【ゲド戦記】18年の沈黙を破って生み出された続編。不朽の名作ファンタジー第4巻。【帰還】【中学生以上】

2024年4月10日

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ゲド戦記 4 帰還 アーシュラ・K・ル=グウィン/作 清水真砂子/訳 岩波少年文庫

ゴント島でごく普通の未亡人として一人暮らすテナーは、大やけどを負った少女テルーを引き取ることになる。やがてオジオンに呼び出され彼の最期を看取ったあと、魔力を失ったゲドと再会を果たすが……

この本のイメージ 細密な世界観☆☆☆☆☆ 魔法☆☆☆☆☆ 哲学☆☆☆☆☆

ゲド戦記 4 帰還 アーシュラ・K・ル=グウィン/作 清水真砂子/訳 岩波少年文庫

<アーシュラ・K・ル=グウィン>
アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula Kroeber Le Guin、1929年10月21日~2018年1月22日)は、アメリカの小説家でSF作家、ファンタジー作家。「ル・グィン」、「ル=グイン」とも表記される。代表作は「闇の左手」「ゲド戦記」のシリーズ。「西の善き魔女」の異名もある。

 ゲド戦記の原題は、Earth Sea. 3巻のタイトルは、Tehanu, The Last Book of Earthsea.原書の初版は1990年、日本語版初版は1993年です。岩波少年文庫版が2009年です。

 かつて「ゲド戦記」は「ナルニア国ものがたり」「指輪物語」とともに世界三大ファンタジーと呼ばれていました。
 どれも細密な世界観で異世界の歴史が語られる、深い物語です。これらの物語が書かれた時代には、異世界を舞台にしたクロニクルものはたいへん珍しく、多くの作家に影響を与えました。

 お話が完全に続いているので、興味を持たれた方は、まずは第1巻「影との戦い」からお読みください。第1巻のレビューはこちら

 ストーリーは……

 かつて「アチュアンの大巫女」として墓所に軟禁されゲドに救出されたテナーは、ゴント島でごくふつうの結婚をし現在は未亡人として一人暮らしをしていた。

 ある日、テナーは旅の男たちに虐待され焚き火に投げ込まれた少女を助け、引き取って育てることにする。大やけどを負った少女の名はテルー。

 賢人オジオンの死の際に呼びされテルーとともにオジオンのもとに赴き、彼を看取ったテナーはやがて魔力を使い果たしたゲドと再会する。

 奇妙な共同生活を始めるテナー、テルー、ゲド。

 しかし、三人はやがて領主の館をめぐる陰謀に巻き込まれ……

 ……と、言うのがあらすじ。

 立ち上がりは説明が多く、少し読みにくいのですが、領主の魔法使いの陰謀が明らかになってきたあたりから展開がスピードアップしてきます。三巻の主人公レバンネンも登場し、大ピンチのときに助けてくれるのもうれしい。

 3巻までで確立されていた「アースシーの世界」は、いったん崩壊し再構築されたことで新しい形へと変貌しようとしていたようです。

 この第4巻では、アースシーを支えていた魔法の理がゆっくりと変化してゆく様子とテナーの心の成長を描いています。「帰還」は、テナーの自己実現、自分探しの物語でもあります。

 かつて大賢人の地位まで登り詰め、最強の魔法使いでありながら世界を救うためにすべての魔力を使い果たしただの初老の男になったゲド、かつての大巫女でありながら平凡な結婚をし未亡人になったテナー、そして顔を含め身体の左半分に大きなやけどを負ったテルー。

 三人は家族のような共同生活を始めます。

 長く一人暮らしだったオジオンやゲドはテナーと同じように家事をし、オジオンは男だけが学ぶとれた神聖文字をテナーに教えたりもしました。幼いころはオジオンの教育に反発していたテナーは、歳をとってからその意味を考えるようになります。

 テナーが息子のヒバナとの再会のさい、彼が食べ終わった食事の皿を流しに持って行くこともしないのを見て「(子育てを)失敗した」と言う場面は、令和の今なら多くの女性の共感を呼ぶと思いますが、出版された1990年頃(30年以上前)にはかなり新しい考え方でした。

 「(一人になれば)彼だって変わるよ」と言うゲドに「すぐにも誰かつまらない女を見つけてきてやらせるでしょうよ。ああ、嫌だ。二十年もみがきつづけたテーブルをそんな女に置いてくなんて。ちゃんとわかってくれる人ならいいけど。」(引用p366)と答えるテナー。

 ヒバナだって長く男ばかりの船で働いていたのだから船では洗い物の手伝いだってやらされていたはず。でも、実家に帰ったら「それは女の仕事」と言ってやるつもりはない、そういうところはすごくリアル。

 自分の知識をテナーに継承させたかったオジオン、農園と家を信頼できる人に遺したかったテナー、後継者が見つからないロークと、この物語では繰り返し「老い」と「継承」の問題が描かれます。そして、新しい時代の継承には今までどおりでは駄目だということも。

 令和の今あらためて読み、テルーがなぜ顔にやけどを負った少女なのか、なぜテナーは平凡な結婚をしたあと再び学びに興味を持ったのか、なぜゲドはすべての魔力を失っても竜とは会話できるのかなど、ようやく自分なりの解釈ができるようになってきました。何度読んでも新しい発見がある物語です。

 文章はかなりボリュームがあり、難しい漢字にしか振り仮名がありませんので中学生から。独特の固有名詞が多いので異世界ものに慣れていない方は、メモを取りながら読むといいでしょう。

 非常に緻密な世界観なので、異世界の雰囲気を楽しみたい方、魔法ものが好きな方、ひとつの物語を何度も考察して読み返したい方におすすめです。

 このシリーズもあと二巻。最後まで楽しみたいと思います。

※この本には電子書籍もあります。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 テルー救出のあたりはかなり凄惨なシーンがありますが、気をつけて書かれています。4巻は女性の自己実現の話でもあります。

 非常に哲学的な物語なので、HSPHSCのほうが、多くのメッセージを受け取れるでしょう。

 

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