【ゲド戦記】アーシュラ・K・ル=グウィンの不朽の名作ファンタジー第2巻。【こわれた腕環】【中学生以上】

2024年3月17日

広告

ゲド戦記 Ⅱ こわれた腕環 アーシュラ・K・ル=グウィン/作 清水真砂子/訳 岩波少年文庫

テナーは、「名もなき者たち」に捧げられ、アチュアンの大巫女アルハとなった。それまでの人生も家族も名前も失った幼い少女は、古い墓地を守る神殿で、大巫女として生きることになったのだが……

この本のイメージ 細密な世界観☆☆☆☆☆ 魔法☆☆☆☆☆ 哲学☆☆☆☆☆

ゲド戦記 Ⅱ こわれた腕環 アーシュラ・K・ル=グウィン/作 清水真砂子/訳 岩波少年文庫

<アーシュラ・K・ル=グウィン>
アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula Kroeber Le Guin、1929年10月21日~2018年1月22日)は、アメリカの小説家でSF作家、ファンタジー作家。「ル・グィン」、「ル=グイン」とも表記される。代表作は「闇の左手」「ゲド戦記」のシリーズ。「西の善き魔女」の異名もある。

 ゲド戦記の原題は、Earth Sea. 2巻のタイトルは、The Tombs of Atuan(アチュアンの墓地).原書の初版は1971年、日本語版初版は1976年です。

 わたしの若い頃には、「ゲド戦記」「ナルニア国ものがたり」「指輪物語」が世界三大ファンタジーと呼ばれていました。どれも細密な世界観で異世界の歴史が語られる、深い物語です。これらの物語が書かれた時代には、異世界を舞台にしたクロニクルものはたいへん珍しく、多くの作家に影響を与えました。

 とくに、第1巻「影との戦い」においての、魔法に関する設定━魔法は専門の学院で学び、学位を得て魔法使いになる━などは、のちに「ハリー・ポッター」をはじめとして数々のファンタジーが採用しています。

 第2巻の主人公はアルハ。真の名はテナー。

 彼女は、5歳のときに家族も名前も奪われ、アチュアンの墓地を守る神殿で、「名もなき者たち」と呼ばれる古い存在を祀る大巫女として生きることになります。
 アルハはアチュアンをつかさどる代々の大巫女の名でした。

 墓地は神殿の地下の迷路の奥に存在し、アルハは代々、その地下の迷宮を覚え、守るのが役目でした。ところがある日、外部から男が侵入します。その男はどうやら魔法使いらしい。アルハは彼に興味をもちますが……

 と、いうのがあらすじ。

 全体的な物語の流れに、「プリデイン物語」の第一巻「タランと角の王」と共通点があります。地下の墓地と大迷宮、囚われた強い魔力を持つ巫女姫、迷宮の大崩壊などなど。

 「タランと角の王」の初版が1964年(「プリデイン物語」の完結は1968年)、この物語の原書「アチュアンの墓地」の雑誌初出が1970年ですので、どちらもアメリカの作家ですし、おそらく、ル=グインが「プリデイン物語」からインスパイアされたのだと思います。

 キャラクター的にも、「プリデイン物語」のダルペン、エイロヌイ王女と「ゲド戦記」のオジオン、テナーにも共通点が多いのです。
 「プリデイン物語」のエイロヌイ王女の設定はかなり魅力的で、読者に「もっと彼女の物語を読みたい」と思わせる少女だったので、ル=グインがエイロヌイ王女を自身の世界観で膨らませて深い物語を書きたいと言う気持ちになったとしても、うなずけます。

 また、これらの物語の、「王宮の地下には王家代々の墓地があり、そこは巨大な地下迷宮で守られている」と言う設定は、後の多くのファンタジーに影響を与えました。地下の王家の墓地と迷宮は今でも様々なファンタジーに登場します。

 今回、1巻の主人公であるゲド(ハイタカ)は登場しますが、主人公はあくまでテナー。これは彼女の心の物語です。

 人生すべてを、名前すら奪われてアチュアンの大巫女として生きてきたテナーが、自分の人生を取り戻します。
 第1巻で、力を求めたハイタカは、古い、闇の存在を呼び出してしまいました。
 2巻のテナーは、自分で求めたのでもないのに、古い、闇の存在に仕える大巫女として育てられます。ふたりの人生は非常に対照的に描かれています。

 この物語でル=グインが伝ようとしたのだろう言葉がラスト近くにあります。

ここからネタバレ 平気な方だけクリック

 彼女が今知り始めていたのは、自由の重さだった。自由は、それを担おうとする者にとって、実に重い荷物である。勝手のわからない大きな荷物である。それは、けっして気楽なものではない。自由は与えられるものではなくて、選択すべきものであり、しかもその選択は、かならずしも容易なものではないのだ。坂道をのぼった先に光があることがわかっていても、重い荷を負った旅人は、ついにその坂道をのぼりきれずに終わるかもしれない。(引用P233)

 いままで大巫女として、神殿のならわしに従って生きていればいいだけだったテナーが、生まれて初めて「自由」を手にします。それは、自分で選択し、自分で決定してゆく人生のはじまりでした。
 自由は、与えられるものではなく、「担う荷物」である、と言う表現が印象的です。

 1970年というのは、まだまだアメリカでも女性には大きな決定権がなかった時代でした。「プリデイン物語」のエイロヌイ王女は、嫌々ながらも「貴婦人教育」を受けていた(貴婦人教育をくだらないと思っているだけでも、型にはまらない新しいヒロイン像とされた)ことから、ル=グインが彼女をモチーフにしてどのように膨らませて物語を作りたかったのかが見えてきます。

 女性だけでなく、男性にとっても、誰かがすべてを決めてくれてルールどおりに生きる人生は、たとえつらいことがあっても気楽なところもあります。すべてを自分自身で決める自由は、一見気楽には見えますが、たしかにル=グインの言うように「重い荷物」なのです。

 しかし、志なかばで倒れることがあっても、自由という荷物を担って坂道をのぼる旅人の人生を選択しよう、とル=グインは語りかけます。おおう、剛速球ですね。

 後の多くの作家、多くのファンタジー作品に、多大な影響を与えた名作です。
 まだの方は、この機会にぜひ。このシリーズは電子書籍もあります。

 外出できないときは、家の中で読書がおすすめです。
 こんなときにしか出会えない、静かで深い物語をどうぞ。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 一箇所だけ、墓所に忍び込んだ囚人が登場するシーンで、残酷な描写がありますが、他はほとんどありません。「そういうシーンがあるのだな」と身構えていればOKなら、おすすめです。

 非常に哲学的な物語なので、HSPHSCのほうが、多くのメッセージを受け取れると思います。

 

商品紹介ページはこちら

 

 

お気に入り登録をしてくださればうれしいです。また遊びに来てくださいね。
応援してくださると励みになります。

にほんブログ村 本ブログへ

広告