【黒ねこサンゴロウ旅のつづき】孤独な船乗り黒ねこハードボイルド旅の完結編【最後の手紙】【小学校低学年以上】

2024年3月20日

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最後の手紙 黒ねこサンゴロウ旅のつづき 5   竹下文子/文 鈴木まもる/絵  偕成社

おれの名はサンゴロウ。ひとりで自由気ままに旅をする船乗りだ。けれど、そんなおれでも悩むときはある。それは、おれの失われた記憶のことだ。おれは本当は何者なのか……

この本のイメージ サンゴロウの秘密☆☆☆☆☆ ハードボイルド☆☆☆☆☆ 完結編☆☆☆☆☆

最後の手紙 黒ねこサンゴロウ旅のつづき 5   竹下文子/文 鈴木まもる/絵  偕成社

<竹下文子>
竹下 文子(たけした ふみこ、1957年2月18日~)は 日本の児童文学作家。夫は画家の鈴木まもる。福岡県生まれ、東京学芸大学教育学部卒業。大学在学中より執筆を行う。1978年「月売りの話」で日本童話会賞受賞。1979年『星とトランペット』で第17回野間児童文芸推奨作品賞受賞。1985年『むぎわらぼうし』で絵本にっぽん賞受賞。1994年『黒ねこサンゴロウ<1>旅のはじまり』『黒ねこサンゴロウ<2>キララの海へ』で路傍の石幼少年文学賞受賞。2009年『ひらけ!なんきんまめ』で産経児童出版文化賞フジテレビ賞受賞。2020年『なまえのないねこ』で日本絵本賞、講談社絵本賞受賞。(wikipediaより)

<鈴木まもる>
1952年、東京都に生まれ。「黒ねこサンゴロウ」シリーズで赤い鳥さしえ賞を、『ぼくの鳥の巣絵日記』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。

 竹下文子先生と鈴木まもる先生のゴールデンコンビ、黒ねこサンゴロウシリーズの続編シリーズです。初版は1996年。

 お話が、一応、一話完結の形にはなっていますが、全体の構成がしっかりしていて大きな流れは続いているので、まずは「黒ねこサンゴロウ」の第1巻、「旅のはじまり」から、順番にお読みになることをおすすめします。

↓「黒ねこサンゴロウ 旅のはじまり」のレビューはこちら

 今回のお話は、長い長い「黒ねこサンゴロウ」シリーズの完結編。
 サンゴロウの失われた記憶の秘密に迫ります。

 かつて、サンゴロウは北の海でひどい嵐に遭遇したらしく、そのときの記憶を失っていました。そのため、彼は自分自身が何者か、知らなかったのです。

 かつて彼を助けてくれた「ウミガメ号」カジキ船長の孫娘ミサキが北の海で遭難したと知り、因縁の北の海へと救出に向かいます。

 そこには、彼を待ち受ける敵がいて……

 というのがあらすじ。

 物語の中で、「霧の灯台」で出会った灯台守の話が登場し、彼の思い出をめぐって、サンゴロウとナギヒコが意見を戦わせます。

 あの灯台守のように、みずからの命を捨てても誰かを助けなければならないときもあると考えるサンゴロウと、自分が死んでしまってはなんにもならないという医者のナギヒコ。

 サンゴロウは、あの灯台守の気持ちに共感していたのでした。しかし、サンゴロウがそちらに「引っ張られている」のを感じ、ナギヒコは激しく反論します。

 どちらの考えにも正しさがあり、一方が間違っているとは言い切れない、難しい問題です。しかし、サンゴロウの考え方、生き方が後半で遭難したミサキを助ける決断をさせるのでした。そうして北の海へ漕ぎ出したサンゴロウに迷いはありません。

 しかし、ミサキを助けに行った先で、自分の過去をつきつけられたサンゴロウは、自由に生きることは、何かを捨てることだと思い知らされます。それでも行くのか、たくさんのものを置き去りにしても……

 人生とは、誰かのために自分を犠牲にすることもある、一方、自分の自由のために誰かを犠牲にすることもある……

 自分とはなんなのか、自分はどう生きるべきなのか、人生とはなんなのか、自由とはなんなのか……
 最終巻はかなり哲学的な内容です。

 字は多くて読みやすく、ひらがなか多めで、ごく簡単な漢字以外には振り仮名がふってあります。厳密に言うと総ルビではありませんが、できれば小学校低学年から。しかし、内容はかなり深い。小学校低学年向けの物語で、ここまで掘り下げたものは珍しいと思います。

 それに、主人公のサンゴロウは、ニヒルなハードボイルド。ねこが主人公なのに、そして、子供向けなのにニヒルだのハードボイルドだのというのもどうか、と言う方もいらっしゃるかもしれませんが、わたしは、「ハードボイルドは若者の特権」だとこのシリーズの記事を書くたびに申し上げています。(そろそろしつこい)

 この歳になると、物語としては楽しめても、イマイチ乗り切れないのがハードボイルドというジャンル。それは、自分が年寄りになると、年寄りってそんなに渋くもないしかっこよくもないよねえ、と思うからなんですよ。

 でも、サンゴロウはドジな三枚目の要素が一ミリもなく、あくまで渋い、ニヒルなマドロスさん(この言葉も古い)。最近は、なかなか見ないキャラですよ。昔は、けっこう流行りましたけども。「宇宙海賊キャプテン・ハーロック」とか。(だから古いんだって)

 また、世界設定や裏設定がしっかりしているので、それらをあれこれと想像しながら読むのも楽しい。おそらく、物語として書かれている何十倍ものお話が、裏に流れていると思います。児童書ですが考えさせられることが多く、大人でも楽しめます。

 一応、この巻でシリーズ完結となっていますが、ここまでしっかりした世界設定ですし、人間のケンやミリとの交流の今後も知りたいところなので、続編が書かれるようなら、ぜひとも読んでみたい!

 また、鈴木まもる先生の絵が、物語にマッチしていてすばらしいのです。二足歩行のねこなのに、ちゃんとプロポーションがねこで、そして、ねこっぽいかわいらしさがある。なのに、渋さやかっこよさもあるのです。ねこなのに。そして、ニヒルなハードボイルド。ねこなのに。

 表紙のデザインもクラシックでおしゃれです。読み終わった後、インテリアとして飾っても。

 男の子の夢とロマンがいっぱいの、船乗りの物語です。哲学的な要素もあり、心理描写が深いので、女の子も共感を持って読めると思います。

 この季節、おうち時間に親子で楽しむのにぴったり。シリーズは「サンゴロウ」「旅のつづき」それぞれ五巻ずつ、ぜんぶで十巻なので、かなり楽しめます。冬休みに、一気読みしてみてはいかがでしょう。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はほとんどありません。ほのぼのファンタジーあり、サスペンスあり、哲学的なお話ありで、お話の長さに反して驚くほど読み応えがあります。

 HSPやHSCの方のほうが多くのメッセージを受け取り、深く感じ取ることができるでしょう。さらっと読んで楽しむことも、深く読み込むこともでき、いろんな楽しみ方ができる本です。

 長い物語を読み始めのお子さまに。男の子にも女の子にもおすすめできるファンタジーです。

 

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