【グリーン・ノウ物語】川を下るファンタジックな冒険。グリーン・ノウでの休暇の日々【グリーン・ノウの川】【小学校中学年以上】
どうやら、今、グリーン・ノウは大おばあさまが長期でお留守の様子。そのあいだ、やしきを借りたのは、ビギン博士とミス・シビラという二人の女性でした。二人はやしきに三人の子どもたちを招待します。
この本のイメージ 夏休み☆☆☆☆☆ 川下り☆☆☆☆ ファンタジー☆☆☆☆☆
グリーン・ノウの川 グリーン・ノウ物語 3 ルーシー・M・ボストン/作 亀井俊介/訳 評論社
<ルーシー・M・ボストン>
英国の女性児童文学作家。ランカシャー州(現マージーサイド州)サウスポートにルーシー・ウッドとして生まれ、サセックス海岸の女子寄宿学校に学ぶ。1917年ハロルド・ボストンと結婚、夫と別れた後、1939年にケンブリッジシャー州ヘミングフォード・グレイのマナーハウスに転居。60歳を過ぎてから「グリーン・ノウ」シリーズを書き始める。『グリーン・ノウのお客さま』でカーネギー賞を受賞。林望が英国に留学した際、ボストンの家に下宿していたことでも知られる。(Wikipediaより)
グリーン・ノウシリーズ三巻目です。
今回のお話には、残念ながらトーリーとオールドノウ夫人は出てきません。どうやら長期で旅行に出ているらしいのです。そのあいだ、やしきを借りたのは、モード・ビギン博士とミス・シビラ・バン。
ビギン博士は、どうやら考古学とか民俗学とかそういう研究をしていて、落ち着いて研究するためにグリーン・ノウに来たようです。そして、このやしきが二人で過ごすには充分すぎるほど広いと知ったときに、ここに子どもを招待しようと思い立ちました。
このビギン博士はちょっとかっこよくて、ふだんは研究に熱中してるのですが、
この人はいつも夢のような計画を思いつき、思いつくとすぐさま実行にうつすたちの人だった。ただし、そのあとすぐまた書物にもどり、計画のほうはかってになりゆきにまかせるというたちであった。(引用)
と、こういう方なんですよ。これって、なかなか、小さな子どもの保護者として理想的ですよね?そして、博士はこう言ったわけです。
「難民児童夏季休暇援助会に手紙を書いて、子どもたちを呼んでやりましょう」
と言うわけで、難民の子どもをふたりと、彼らが困らないようにめいの娘のアイダを呼び寄せることにしました。
これは、オスカー、ピン、アイダの三人の、幻想的な夏の冒険の物語です。
今回は、あまりにも現実的な出だしだったので、いつものグリーン・ノウじゃないのかしら。大自然に囲まれたマナー・ハウスに遊びに来た三人の子どもたちの夏休み物語なのかしら、と思って読んでいましたが、ふつうに「いつもの」グリーン・ノウだと、だんだんわかってきます。
「難民の子どもたち」という、あまりにも重苦しい現実的な苦しみを抱えた子どもが二人登場しますが、グリーン・ノウは、相変わらず幻想にあふれていて、夢か幻かわからないものを子どもたちに見せてくれます。
子どもたちは、川に囲まれたグリーン・ノウの地図を描き、そこに自分たちが出会った不思議な出来事をもとに、自分たちだけの名前を書き記していきます。「フクロウの宮殿」とか「飛馬島」とか。
物語を読んでいて気がついたのですが、今回のテーマは「世の中からはみ出た人たち」でした。
オスカーとピンは難民ですし、ビギン博士も「古代には巨人がいた」と言う突拍子もない学説を信じる考古学者です。冒険の途中で出会う世捨て人や、巨人のテラックなど、登場する人物たちは、既成の世の中の常識から何らかの形ではみ出ている人たちばかりです。
ところが、「はみ出ている者どうし」だったら、万事うまくいくかというと、そんなこともなく、それぞれが善意であっても、すれ違うし、わかりあえないし、もめごとは起きてしまうのです。
そして、「巨人の存在」を信じるビギン博士ですら、自分の固定観念に凝り固まって、人生を賭けて追い求めていたものが目の前にあっても、気がつかないのでした。
「こうあるべき」「こうであるはず」と言う先入観、思い込み……そういったガチガチに固まった物事と、子どもたちがやしきをこっそり抜け出して遭遇する不思議な出来事の数々との対比が、浮かび上がってきます。
今回のお話は、こうでこうでこうなりました、みたいな、わかりやすい起承転結のお話ではなく、スパンと終わっています。でも、それだけに余韻があるのです。
そして、だからこそ、一夜の夢のような気持ちにもさせてくれます。
今年の夏はいつもとはちがう、あまりお出かけできない夏です。本を通じて、遠い国のマナーハウスにお出かけして、カヌーで川下りした気分を味わってみるのはいかがでしょうか。
すずしくて、楽しくて、ふわんとした氷菓子みたいな幻想物語です。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。今回はオカルトでもありません。幻想的なファンタジー小説です。川下りが涼しげで、さわやかな気持ちになれます。また、ミス・シビラが料理上手で、とにかくおいしそうな料理とお菓子がどっさり登場します。
読んだら絶対におなかがすくと思うので、イギリス紅茶とスコーンやビスケット、パウンドケーキなどをご用意ください。
クリームをたっぷり添えるのがおすすめです。
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