【ハートウッドホテル】ひとりぼっちのモナが家族を手に入れる、動物たちの秘密のホテル。ほのぼの動物ファンタジー完結編【ねずみのモナと永遠のわが家】【小学校中学年以上】
夏のある日、ストロベリーさんというねずみがモナをたずねてきます。ストロベリーさんはモナのお母さんとおそろいのペンダントをしていて、何か秘密がありそう……
この本のイメージ 動物ファンタジー☆☆☆☆☆ ほのぼの☆☆☆☆☆ 家族とは☆☆☆☆☆
ハートウッドホテル 4 ねずみのモナと永遠のわが家 ケイリー・ジョージ/作 久保陽子/訳 高橋和枝/絵 童心社
<ケイリー・ジョージ>
カナダの児童文学作家。ブリティッシュ・コロンビア大学で児童文学の修士号を取得。絵本や読み物を数多く手がけている。邦訳は「ハートウッドホテル」シリーズ(童心社)がある。本書はカナダで高い評価を受けており、第1巻はOLA Best Bets Award Winner, 2016を受賞し、ドイツ、ルーマニア、イスラエル、中国で翻訳出版されている。
<久保陽子>
鹿児島県生まれ。東京大学文学部英文科卒業。出版社で児童書編集者として勤務ののち、翻訳者になる。訳書に「ハートウッドホテル」シリーズ(童心社)「カーネーション・デイ」(ほるぷ出版)「ぼくってかわいそう!」「明日のランチはきみと」「うちゅうじんはいない?」(いずれもフレーベル館)「わたしのペットはまんまるいし」(ポプラ社)などがある。
<高橋和枝>
971年、神奈川県生まれ。東京学芸大学卒業。イラストレーター、絵本作家。2001年、「くまくまちゃん」(ポプラ社)で絵本作家デビュー。作品に「それはすごいなりっぱだね!」(作・いちかわけいこ、アリス館)、「ねこのことわざえほん」(ハッピーオウル社)、「りすでんわ」(白泉社)、「くまのこのとしこし」(講談社)、「もりのだるまさんかぞく」(教育画劇)などがある。
「クローバーと魔法動物」のケイリー・ジョージの動物ファンタジー。原題はHeartwood hotel:HOME AGAINE. アメリカでの初版は2018年。日本語版の初版は2020年です。
お話は、一話完結で、どの巻から読んでもわかるようにはなっていますが、ストーリーに大きな流れがあり、主人公のモナの生い立ちなど、最初から読んだほうがわかりやすいので、まずは「ねずみのモナと秘密のドア」からお読みください。
「ねずみのモナと秘密のドア」のレビューはこちら↓
さて、今回のお話は……
ハートウッドホテルのコックさん、チクリーさんの結婚式でホテルは大賑わい。
でも、コックさんが主賓のため、結婚式のケーキやごちそうの準備はたいへんです。
助けてくれたのはねずみのお客さま、ストロベリーさん。ねずみたちのホテル「ゆかの下ホテル」から来たのです。どことなくモナに似たところがあるストロベリーさん、何かモナと関係があるのでしょうか。
楽しい夏の日が続くと思われていましたが、森の向こうで山火事がおきているという知らせが。だんだんと近づいてくる火を逃れ、ハートウッドホテルのみんなは、ばらばらに避難することになります。
はたして、ハートウッドホテルの運命は?
そして、ストロベリーさんの正体は?
……というのがあらすじ。
動物ファンタジーでは、肉食獣と草食獣、鳥たちが仲良くしたりすることがあることから、生物学的には正しくないと言われることが多いのですが、これは、「様々な人種」「様々な個性の人たち」と言う「多様性」の比喩であり、違う動物たちが仲良くなることそのものを指しているわけではありません。
「ハートウッドホテル」でも、熊やキツネがねずみのモナの味方として登場します。(ただし、このシリーズを通してオオカミだけは悪者として描かれています)
これは、孤独に生きてきたモナがハートウッドホテルを通して自分以外の存在と交流し心を通わせることを学んでゆく成長ストーリーなのです。
生まれてからずっとひとりぼっちで暮らしていたモナは第1巻「ねずみのモナと秘密のドア」でハートウッドホテルにたどりつき、たくさんの動物たちと一緒に暮らし始めます。
そこで、リスのティリーと親友になり、他のホテルクルーたちとお祭りやイベントなどを一緒に楽しむことをおぼえ、小さなジェラシーや劣等感も乗り越えます。
今回は、「もしかしたらほんとうの家族が見つかるのかも?」と言うドキドキ感とともに、「家族とは血のつながりなのか」「それとも一緒に人生を乗り越えてゆく仲間たちなのか」と言う「家とは何か」がテーマになっています。
家とはなんでしょうか。
日本は昔から一族意識が強かったので、昔の人には「家」と言うと親戚一同みたいな感覚があります。それよりももう少し下の世代だと「家」とは憧れのマイホーム、一軒家の住宅の意味が強くなります。その下の世代になるともう住宅ブームは終わっていて、アパートやマンションで暮らすほうが主流になりますから「家」とは家族が暮らす空間のことかもしれません。
ひとりぼっちで暮らしていた木のうろの家を失ってからのモナにとっての居場所はハートウッドホテルでした。
はじめて手に入れた安全な場所、そして共に働く仲間たち。そして頼りになるオーナーのハートウッド氏。
一緒にいる仲間たちは、リス、ヤマアラシ、トカゲ、ハリネズミ、ハチ、アナグマなど、様々な生き物たち。ねずみはモナのほかにはいません。でも、ストロベリーさんのところにはモナと同じねずみたちがたくさんいるのです。
自分とはまったく違う人たちと自分と似たような人たち……はたしてモナはどのような道を選ぶのでしょうか。
自分と似たところがある人には親近感が沸きますし、自分とは違うところがある人には新鮮な魅力があります。どちらを選んでもモナは幸せになれるでしょう。だからどちらを選んでもいいのです。
でも、自分とまったく違う人たちとわかりあうことができたら、きっと世界は広がります。
そしてピンチのときには人は結束して、以前よりずっと強いつながりになります。
小さな木のうろの家を失ってから、モナはたくさんの冒険を乗り越えて、素敵な「家」を手に入れました。
文章は平易で読みやすく、難しい漢字には振り仮名がふってあります。漢字はそれほど多くはないので、小学校中学年から。
とてもよい物語なので、低学年から読み聞かせをしてあげたり、保護者の方が振り仮名をふってあげれば小学校低学年からでも読めると思います。漢字とひらがなの配分は、ひらがな多めで、子どもが一人で読むのにちょうどいい感じ。
人付き合いと心の成長がテーマなので、内向的なお子さまに。モナの成長が段階的に丁寧に描かれていて、感情移入しやすいと思います。
読んでいるとほっこり温かい気持ちになる動物ファンタジーです。
寒い季節の読書にぜひどうぞ。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。人付き合いに不慣れなモナがだんだんと多くの動物たちと交流してゆけるようになる成長ストーリーです。HSPやHSCの方におすすめ。
読後はチクリーさんの「たね入りマフィン」(シードケーキ)が食べたくなるかもしれません。
温かいお茶と、素朴なケーキでひと休み。
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