【マローンおばさん】エリナー・ファージョンの詩を小さな本に。大人のための絵本。【子どもから大人まで】

2024年3月28日

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マローンおばさん エリナー・ファージョン/作 エドワード・アーディゾーニ/絵 安部公子・茨木啓子/訳  こぐま社

マローンおばさんは森の奥で一人貧しく暮らしていました。ある冬の月曜日、マローンおばさんの家の窓を一羽のすずめがつつきます。おばさんは、窓を開け、すずめをいれてやりました……

この本のイメージ 無償の愛☆☆☆☆☆ 居場所☆☆☆☆☆ 大人のための絵本☆☆☆☆☆

マローンおばさん エリナー・ファージョン/作 エドワード・アーディゾーニ/絵 安部公子・茨木啓子/訳  こぐま社

<エリナー・ファージョン>
エリナー・ファージョン(Eleanor Farjeon,1881年2月13日-1965年6月5日)は、イギリスの児童文学作家、詩人。父は流行作家、母はアメリカの有名な俳優の娘。正規の教育をうけておらず、家庭で教育を受け、膨大な父の蔵書と、家に訪れる数多くの芸術家達の会話によって、知識と想像力を養った。著書に「ムギと王さま」「リンゴ畑のマーティン・ピピン」など。 

<エドワード・アーディゾーニ>
(1900-1979) イギリスを代表する画家。代表作「チムとゆうかんなせんちょうさん」をはじめとする絵本作家として、また、ファージョンの「ムギと王さま」「年とったばあやのお話かご」など挿画画家としても高い評価を受けた。1970年にはロイヤル・アカデミー会員に選ばれた。

<安部公子>
1948年に神戸に生まれる。上智大学文学部英文学科卒業。現在は、(財)東京子ども図書館勤務。翻訳に「ワンダ・ガアグ 若き日の痛みと輝き」(こぐま社)、共訳で「マローンおばさん」(こぐま社)がある。

<茨木啓子>
1942年、満州に生まれる。明治大学文学部仏文科卒。文庫、学校、図書館等で20年にわたってお話を語っている。

 「ムギと王さま」で知られるエリナー・ファージョンの詩を小さな本にした絵本。原題はMRS.MALONE. イギリスでこの詞が書かれたのは1950年、イラストは1962年、日本での初版は1996年です。

 恥ずかしながら、わたしは、このブログをはじめるまでエリナー・ファージョンと言う作家を知りませんでした。「ムギと王さま」を読んで、その繊細で不思議な美しい世界観に触れ、あっと言う間に惹きこまれたのです。

 エリナー・ファージョンは、学校教育を受けておらず、膨大の書物に囲まれて自宅で教育を受けました。彼女の父は作家、母はアメリカ人女優の娘で、家には書棚に入りきれないほどの本があるのと同時に、著名な作家や芸術家が出入りしていました。
 エリナーは、自宅の本を片端から読みながら、父や父の知人たちと会話することで、教養を養いました。

 そのような生い立ちのエリナーの作品には固定観念に囚われない、摩訶不思議な雰囲気があります。重力の無い浮遊感と言いますか、それがえもいわれぬ魅力になっています。

 この絵本は、マローンおばさんと言う貧しい一人のおばあさんが、彼女の小さな家に、次々と動物たちを迎え入れるお話。

 月曜日には、凍えたすずめ。火曜日にはやせ細った猫、水曜日には六匹の子狐を連れた狐。木曜日には疲れきったロバ。金曜日にはクマが……

 そして、土曜日に……

 貧しいおばさんの小さな小屋に、すずめも、猫も、狐たちも、ロバも、クマさえも迎え入れられ、パンくずやミルク、肩掛けなどを分けてもらい、ぬくぬくとすごすさまは、絵本「てぶくろ」を思いださせます。

 本来なら喰うか喰われるか、食物連鎖の掟のなかで敵同士になるような動物たちが、マローンおばさんの家で仲良くぬくもります。

 どこにも居場所がなかった動物たちに、「おまえたちの居場所はここにあるよ」と言って、扉をあけてくれるのです。
 そして、日曜日に、マローンおばさんは、おばさんのための輝ける場所に行くのでした。

 少し切ない、短い詩です。

 最も大切なことは、このような貧しく愛情深い人の心に宿っているのかもしれません。マローンおばさんは、自分自身の生活もままならないのに、持っているわずかなパンやミルク、肩掛け、ぼろの荒布、お茶もすべて分け与えました。「あんたの居場所くらいここにあるよ」と言って。

 マローンおばさんのもとでは、猫はすずめを食わず、狐は猫を襲わず、クマはロバを食べようとしません。おばさんは「次から次へと家族が増えた」と言って喜びます。

 伝染病や不況、天変地異、戦争と暗いニュースが続きます。
 吹雪の中、歯を食いしばって歩くように、わたしたちは時に心を殺して生きているけれど、そんな乾いた心にあたたかい何かがしみこんでくるような小さな本です。

 文章の量は少ないけれども、振り仮名がまったく無いので、これは大人のための絵本なのではないかと思います。または、読み聞かせに。

 つらいことが続くときに、心が磨り減って疲れきってしまったときに。または、そんなふうに頑張っている身近な方へのプレゼントにおすすめです。

 この混沌とした世界を救える人がいるとしたら、それは偉大な英雄などではなくて、マローンおばさんのような、名もない、貧しくてもどこまでも懐が広い、何もかもを包み込んでくれるような深い愛情の持ち主なのかもしれません。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 おすすめです。少し物悲しい話ではあるのですが、心温まる物語です。HSCやHSPの方のほうが多くのメッセージをうけとれるでしょう。
 ただし、身近な人の死を体験したばかりのときなど「死」について耐性のないときは、読むのを避けたほうがいいかもしれません。「もしかしてそういう話なのか」と前もってわかっていれば読める方ならおすすめです。いい本です。(ただし、振り仮名がないのでご注意ください)

 

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