【ぼく、デイヴィッド】かぎりなく純粋な少年が周囲を幸せにする奇跡の物語。エリナー・ポーターの描く、音楽の申し子の物語【小学校高学年以上】

2024年1月25日

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ぼく、デイヴィッド エリナー・ポーター/作 中村妙子/訳 岩波少年文庫

デイヴィッドは山の上の小さな家で大好きなお父さんと二人で暮らしていました。でも、お父さんはあるとき、病気で死んでしまったのです。あまりにも純粋なデイヴィッドを置いて…

この本のイメージ 純粋☆☆☆☆☆ しあわせとは☆☆☆☆☆ 美しさとは☆☆☆☆☆

ぼく、デイヴィッド エリナー・ポーター/作 中村妙子/訳 岩波少年文庫

「少女ポリアンナ」のエリナー・ポーターの名作です。

 まず申しますと、あらゆる少年少女におすすめです。とくに美術や音楽など、芸術、美しいものが好きな子供に。そして大人、とくに女性におすすめの本です。

 デイヴィッドは、4歳から6年間、大好きなお父さんと山の上の小さな小屋で二人だけで歌ったりヴァイオリンを弾いたりして暮らしていました。わけあって、お父さんは、デイヴィッドに、美しいものしか見せず、美しいものしか教えませんでした。戦争や諍いなど、世の中の醜いものはできるだけ遠ざけ、大自然と父親の愛と音楽だけを与えて育ててきました。

 しかし、あるとき、お父さんは重い病にかかってしまいます。
瀕死のお父さんは、最後の力を振り絞ってデイヴィッドを連れて山を降り、とある農場の納屋で死んでしまいました。

 お父さんのポケットの中には、こんな手紙がありました。

 デイヴィッドを世の中に返す時がきたようです。そう思って家を出たのですが、体の具合がおもわしくありません。もしも予想以上に早く死の手がわたしをとらえたなら、わたしがやりかけたことをほかの人に完結してもらわなければなりません。どうか、デイヴィッドにやさしくしてやってください。あの子はよいもの、美しいものしか知りません。罪とか、悪についてはなにも知らないのです。(引用)

 そして、お父さんは、デイヴィッドにも手紙を残していました。長い手紙でしたが、デイヴィッドに対して、大切なことはふたつ。

 この世界はとても広くて美しいところだから、いつかお父さんがいる場所にデイヴィッドが来るときに、その美しさについてヴァイオリンの調べによって聞かせてほしい。

 そして、今いる場所がもし、美しく感じられないとしたら、おまえの力で美しく変えるように力を尽くしなさい。

 お父さんとの別れで悲しんでいたデイヴィッドは、この手紙を読んで瞳を輝かせます。「これからどうすればいいか、お父さんが教えてくれた。もう、だいじょうぶ」

 周囲の大人たちは、わけがわかりません。でも、デイヴィッドは、お父さんの言うとおり、周囲を変えはじめるのです。その純粋さと音楽の力で。

 デイヴィッドのお父さんが命を落とした納屋の農場主はホリーさんという生真面目なピューリタンで、娯楽や楽しみはけしからんと言う質実剛健なおじさんでした。
妻のエレンもそんな夫とあまり価値観のか変わらない人でしたが、何年か前に家を出て行った息子、ジョンのことを考えると寂しい日々を送っていました。

 自分の名字すら知らないデイヴィッドは、偶然の流れでこの夫妻に引き取られることになります。デイヴィッドは、ホリーさんの農場の仕事を手伝いながら、周囲の人たちと交流を深めていきます。

 目の見えないジョー、人知れず何か悩みを抱えている「バラの女王」、都会で勉強し働いていたのに身体を壊してしまったジャック……様々な人たちがデイヴィッドと交流し、彼の純粋さと音楽の力で変化していくのです。

 物語が進むと、デイヴィッドはお父さんから高度な教育を授けられていたことがだんだんわかってきます。ヴァイオリン、ラテン語、フランス語、柔術など……お父さんはいったい何者だったのでしょうか。

 終盤近く、デイビィッドは重い病にかかります。倒れたデイビィッドのもとに、たくさんの村人たちが集まってきます。彼はポリアンナのように、彼自身の持つ「音楽の力」でたくさん人たちを救っていたのでした。

 そして…ついにデイヴィッドの謎が明かされるのです。

 最後は、ホリーさんは大切なデイヴィッドを、泣きながら彼のいるべき広い世界へと送り出します。一年に一回はかならず帰ってくるという約束で。

 最初の、お父さんとの別れは涙無しには読めないのですが、だんだんとデイヴィッドが周囲を幸せにしていく過程を読むうちに、心が温かくなっていきます。

 純粋な少年が周囲を明るくする話だと「小公子」が有名ですが、デイヴィッドは「音楽に育てられた野生児」(でも言葉遣いや礼儀はきちんとしてる)みたいな感じで、セドリックよりは、「ジャングル・ブック」のモウグリに近いものがあります。

 そして、作者エリナー・ポーターの「想像した良いことはいつか現実になる」というポジティブなポリシーや、「音楽とは内側の目でみた美しさを外に向けて表現するもの」と言ったテーマが作品を通して語られ、読んでいる人をじっくりと励ましてくれるのです。

 いろんなことに心疲れた方や、頑張る人、働く人、とくに女性におすすめの児童小説です。とにかく、デイヴィッドが純粋で可愛らしく、彼が少しずつ道を拓いていく様は励まされます。

 彼は、澄み切った心で周囲の人と接しているだけなのに、周りがどんどん変化していくのです。

 今、不安なことが多く、重苦しい空気に包まれたときです。ちょっと心がくたびれたら、この本を読んでみてください。そして、穏やかなクラシックを聴いて少しだけゆっくりする時間を作ってみてください。

 デイヴィッドの言っていることがわかるかもしれません。ちなみに、わたしはちょっぴりだけわかりました。でも、その「ちょっぴり」でも、すごく癒されたのです。
おすすめです。

※一時期入手困難でしたが、再版されたようです。おすすめです!

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 おすすめの本です。デイヴィッドの純粋さに救われます。大き目のマグカップにあたたかいミルクティーをご用意くださいね。お好きなクラシック、ヴァイオリン曲をお供に、ぜひどうぞ。

「少女ポリアンナ」のレビューはこちら

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