【チョコレートのおみやげ】バレンタインシーズンに! かわいくて、ちょっとおしゃれなファンタジー童話【小学校中学年以上】
「時間がとけていくみたい」。チョコレートを食べながら、みこおばさんは不思議なお話をしてくれた。それは、風船をうる男とニワトリのお話。不思議なお話の結末は……チョコレートを食べているあいだだけの魔法の時間へようこそ。
この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ チョコレート☆☆☆☆☆ ハッピーエンド☆☆☆☆☆
チョコレートのおみやげ 岡田淳/文 植田真/絵 BL出版
<岡田淳>
1947年、兵庫県生まれ。38年間小学校の図工教師を務め、その間から児童文学作家として、また、絵本、マンガ、翻訳などさまざまな分野でも活躍。「放課後の時間割」で日本児童文学者協会新人賞、「雨やどりはすべり台の下で」で産経児童出版文化賞、「願いのかなうまがり角」(いずれも偕成社)で同賞フジテレビ賞、「扉のむこうの物語」で赤い鳥文学賞、「こそあどの森」シリーズ(ともに理論社)で野間児童文芸賞など、受賞作多数。ほかの作品に「図書館からの冒険」(偕成社)、マンガ「プロフェッサーPの研究室」(17出版)、絵本「ヤマダさんの庭」(BL出版)、エッセイ「図工準備室の窓から」(偕成社)など。
<植田真>
1973年、静岡県生まれ。画家。絵本や装画を多く手がける他、絵本制作、ライブペインティング、音楽など幅広く活動。「マーガレットとクリスマスのおくりもの」(あかね書房)で日本絵本賞を受賞。絵本に「スケッチブック」(ゴブリン書房)、「まじょのデイジー」(のら書店)、「ぼくはかわです」(WAVE出版)、「おやすみのあお」(佼成出版)、「りすとかえるとかぜのうた」(BL出版)、挿画・挿絵に「セロ弾きのゴーシュ」(宮沢賢治/原作 あすなろ書房)、「リスのたんじょうび」(トーン・テレヘン/作 野坂悦子/訳 偕成社)など多数。
バレンタインシーズンなので、チョコレートをテーマにした本をご紹介しています。
「こそあどの森」や「二分間の冒険」で知られる岡田淳先生のメルヘンファンタジー。2021年初版です。
48ページのとても短い童話なのですが、植田真先生の挿絵がふんだんに入っており、美しい仕上がりになっています。BL出版さんの本はいつも装丁がおしゃれです。
お話は、劇中劇のような形になっており、
神戸の異人館街をみこおばさんと一緒に歩くゆきちゃんが、公園でチョコレートを食べながら、おばさんと語る創作童話です。
お話は……
あるところにニワトリと風船売りが暮らしていました。
ニワトリは風船売りの相棒で、毎朝、屋根の上に登って風向きを確認し、それを風船売りに教え、風船売りはニワトリの言葉に従って、風の強いときは公園で、風のない日は港で風船を売り、風船はよく売れました。
ある日、ニワトリはちょっとしたいたずら心で嘘の風予報を風船売りに教えてしまい、その結果、風船売りは帰ってこなくなります。
ニワトリは、何も食べられなくなるほど心配し、後悔し、そして……
……と、いうお話。
このお話、最初はみこおばさんが完結させてしまうのですが、それを聞いて「ニワトリかわいそうやな」と思ったゆきちゃんが続きを考えました。それがとても優しくて、かわいいお話なのです。
文章は子ども向けで読みやすいのですが、振り仮名があまりなく、自力で読めるお子さま向け。
テーマとしては大人向けの童話の匂いもして、味わい深いのですが、子どもが読むと深い情緒を感じるかもしれません。とてもいいお話なので、保護者の方が読み聞かせしてあげたり、難しい漢字にだけ振り仮名をふってあげてもいいかもしれません。
「後悔」は、子どもから大人まで、共通して長い間心に残るものです。
むしろ、小さな子どものほうが、よく考えずに行動して失敗してしまうことが多く、毎日小さな後悔と一緒に生活しているのが子ども時代です。
この物語では、軽率に犯してしまったことによって思いがけず大切な人を傷つけてしまい、それによって自分を罰したニワトリの物語をゆきちゃんが幸せな形に作り変えます。
大人は「失敗は取り返しがつかない」と思い、それにたいして子どもは「いや、世界には救いはある」と思う……と言うのもなんだか象徴的。
とてもお洒落で美しいお話ですが、贖罪と救済がテーマなので、読む人の年齢によって、それぞれの深さで感じるものがあるでしょう。
また、「他人が作った哀しいお話の続きを考えてハッピーエンドにする」と言うお話でもあるので、小さなお子さまに創作の楽しさを教える要素もあります。
たいてい、物語を考える人の原点ってそういうものですよね。
わたしも小さな頃、人魚姫やマッチ売りの少女をなんとか助けられないかと頭の中でこねくりまわして考えた記憶があるので懐かしい。
ハイセンスでおしゃれな本なので、プレゼントするのにぴったり。
小学生なら、喧嘩して仲直りしたいお友だちがいたら、その気持ちを後押ししてくれるかもしれませんし、大人なら気まずい友だちに友チョコと一緒にプレゼントするのもおすすめです。
凝り固まったネガティブな心が、チョコレートと一緒にとけてゆくような、そんな優しさに満ちたメルヘンです。
もちろん、自分自身へのプレゼントにも。
甘いチョコレートを食べながら、濃い目のコーヒーをお供にゆっくりページをめくっていると、疲れた心が溶けてゆくようです。
ゆきちゃんのふんわりした関西弁もやさしい。
バレンタインシーズンに、やさしいチョコレートのメルヘンをぜひどうぞ。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はまったくありません。贖罪と救済がテーマの、やさしいお話です。日常の小さな後悔に救いをくれるストーリーなので、HSPやHSCの方のほうがより多くのメッセージを受け取れるでしょう。
心がほっこりとあたたかくなるメルヘンです。
読後は絶対にチョコレートが食べたくなりますので、ちょっと上等の、おしゃれなチョコレートをご用意を。
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