【ゲド戦記】アーシュラ・K・ル=グウィンの不朽の名作。深く細密なファンタジー【影との戦い】【中学生以上】

2024年3月16日

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ゲド戦記 Ⅰ 影との戦い アーシュラ・K・ル=グウィン/作 清水真砂子/訳 岩波少年文庫

この世で最初の言葉を話したセゴイによって海中から持ち上げられ創られたと伝えられる、太古の言葉が魔力を発揮する多島海(アーキペラゴ)、アースシーのゴント島にダニーと言う少年が生まれた。彼は、のちに魔法使いに引き取られ、ゲドと言う名を授けられる……

この本のイメージ 細密な世界観☆☆☆☆☆ 魔法☆☆☆☆☆ 哲学☆☆☆☆☆

ゲド戦記 Ⅰ 影との戦い アーシュラ・K・ル=グウィン/作 清水真砂子/訳 岩波少年文庫

<アーシュラ・K・ル=グウィン>
アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula Kroeber Le Guin、1929年10月21日~2018年1月22日)は、アメリカの小説家でSF作家、ファンタジー作家。「ル・グィン」、「ル=グイン」とも表記される。代表作は「闇の左手」「ゲド戦記」のシリーズ。「西の善き魔女」の異名もある。

 世界三大ファンタジーのひとつと言われている「ゲド戦記」です。(残りのふたつは「指輪物語」と「ナルニア国ものがたり」)

 原題は Earthsea :A Wizard of Earthsea.原書初版は1968年。日本語版初版は1976年です。
 当初は児童文学の装丁で出版されたため、ファンタジー愛好家やSFファンが気づくのが遅れ、しばらくしてから話題になりました。

 若いときに一度読んだのですが、細かいところをかなり忘れてしまっていて、新鮮な気持ちで読むことが出来ました。

 お話は……

 アースシーと言う海の上に島々が浮かぶ世界。北海域ゴント島に、ダニーと言うひとりの少年がいました。
 貧しい鍛冶屋の息子でしたが、親戚の叔母がまじない師で、まじないを教えてもらっているうちに様々な力を身につけました。

 あるとき、カルガド王国が村に侵攻し、あわや村が全滅になるかと思われたとき、幼いダニーが霧を作り出し、村を救いました。

 その能力を聞きつけ、魔法使いオジオンが彼を引き取り、「ゲド」と言う真の名を与えます。

 その後、ゲドは表向きは通称のハイタカを名乗り、オジオンのもとを離れ、ローク島の「学院」に魔法使いになるべく入学しました。

 ハイタカは優秀な学生でしたが、学院内の学生同士のいざこざから、危険な呪文を使い「影」を呼び出してしまいます。

 その日からハイタカと「影」との戦いが始まりました……

 というのがあらすじ。

 すべてのものに「真の名」があり、「魔法使い」は「学位」で大学で専門に学ぶもの、と言う世界観は、当時斬新で、衝撃的でした。

 また、「魔法使い」が「学位」であり、魔法は「学院」で学び習得する、という設定は、その後のファンタジーに多大な影響を与え、「クレストマンシー」シリーズや「ハリー・ポッター」など、多くの「魔法使いもの」を生み出しました。「ルイスと不思議の時計」の魔女、フローレンス・ツィマーマン夫人も大学で学位をとった魔女という設定です。

 「トニーノの歌う魔法」で梨の木を呼び出す魔法は、「影の戦い」でヒスイが黄金のりんごの木を呼び出すシーンを彷彿とさせます。また、ホグワーツ魔法学院の食堂は、ローク島「学院」のどれだけ人が座ってもひろびろと使える食堂のテーブルを思い出させます。

 貧しい家で育ったハイタカは、気性が荒く癇癪もちで、力に対する欲求が強い少年でした。彼は、魔法の才能は高かったのですが、同級生のヒスイとの意地の張り合いから、禁じられた呪文を唱えてしまいます。

 そのため、危険な「影」を呼び出してしまい、その後は影と戦う人生をおくることになりました。その旅の途中で、人を助けたり竜を倒したり、様々な経験をして成長します。

 この世界のものすべてには、隠された「真の名」があり、その名を知ることでそれを支配できる、と言うのがアースシーの魔法の概念です。
 かなり東洋的で、中国にも日本にも昔はそのような思想があり、本名ではなくあだ名で呼び合っていた時代がありました。

 少年ダニーに「ゲド」と言う「真の名」を与えたのはオジオンで、真の名は他人に知られてはいけないため、その後彼は「ハイタカ」と言う表向きの名前で生活することになります。

 このハイタカという和訳の名前がかっこよくて、愛された理由でもあると思います。原書ではSparrowhawk.ずいぶん印象が違います。

 若いときは魔法使いの設定の斬新さと細密に作りこまれた世界観に圧倒されながら読んでいたのですが、今読み返すと、また違った、新しい発見があります。

 ハイタカは、学院なんか行かずにオジオンのもとにいたほうが、おそらくは魔法の上達においてずっと近道だったのだろうなと、今読むと思います。

 技の習得に貪欲なハイタカでしたが、オジオンは、彼にとっていちばん大切なことを最初に教えようとしていました。

 ハイタカは何度も失敗しますが、賢人たちがハイタカに過剰な懲罰を与えないところが、この作品の特徴的なところだと思います。ハイタカを懲らしめるのは「魔法の力」そのものであり、老賢人たちはそれを承知した上で、あくまで優しくハイタカの面倒をみてくれるのでした。

 そして、最終的にはハイタカ自身もそういう存在へと成長してゆきます。

 非常に東洋的な考えが根底に流れる物語です。

 日本ではもともと、児童文学として出版された物語ですが、作品の内容がかなり高度で難解なので、読むなら中学生以上から。世界の創り込みが深いので、異世界に浸りたい人におすすめです。
 また、とても哲学的なテーマもひそんでいます。

 ファンタジーが好きな方で、未読の方はぜひ。
 様々な物語の「原点」となった名作です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 兵士が村に侵攻するシーンなど、戦いのシーンはありますが、残酷シーンや流血シーンはあまりありません。テーマが深く、HSPHSCの方のほうが多くのメッセージを受け取れると思います。
 静かな部屋で、ひとりになれるときに、じっくりお読みください。

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