです。
この本の表紙裏、裏表紙裏には、くり、せんぶり、おとこようぞめ、われもこう、ちごゆり、やまいものむかご、がまずみ、くりたけ、りんどう、ならたけ、しらやまぎくなど、山の植物たちが描かれていて、お話の中に登場する植物たちの解説になっています。
自然の美しさと、大家族のあたたかさが伝わる、「14ひきのやまいも」。
読んだら、ハイキングに行きたくなる絵本です。秋の読み聞かせにぴったり。大人の和み本としてもおすすめです。
大家族ストーリーなので、お子さまの性別を選びません。男の子でも女の子でも楽しめます。
この季節、絵本で癒されたいなら、ぜひどうぞ。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。力をあわせてやまいもを掘るやまねずみたちに、ほっこりした気持ちになります。植物の描写が詳細なので、植物図鑑を読んで答え合わせをするのもいいかも。
読後は、とろろごはんが食べたくなりますので、ご用意を。
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